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2016年10月22日

別府史之 1日密着【後編】 インタビュー

今回のインタビューは長時間に及んだもので、切り込んだテーマから、ざっくばらんに聞いたものもあった。それらから抜粋した形でお届けしたい。

編:今回の帰国はとてもハードみたいだね。※1

フミ:そうですね。11日間の日本滞在の後はフランスに戻り、2週間過ごしてから世界選手権出場のためにドーハへ。そしてジャパンカップ、ツールドフランスさいたまクリテリウム。今は33歳、家族との時間は大切にしたい。とはいえ仕事が大事で一生懸命やりたいことはあるけど。
今年はアジア選手権で日本に帰ってきたけど、実家に寄ることもなかった。トライすれば話は別だけど、僕ら3兄弟が揃うこともないですね。

編:ブエルタの逃げは魅せましたね。敢闘賞も獲得して。

フミ:ステージ優勝を狙えたのに逃したのはもったいなかった。レース2週目からすでに総合争いが活発になっていたので、難しいレースでした。せっかく走っているからには得るものがないといけない。なにかトライしないと……。その結果が敢闘賞。大それたものではないけど、なにか評価してもらえたというのはうれしいですよね。

編:敢闘賞をとった夜は?

フミ:“おめでとう”と言われたけど、自分では納得いってない。やっぱり勝った負けたですから。でも評価をしてくれたことはうれしいこと。自分が命をかけて走っている姿を多くの人に見てもらえたというのは幸せですね。

編:逃げ切れる気配はあった?

フミ:逃げのメンバーとは、4人だと難しいなと話をしていました。そこで。山で待って何人か追いついてきたら可能性はあるかもね、と。でも中盤の80km地点で7分差がついた。計算上だと可能性はあったんです。最後の10kmは街中を走るからプロトンのスピードも落ちるのが予想できるので。計算外だったのは、ラスト30kmで横風の予報だったのが向かい風に変わったこと。これだとプロトンが有利になります。追走も6チームくらいが協力してローテーションしていたらしく……。

編:レース中はどんな話をする?

フミ:逃げ集団の選手とも話して、どうしたらタイム差を広げられるかとか。集団の中では色々な会話をしていて、親しい選手とは、子どもの話や車の話をしたり。上りではみんな結構黙っちゃうけど(笑)。レース展開の話もします。これから横風がだけど、どうするの? とか、ウチのチームは前を牽くの?牽かないの?とか。だまし合いもあるんです。レース前はスプリントになるからエティックスやジャイアントが牽くと言っていたのにIAMが牽くとか。スタートしたらエティックスがファーストアタックしたり、話と違うじゃないかって(笑)。そういうのはレース前に選手同士や監督との話し合いで、駆け引きがあったりしますね。でもレース以外のときは、たわいもない話をしますね。

編:なるほど。話を戻して……、逃げは絶妙な展開だったんですね。

フミ:横風か追い風だったら……。でも追い込んでやりきれたから。なにもしないよりはよかった。

編:チームオーダーとしてはチャンスがあったら行っていいという感じ?

フミ:そうですね。でも最初の1週間は様子を見て我慢、というのがチームオーダーで。でも、どちらかというと最初の1週目のほうがリザルトを出しやすい。落車や選手がナーバスだったり、パワーの配分なども難しいですけど、今回のブエルタは前半(勝負)でしたね。40人とかの逃げ、というか集団が行ってしまうという展開で。それも今回のコースはフェルナンド・エスカルティン(元自転車選手)が設定していて、フラットステージでも3500mくらい上るっていうキツいコースが毎日という(笑)。

編:平坦と山岳ではギア比を変える?

フミ:変えますね。今はリアに32Tというギアを使ったりするので。僕は36×32Tでしたね。25%くらいの上りもありました。成績を狙う選手のギアはだいたい36×28T。同様にジロも上りが厳しくてゾンコランのステージは34×32Tを使いました。12%くらいの勾配が10kmくらい続いて。速度も10km/hを切っちゃうし。ジロもツールもブエルタも出て、どういう感じかというのがわかったけど、びっくりはしないですね。こんなもんだなっていう。

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編:総合的に見て、ブエルタはどうだった?

フミ:楽しかったかな。天気もよく道も広いし。朝は時間があるし。

編:スタート時間が遅かったよね?だいたい何時くらい?

フミ:お昼くらいなんですけど、現地の人たちの晩ごはんが9時とか10時。全体的に時間帯がズレているイメージですね。だから10時起きとかで、結構楽でしたね。移動とかもそんなに多くなかったし。移動の長さではジロがダントツ。選手たちも疲れるけど、スタッフはもっと疲れるでしょうね。
今回のブエルタではフリーな時間がすごく多かった。総合リーダーがいなかったから。総合リーダーとかメインスプリンターとかいたらもうそのために働く必要があり、逃げたりとかスプリントしたりとか出来ない。そういう部分ですごい幸せな時間だったかなって。


 

トレックストア訪問時、お客様とのやり取りも多く、いろいろな話が飛び交いました。その一部を少しだけ。

 

———トレーニングはいつも誰かとする? 

フミ:ツールドフランスでも2位になったことがある、クリストフ・ペローやコフィディスの選手など数人とトレーニングしますね。

———ツーリングやポタリングみたいなことはやる?

フミ:そういうのはやらないですね……。でもランドナーといって荷物を持って長距離を乗る人たちはいっぱい居ますね。ちょうど自宅の前がサイクリングプランのコースになっているらしく、200人くらいの街なんですが夏場なんかは500人くらいのサイクリストが通るんですよ。「シャー、シャー……」と家にいると聞こえてきたり(笑)。

家の近所にマヴィックの工場があったり、かつてはプロがたくさん住んでいたり、盛んな地域だったのですが、今は僕一人しかプロは居ないですね。

———練習環境はどんな感じなんですか? 

フミ:近くに1000mを越えるような山はないですけど、ボジョレーの丘はあったり、平坦も多いので悪くない。でも冬はすごく寒い。ベルギーやスイスよりも寒いんです。

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(協力:トレック・ジャパン 写真/編集部)

※1/9月中旬の一時帰国。その後に世界選手権へ。

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