2021年11月01日
サイクリングサイエンス コラム第七回/時間がなくても強くなれるインターバルトレーニングの極意
神無月を迎え、本格的に昼の時間が短くなってきました。みなさんライトの充電はバッチリですか?私は、先日のロングライドでフロントライト充電がわずかになり、日没アタックを仕掛ける羽目になりました。おかげさまで40kmの自己ベストタイムを更新できました。
さて、前回の連載では、最新のトレーニング手法であるPolarized Trainingをご紹介しました。
前回の復習:Polarized Trainingは、ゆるポタ強度であるLSDとインターバルトレーニングを組み合わせる方法。SSTを代表とする従来の方法よりも効果が高い。
今回はPolarized Trainingの肝であるインターバルトレーニングに関してお話ししていきます。
インターバルトレーニングとは
インターバルトレーニングとは、全力疾走と短い休憩を指定の回数繰り返す練習を指します。
最近ではタバタトレーニングやHIITという名前もおなじみになってきましたが、これらも広義の意味でインターバルトレーニングに含まれます。
インターバルトレーニングの特徴は、全力疾走後、完全に回復する前に次のセットを行う点にあります。
これによって短時間でも身体に大きな負荷を与えることができ、結果強い身体を作ることができます。
インターバルトレーニングの効能
インターバルトレーニングを行うことで、発揮できる最大パワーが増え、より速く走れる身体作りが見込めます。その理由を、生理学的に踏み込んで解説します。
これにはエネルギーの生産場所であるミトコンドリアが関わっています。ミトコンドリアとは細胞の中にある小さなエネルギー工場です。ミトコンドリアは細胞が生きていく上で必要なエネルギーを、酸素を利用して常に作り出しています。運動をして筋肉がさらにエネルギーを必要とする状況になると、工場の稼働数をさらに増やしてどんどんエネルギーを生み出していきます。しんどい運動をしているときは、筋肉内のミトコンドリア工場がフル稼働しているイメージです。
さて、インターバルトレーニングを継続して行なっていくと、このミトコンドリア工場の数が増えてくることが数々の研究で分かっています。つまり、エネルギー工場の数そのものが増えていくので、同じ時間の運動でも作り出せるエネルギー総量が増えていきます。結果として、工場の数が増える前よりも大きなエネルギーを得られるので、出せるパワーも大きくなる、つまり速くなる、というのがインターバルトレーニングの効能です。
おすすめする理由1. 強くなる
インターバルトレーニングをおすすめする理由の一つは、レースに強くなるからです。
前回の連載でも触れましたが、現在の自転車アマチュア自転車競技の中では SST と呼ばれる FTP より少し下の領域でトレーニングする手法が一般的です。
しかし、昨今の研究では、有酸素能力全体を向上させるには、SSTの強度よりも高い強度の練習を組み合わせた方が効果的である結果が、多く報告されています。
インターバルトレーニングの効果を図る指標として、VO2 Maxと呼ばれるものがあります。VO2 Max、別称Maximal Oxygen Uptake(最大酸素摂取量)とは、1分間で体内に取り込める酸素の最大容量を表します。
この能力は先述のミトコンドリア工場に、どれだけ多くの材料を送れるのかを計測したものです。当然ですが、材料を大量に送ることができる人ほど作り出せるエネルギーやパワーは大きくなります。
つまり、VO2Maxを計測することで、貴方のエネルギー工場の最大出力がどれほどかがわかるのです。
レースで勝つためにVO2Maxを鍛えよう
このVO2 Maxが重要な理由は、全力疾走が強い選手の方がレースで強いからです。
ローディーは、レースで勝つためにFTPをあげようと努力される方が多いのですが、このVO2Maxに注目されている方は現状それほどいません(FTPに関しては第2回、第3回連載を参照)。
しかし現実では、レースはペースが一定ではなく、多くの場合勾配やアタックによりペースが大きく変動します。
FTPはあくまで一定ペースを維持する能力を反映したものですが、レースで勝つためにはペースの変動についていける全力疾走のパワーも必要です。この時に、VO2Maxが高くエネルギー生産に余裕のある選手は、多少のスピード変動にも対応できます。
つまり、FTPよりもVO2Maxを上げていくことの方が、ペース変動の激しい自転車レースで勝つにはより重要であると予想されます。
おすすめする理由2: 時間対効果が高い
インターバルトレーニングをおすすめするもう一つの利用は、練習時間が短くてすむ点です。インターバルトレーニングの強度は身体に大きな負荷をかけるため、長時間の練習は推奨されていません。
しかし、短いからといって、効果が劣るわけではありません。
2015年の研究によると、SSTとインターバルトレーニングを比較した場合、どちらもVO2 Maxを上げる効果は認められたのですが、インターバルトレーニングの方がその上昇量が大きくなる結果が出ました。
SSTの練習はインターバルと比較しても長くなりがちです。効果の面でも、練習時間の確保しやすさという点からも、インターバルトレーニングの方に軍杯が上がります。
もちろん練習中のしんどさもインターバルトレーニングの方が上ですが、短時間でしっかりと効果を出せるため、社会人ライダーでも平日にさっと行うことができるのです。
では、短時間ながらもハードなインターバルトレーニングを効果的に実施するためには、どのようなメニューを立てれば良いのでしょうか。次回、忙しい皆さんでも実践できる具体的な方法をお伝えしようと思います。ぜひご覧ください。
参考文献
Sports Med. 2017 Nov;47(11)
High-Intensity Interval Training Interventions in Children and Adolescents: A Systematic Review
Sports Med. 2015 Oct;45(10)
Effectiveness of High-Intensity Interval Training (HIT) and Continuous Endurance Training for VO2max Improvements: A Systematic Review and Meta-Analysis of Controlled Trials
Sport Sci. 2019 Jun;19
Current Scientific Evidence for a Polarized Cardiovascular Endurance Training Model/Eur J
November 2017 Research Quarterly for Exercise and Sport 89(1)
Physiological Correlations With Short, Medium, and Long Cycling Time-Trial Performance
ance runners/American Council on Exercise/パワートレーニング・バイブル 第二版
これまでの記事はこちら
第1回 「サイクリストと情報リテラシー」
第2回 FTPを信じていいのか?
第3回 FTPとどう付き合っていくか
第4回 TSS700の呪い
第5回 HRV 心拍数でわかるコンディション
第6回 ゆるポタで強くなる? 注目のPolarized Trainingとは
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著者プロフィール
ラン先生らんせんせい
医師兼研究者。工学系大学院で再生医学を研究する傍ら、”できるだけ短時間で強くなる”を目標に自転車トレーニングに関する論文を日々読み漁っている。休日はGPSで日本地図を描く”伊能忠敬プロジェクト”を個人的に進行中。個人ブログでも自転車に関連する論文紹介をしている。 https://charidoc.bike/