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2015年10月30日

パリ・ブレスト・パリ ランドヌール2015 VOL.2 三船雅彦×矢野大介&ファンライド 鼎談

4年前の罪滅ぼし、そしてパリ・ブレスト・パリへの好奇心を隠せない

矢野大介氏。そしてパートナーを得た三船雅彦氏の走りと4年越しの思いを訊く。

すべてが規格外

:サポートとしてでも想像の外の世界ですよね。

矢野:まずは想像ができなかった。どうやって先回りするのか。ルート上を走っては行けないけど、どれだけ管理されているのか。とりあえず言われたものは準備してでもそれ以上にあるはずなんですが、わからない。わからないことがわからないというか、そこが一番危険だったというか。

三船:4年前に走っていて、選手目線ではわかることもあるけど、実際、サポーターの活動が見えないし、他の選手がなにをとって、なにをしているのか。チェックポイントで分けてもらえるものはあったけど、実際はそれ以外のものも絶対あっただろうし。だから矢野くんに何を用意すれば良いですか、と聞かれて、行ってみないと始まってみないとわからないよね。って。

矢野:選手側から見たサポートって一瞬しか見えないので。なるべく観察力を高めていました。後半になると選手も絞られてくるので、より見えやすくなります。三船さんもそうですが、ここはこうすれば良いのか、次はこれを用意しようなんて事を考えながら過ごしていましたね。後でわかることもありましたね。終わってみるとだからあの動きだったのか、など次回はこの動きで対応しようとか。いかに無駄をなくすかというのが勝負で、でもそれが永遠に続くんでしょうね。辞められないね、とうのはそう言うところでしょうね。どこが達成点なのか。一位なのか、タイムなのか。歴代2位でした、なら次を狙うし、歴代トップでも自分のタイムに挑戦ということになりますから。タイム的には出て行く時間と入る時間は同じなので、F1とは違いますから。30秒遅れても追いつけますから。そこで、なにを与えると、なにを言うとメンタルが楽になるか、なにをすると次の場面でポジティブになれるのか。それがサポートが大事な要素だと思いました。すごい難しいですよね。選手が言っていることと必要なことが違うかもしれないので、ステーキ食べたいとか(笑)。違う可能性は十分にありますから。読み取りは難しいですね。後半になると、もう走りたくないとか言うんですけど、もっと休みますかとは言えないですし。

:そういう意味ではサイクリストとしての経験がないと難しいですね。

三船:サイクリストであれば経験で当てはめることもできるけど、家族というかどれだけ理解できているかというのも。ロボットみたいに何キロだからこれ、というのはないよね。消費カロリーも距離も規格外だし、普通では考えられないことが普通に起きている。それを想定できているのか、想定外のことが起こっても、もっと大きなことを想定しているとか、全然違うと思う。たぶん経験のないひとはわからないはず。眠くなってきたときにはコーヒーが飲みたくなったんだけど、普通はカロリーだろ、って場面で。あるいはあったかいパスタが食べたい、とか普通じゃないことを普通に考えていたというか。

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人間としての経験と、生命体としての力が必要

:それは三船さんの経験から欲するもの?

矢野:積み重ね、何十年というキャリアからでしょうね。だからこそPBPの平均年齢が高めなんでしょうね。メンタルの部分が強いですね。

三船:寝ずに走り続けるのなんて、若い子は無理でしょうね。今回、前に抜け出すのなんて簡単なくらい力のあったと思うけど、そこの経験がなかったので無理だった。今回はとにかく先頭に喰らいつきたかった。だから前に抜け出すことなんて想定外だった(笑)。で1人が抜け出したとき、アレもしかして、と思った。でもそのうち追いつくだろうって。自分が逆の立場で残り700kmって(笑)。行けるという概念がなくて。追走して追いつくというのはそもそもポジティブな話なのに、追いついてしまったらその後どうするんだろうって。ネガティブに考えてしまった。

矢野:それはそれで辛いですよね…。あの集団よりも速く走っていたからね。

三船:残り25時間、たった2人で延々ゴールまででローテーションするって。未だかつてやったことがないから(笑)。残り700km、逃げようっていうのを過去にも思ったことがあるということだよね。

矢野:RAAM(RACE ACROSS AMERICA)にも出ている人なので、いわゆる700kmという単位の距離を1人で走るという。だいたい1人で700kmはこれくらいで走れるという経験があったんでしょうね。この集団のスピードだったら行けるって。あとでスーパーエンデュランス系の選手だってことはわかったんですがまさに経験ですよね、頭の中と今の状況から判断していて。特にロジックなんてものはなくて。

三船:スピードメーターを見ていると、普段の練習会などでも出せるスピードです。これを40時間以上も継続させていることが想定外なだけです。巡航ペースをいかに長くできるかというのを、経験を活かしてやっている。この経験をしているだけで全然気持ちは違う。今回走っていて、力つきることよりも寝落ちだけが怖かったですね。そこから飛び出そうというと違う話だけど(笑)

矢野:モダンレーシングだとロジックを取り入れて、いろいろと確率を上げて行く。時間が短くなればなるほど、極端な話だと計算式のほぼとおりにいく。あとはその人の体調。でも長くなればなるほどロジックがきかなくなってくる。科学はカロリーの話があるのである程度通じるけど、ロジックが成功に導くという割合が低くなっていく。距離を時間軸に例えると急に確率がガクンと下がるところがありそうなんですけどね。

三船:ほんと、人間力と言うか直感でないと。

矢野:不確定要素が多すぎて予測できません、という世界。1200kmというのは確実にその領域だというのを感じました。これは若い人には無理かなと。

三船:あきらかにアスリートとはほど遠いオッサンみたいなのが走っていて、でも次の瞬間、このオッサン強えって思っていて。やっぱりそこやと思いますよね。

矢野:サポートをしている人のほうが若いくらいでしたよね。精神の要素が大きい。距離が長くなればなるほど。

三船:人間の限界を垣間見るような2日間だった。

: 生命体としてギリギリですよね。

(VOL.3へつづく)


(写真/海上浩幸 取材/編集部)

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