2019年05月29日
【Granfondo Felice Gimondi Bianchi】グランフォンドを通じて体験したイタリア自転車文化
令和元年、かの10連休真っただ中の5月5日、23回目を数えるグランフォンド フェリーチェ ジモンディが開催された。
ジモンディの名を冠していることからわかるように、タイトルスポンサーはビアンキが務めている。およそヨーロッパ・イタリア人を中心に4000人の参加者を集めるビッグイベントだ。
このイタリア北部の街、ベルガモで行われた当グランフォンドに、サイクルジャーナリストの山本健一(筆者)が走行取材を行った。レポートとともに、ベルガモの地に根付く自転車とその文化をお届けしたい。
ツアーを企画したサイクルヨーロッパジャパンと、日本国内ビアンキディーラーの日本人ツアーに同行する形で参加。総勢12名で北イタリアの山岳レースに挑む。
日本から参加したメンバー
見上げれば、古い町並みの旧市街のある丘がそびえる
ベルガモといえば、ビアンキの拠点の本社工場があり、まさにお膝元だ。
画像:felicegimondi
ベルガモは旧市街の丘がそびえていて、中世の建造物が残っているヨーロッパらしい雰囲気をかもし、ときおり現れる石畳の道などリアルを感じられる。ただし中心部や幹線部の交通量は非常に多く、気を使う場面もある。空気はひんやりとしているが日差しは強い。
前日に試走をかねて丘の上りを走るとじんわりと額に汗がにじむ。
グランフォンドのコースはショート (89.4 km)、ミドル(128.8 km) 、ロング (162.10 km)と3つのコースが用意されている。コースの印象はまさに山岳ステージといったグランフォンドを名乗るにふさわしいコースレイアウトだ。ロングコースを基準に、ショート、ミドルへのショートカットが可能で、いずれもゴールはベルガモ市街となる。
ショートといえども89kmの距離と、標高1000m弱のセルビーノ峠をはじめとした3つの峠は最低でも越える。ロングコースは獲得標高3000mを超える上級者向きといえる。
このコースプロフィールを見ると、厳しい山岳コースであることがわかる。しかしかのジロ・デ・イタリアでもコースとなる峠も含まれており、雄大な景色の中、チャレンジングなライドができるというだけでテンションが上がる。
駅前のメインストリート。ご夫婦だろうか。タンデム車で颯爽と走り抜ける。
ホテルから会場までは市街地を抜けていく。交通量が多い通りも。会場は塀に囲まれた広々とした空間のLazzaretto(旧検疫施設)。
会場には、これまでのフィニッシャーメダルが展示されている。今回のメダルには7がモチーフ。これは3大ツール全てを制した7人の偉人(ジャック・アンクティル、フェリーチェ・ジモンディ、エディ・メルクス、ベルナール・イノー、アルベルト・コンタドール、ヴィンチェンツォ・ニーバリ、クリス・フルーム)を示している。この7人が総合優勝を成し遂げた合計数は51勝にのぼる。
会場のブースで受付を済ます。隣ではビアンキブランドのアクセサリーが販売されている!
エントリーリストの一覧が掲示されている。とりあえず自分の名前を探す。姓にYをあまり使わないのか、数人しかおらず探しやすい。ビアンキ展示ブースでは、日本未入荷(涙)のEバイクのアリアが。言われなければわからない、ロードらしい美しい外観だ。
受付後には、ベルガモ市街にあるOfficina Edoardo Bianchi(いわゆる直営店)。こちらのショップ探訪を楽しむ。
メインヴィジュアルにはロードバイクが鎮座しているが、バラエティに富んだ商品ラインナップだ。E-グラベルロードも人気だという。
ロンバルディア地方らしい中世の雰囲気を醸し出す中で、比較的モダンなアパートメントの一階に店舗があった。正面にはカソリック教会が。そのイタリアン・ハイクオリティを存分に発揮している教会巡りもベルガモ観光には欠かせないだろう。
往年の名選手とひと時の交流
大会前日のウエルカムパーティにも参加。もちろんフェリーチェ・ジモンディ氏も訪れている。現役時代、ジモンディ氏はビアンキを駆り、エディ・メルクス全盛期時代において世界選手権で優勝を遂げるなど、当時のレースシーンを牽引したスター選手だ。グランツールはジロ、ツール、ブエルタの全てに勝利しており、長いプロの歴史でも数少ない三冠制覇を達成している。
穏やかな佇まいで、声をかけられると笑顔で応じている。筆者も撮影終了後に労われたときは驚きと嬉しさが同時に味わえた。
パーティの挨拶ではビアンキのスタッフからマイクを渡されると、大会前夜に参加者をリスペストし、鼓舞してくれる。
各国のデュストリビューターも顔を揃え、会場は熱気に包まれた。しかし、外はあいにくの雨。予報通り、夕方から土砂降りとなってしまった。
「明日は雨っぽいけど、まあ仕方ないよね」的なノリで会場ではアストリアのスパークリングワインが次々と開けられる。
(photo:Bianchi)
我ら日本チームは美酒はそこそこに、炭水化物をしっかりと摂る。トマトソースのパスタには、パルメザンチーズをたっぷり「明日は雨だし気温も低いから多めに脂肪分を摂ってもいいよね」。
ジモンディ氏を囲んで日本チームと記念撮影。猛烈なファンというビアンキストア大宮店の三浦さんのリクエスト。
アストリアのワインにはジロ・デ・イタリアの文字が入る。
バイクにはハンドル部分にナンバーカードを装着する。リストバンドや緊急時の連絡先の記載されたカードの携帯を促される。
トップチューブに貼れるシールは、山岳ポイント、エイドスエーションやメカニックサポートの距離数などが記載されている
ヨーロッパグランフォンドの洗礼をうける!?
レース当日。
スタート前、小康状態からいよいよ雨が降り出し、気温も低くなっていく。
先頭付近で並ぶことができたが、後ろを振り返ると4000人の参加者が並んでいるのだ。
スタートを待つワイズロード横浜店長の山田さん(左)ワイズロード福岡天神 店長の黒田さん(中)ワイズロード名古屋 店長の永野さん(右)
紅一点 スペースゼロポイント店長の岩切さん
セオサイクル西口さん
サイクルヨーロッパ・ジャパン精鋭のみなさん。
スタートの号砲とともに、水浸しの路面に臆することなく先頭が勢いよく加速する。4〜5列に並んでいたが加速がワンテンポ遅れてしまうと、先頭集団はあっという間に見えなくなる。小集団で時速45〜50km/hと、ほぼ全力のスピードで追走し約15分かけてようやく先頭に追いつく。が、ほどなくして最初の峠へ。もちろん脚を使っていて、回復するまもなく上りの中盤で遅れる。しかし下りと平坦でまた集団はひとつになり。峠のたびにこれを繰り返す。
そして前半のメインとなるセルビーノ峠ではいよいよ雪が降りだしてしまった。
十年ぶりの悪天候とのことで、むしろ珍しい体験をしたと誇るべきか。峠に入ってほどなくして寒さとスピードに耐えきれず徐々に遅れる。かじかんだ手では撮影もままならず、車載カメラでの映像にて、臨場感を楽しんでいただきたい。
地元からの参加者がほとんどを占めているが、選手たちの雨対策の装備を見ていると、シリコン製のレイン用ヘルメットカバーを装着している選手が非常に多い。もちろん日本にも輸入されているが、こういったアイテムが存在するということは“このような天候でもライドすることを視野に入れている”ということだろう。事前の情報から低温になることがあらかじめわかっているので、ウインドブレーカーよりも防水素材のウエアを組み合わせているスタイルが多い。ホットオイルなどを塗っていると思われるが、先頭集団では脚を露出している選手も多い。立ち止まらないしレースならそれでもいいだろう。
ヘルメットに積もる雪。唯一の撮影となったセルビーノ峠頂上でのエイドステーション
筆者はレッグウォーマーを装着して走ったが極寒の長雨にさらされると水分を吸って重く感じ、むしろ体温を奪われていくようにも感じた。
しかしながら峠の頂上ではマイナス2度だ。さすがに震えながら走っていたが、しっかり着込んでいる選手はまったく問題がないように見えた。
筆者は最低限の雨対策しか持参しておらず、手足の先の感覚はとうにない。「さすがはイタリアのグランフォンド。これでも続行するんだな」と感心したものだが、セルビーノ峠を下っていると、スタッフによってショートコース方面へ促される。さすがにコース変更だ。楽しみにしていた絶景は見られなかったものの、ジロ・デ・イタリアのような雪の山岳レースをわずかに堪能することができた。
セルビーノ峠の下りでは「そう、今はスキーをしているのだ……。一生のうちのたかだか数十分の出来事だ……」と己にいい聞かせて走った。セルビーノ峠では50人が低体温症に、というニュースもあったが、筆者は奇跡的に低体温にはならず。なんとか300位前後で完走を遂げることができた。
大会までの間、イタリアの美食でしっかりと栄養補給を行ったからか!?
今回レースで使用したビアンキ・オルトレXR4ディスクの性能をは雨天で遺憾なく発揮でき(バイクレビューはVol.2をお楽しみに)、土砂降りの下りで“肝まで冷やす”ことにはならなかったのである。
日本チームには深刻なダメージを受けた人は出ず、全員ゴール地点で再開。人間力を試されるレースとなった。
午前中で終了となったレース会場を後にする。近くのカフェで暖をとるが、ここでいただいたカフェラテの味は忘れがたいものだ。
辛い1日も終わってしまえば笑い話に。今宵のうまい肴となったのである。
(photo:Bianchi)
ちなみに、4065人の頂点に立ったのはFederico Brevi氏。イタリアのグランフォンド界では有名な選手で、数々のレースで好成績を残している。
今回は89kmの山岳コースを2時間30分で走り優勝を遂げた。
翌日は抜けるような青空。ビアンキの本社工場訪問へ
グランフォンドの翌日は、ツアー一行はベルガモ近郊にあるビアンキの本社工場へ。抜けるような青空を見上げるとため息が出てしまう一行だが、今日は晴れなのだからいいよね。
本社工場は農地に囲まれており、遠方からでも確認できる。チェレステをあしらった鮮やかな外観は、燃えるような緑の中にひときわ目立つ。そのモダンな外観は誇らしげだ。新しく改修されたエントランスは、ダイナミックでイタリアンブランドらしい。
……以降はVOL.2をお楽しみに。
著者プロフィール
山本 健一やまもと けんいち
FUNRiDEスタッフ兼サイクルジャーナリスト。学生時代から自転車にどっぷりとハマり、2016年まで実業団のトップカテゴリーで走った。自身の経験に裏付けされたインプレッション系記事を得意とする。日本体育協会公認自転車競技コーチ資格保有。2022年 全日本マスターズ自転車競技選手権トラック 個人追い抜き 全日本タイトル獲得