2015年11月09日
【プレイバック ジャパンカップ vol.2】ショートコースへの変更はジャパンカップを変えたか?
今年、ジャパンカップの舞台となる宇都宮市森林公園コースは台風18号の大雨による土砂崩れで従来のコースが使用できず、ショートコースで争われることになった。この変更が選手たち、そして観戦するファンにどのような影響を与えたのか、あらためて振り返ってみよう。
■ショートコースに変更も、レースの厳しさは同等?
ジャパンカップは昨年までは14.1kmの周回コースを10周し、最終周のみ10.3kmのショートコースを走る総距離151.3kmのレースだった。今年はコースの一部が土砂崩れで使用できなくなったため、ショートコースを14周する144.2kmと約7km短いレース距離で争われることになった。
この結果、激坂の鶴カントリーの上りを通過しなくなったため、勝負どころが古賀志林道のみとなり、レース展開にも影響するのではという予想もあった。
しかし、レースは前半の日本人選手中心の逃げを、終盤に海外プロチームが捕まえて最後の勝負に持ち込むというほぼ例年通りの展開で進んだ。最終的には、4人の小集団スプリントで決着。過去4年のジャパンカップも3人~8人の小集団スプリントで終わっており、そういう意味でも展開に大きな違いはなかったといえる。
ちなみに今年のレースの平均速度は37.0km/hで、昨年は36.8km/h。鶴カントリーがなくなったとはいえ、レースのペース自体も大きく変わっていないことがわかる。
とはいえ、選手たちの間ではショートコース、ロングコースで好みが分かれたようだ。
「鶴を含む周回(ロングコース)より、小さい周回の方が好き。距離は短くなったけど、従来のコースより脚にくる気がする。(古賀志林道を)下ったら、すぐ次の上りが来る。コンビニ(田野町交差点)からずっと上っているイメージ」(新城幸也/日本ナショナルチーム)
「おおまかなレース展開は変わらず、終盤まで位置取りも激しくなかった。ただ古賀志だけでなく、コンビニからのアップダウンもきつい。鶴カントリーがないぶん、イージーな感じがするけど、脚の削られぐらいは今日の方が大きかったと思う」(入部正太朗/日本ナショナルチーム)
「鶴カントリーがなくなった分、楽かなと思ったけど、古賀志を14回上るのできつかった」(青柳憲輝/宇都宮ブリッツェン)
「鶴カントリーの厳しい上りがなくなったので、今日のショートコースの方が走りやすかった」(増田成幸/宇都宮ブリッツェン)
「去年までは上りがひとつ(鶴カントリーが)多かったので、今年のコースの方が少し平坦だと思う。最後まで集団に残る人数が多くなると予想できる」(ホセ・トリビオ/マトリックス・パワータグ)
このように、コースの難易度についても意見の違いは見られた。しかし、鶴カントリーがなくなったとはいえ、古賀志林道を昨年より3回多く上ること、そして田野町交差点からスタート/フィニッシュまで約3km続くアップダウンも選手を苦しめ、全体的なコースの厳しさは昨年とあまり変わらなかったかもしれない。
今年のジャパンカップコース図。下野萩の道の土砂崩れにより右側部分が通行止めになり、ゴール手前にあった鶴カントリーの上りを通らないことになった(コース図提供:ジャパンカップ)
ラスト1km付近の分岐路。昨年までは右折して下野萩の道に入ったが、今年は直進してそのままゴールを目指すルートに
田野町交差点からゴール地点まで約3km続くアップダウンも、難所として選手たちに立ちはだかった
■観戦エリア減少でも観客増 「14周レースが見れる」メリットも。
ショートコースへの変更は、もちろん観戦するファンにとっても影響があった。鶴カントリーの上りは、古賀志林道に続く人気観戦スポットだっただけに、観客数にもダメージがあるのではと予想していた。実際、私の知人でも「今年は古賀志が混みそうだから」という理由で観戦を諦めた人もいた。
コースが短縮されたのは自然災害のためやむを得ないことであるが、それ以外にも観戦について大会側からいくつか制限があった。
ここ数年、観客数の増加とともに、選手と観客の接触事故も少なからず起こっているという。そのため大会側は、昨年から古賀志林道への自転車の乗り入れを禁止。さらに今年は、スタート地点から古賀志林道へ向かう途中にある赤川ダム周辺も「安全確保」を理由にコース左側(一部両側とも)が観戦禁止エリアとなった。
これらすべてを合わせると、昨年より観戦できるエリアがかなり制限されたことになる。ところが、フタを開けてみれば、8万2000人(主催者発表、10月18日のロードレースのみ)と昨年を2000人上回る過去最高の人出となった。
実際にコースを回ってみても、昨年までは古賀志林道と鶴カントリーに集中していた観客が、他のエリアにも脚を伸ばしていた印象があった。
あるファンは「古賀志は混んでると聞いたので、あまり移動せずにスタート・フィニッシュ付近で見ていた」と語っており、やはりそれぞれ観戦場所を工夫していたようだ。
もちろん、一番人気の古賀志林道は今年も多くのファンが詰めかけて盛り上がっていたが、心配された安全面でも大きなトラブルはなかったように見られた。
大会側も事前に対策を施したのが、功を奏したのかもしれない。大会側は「観戦はアウト側で」「安全な位置で撮影」「選手に触れない」など7つの観戦マナーを掲げ、地元・宇都宮ブリッツェンの選手が出演する観戦マナーPVを制作してYOU TUBEで公開、さらに会場の大型ビジョンでも繰り返し上映した。大会パンフレットや無料配布のリーフレットなどにもこの7つの観戦マナーを記載し、注意を促していた。
実際、古賀志林道では例年よりもイン側で観戦するファンは少なかったし、立哨員のスタッフが声を出して注意しなくても、ファンが自主的にマナーを守っている様子が目立った。ファンに話を聞いても「観戦禁止区間は増えたけど、トラブルはなかったと思う」という印象だったようだ。
コースの変更についての反応も「鶴カントリーがなくなって上りが減った分、展開が単調になった」と残念がるファンもいたが、「14周とたくさんレースを見れるのはいい」とショートコースのメリットを歓迎する声も多く聞かれた。
こうした日本のファンの盛り上がりと、マナーのよさは来日したトッププロ選手たちの心も動かしている。優勝したバウケ・モレマ(トレックファクトリーレーシング)は「話には聞いていたけど、ツール・ド・フランス以外でこんなに観客の多いレースは走ったことがないよ」と感激。またジャパンカップ過去2勝のネイサン・ハース(キャノンデール・ガーミン)はツイッターで「真のワールドツアー(ツール・ド・フランスなどを含む世界最高峰のロードレース・シリーズ戦)は、真のファンがいるところで開催すべき。日本はその準備ができている」とつぶやき、ジャパンカップのワールドツアー昇格、日本でのワールドツアー開催を後押しする発言をしている。
日本全体で見ればまだまだマイナースポーツと言える自転車ロードレースだが、たくさんの熱心なファンが応援しているのも事実。その熱が日本中、そして世界へと伝わり、将来どのような形となって実を結ぶのか楽しみでもある。
コース一番の上り、古賀志林道は今年も多くの観客が詰めかけた。コーナーのイン側には観客が立たないなど、観戦マナーも守られていた
古賀志林道への自転車乗り入れ禁止により、スタート地点付近に設けられた駐輪場には来場したサイクリストの自転車がギッシリと並べられていた
上りが始まる田野町交差点など、例年より様々な観戦スポットに観客が分散していたのも今年の特徴だった
今年も沿道には思い思いのスタイルで応援を楽しむファンの姿が。悪魔ファッションの女の子は「サヤちゃん、頑張れ」との黒枝咲哉(日本ナショナルチーム)を声援
海外のロードレースでもお馴染みのチョークアートを描いていた男性。「カンチェラーラ、ハース、フミ(別府)、ユキヤ(新城)を描きました」
キャノンデール・ガーミンのジョササン・ヴォーターズGMのお面をつけて応援する女性たち。「明日(10月19日)、21歳になるモホリッチを応援してます!」。そのモホリッチは見事6位に入り、U23最優秀選手賞を獲得
著者プロフィール
光石 達哉みついし たつや
スポーツライターとしてモータースポーツ、プロ野球、自転車などを取材してきた。ロードバイク歴は約9年。たまにヒルクライムも走るけど、実力は並以下。最近は、いくら走っても体重が減らないのが悩み。佐賀県出身のミッドフォー(40代半ば)。