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2019年11月25日

【オフトレ開始前に】LTパワー値を知って効率よくトレーニングを!

良質なトレーニングのために

質の良いトレーニングを行うためには、まず現在のフィットネスレベルを知るべきです。
スポーツを始めたばかりのときは、あらゆる能力が低いため運動をしているだけで自然に鍛えられていきますが、それも能力が上がっていくにつれ頭打ちを迎えます。
ある程度のレベルで走れるようになってくると、どこが得意でどこが苦手で……という走り方のスタイルや好みもわかってきます。

次のステップに進みたいと思ったら、まずは基準となる値を求め、トレーニング内容を精査していきます。その値として本記事ではLTパワー値をお勧めしています。

LT値とは
乳酸閾値(Lactate Thresholdのこと。

筋肉を収縮して力を発生させるにはATPという化学物質を身体の中で作り出して使う(ATPの主な原料は脂肪とグリコーゲン)。
運動は強度に応じたATP要求に対して、一連の代謝系の動きを繰り返しながら、運動を継続する。運動強度が高まると、脂肪の代謝だけではATPの生産が間に合わなくなり、すばやく生産できるグリコーゲン利用の稼働率を高めることで、代謝の手助けをする。このATPの前処理過程で発生するピルビン酸が供給過多となった場合に乳酸に変換され、余力のある筋肉で消費するために血液で身体中に運ばれる。
つまり高強度になるとATP要求にたいして過剰気味に反応し、ピルビン酸から生成される乳酸はどんどん増え、消費のバランスも崩れる。よって運動強度が高まると血中乳酸濃度は上昇する(ただし乳酸が悪者ではない。筋肉や呼吸中枢などを刺激する痛みは金属イオンのカリウムなどが原因ではないかという報告がある)。そしてある強度で急激に血中乳酸濃度が高まるポイントがある。この急激な上昇が起こる付近の強度を『LT値』と呼ぶ。

このLT値が高いほど、きつい時間帯を少なくし長い運動時間を継続できる可能性が高くなる。

LT値の優位点は血中に生成される乳酸の濃度変化から、代謝の変化点を測定しています(1)
LTこそが、ロードレースの基本的な能力である持久力の重要な決定因子です。この値の高さが、ロードレース選手のもっとも基本的な運動能力の指標となります。

このLTパワー値を知ることが、トレーニングのスタート地点となるのです。
トレーニングによってこのLT値は向上していきます。

血中乳酸値濃度「LT値」の測定(2)

LT値のような、自分の身体の性能を知るための値としてポピュラーなFTPやATなどもトレーニングアプリなどで簡易的に算出することが可能です。

より精密に測定するためには、専門的な測定器が必要になりますが、パワーメーターを用いることで、室内での簡易測定が可能です。
同様の方法で、スピードメーターを用いてスピードに置き換えて測定も可能です。

インドアトレーナーに自転車をセットし、漸増負荷テストを行います。
FTC14_2


パワーによる測定方法は100wで15分ほどのウォーミングアップから始めます。
3分間決められたパワーを維持し、3分後に40wずつ負荷を上げていきます
例:100w(15分間)→140w(3分間)→1分間休み→180w(3分間)→1分間休み→210w(3分間)→・・・・
スピードを用いる場合は、以下の対応グラフを参照してみてください。


graph©️自転車競技のためのフィロソフィー


スピードを用いる場合(ギア比の負荷の対応グラフ/参考)

GEAR_RATIO
©️自転車競技のためのフィロソフィー

ケイデンスを固定(90±3rpm)し、ローラー台の負荷をリアスプロケットをギアチェンジした場合のパワー値の対応を表しています。

 


スピードメーター&心拍計を用いても測定可能

スピードメーターを用いてスピードを測定した場合は、LTスピード値が求まります。スピードとあわせてLT心拍数(HR)が求められます。測定方法は上記と同様で、維持できなくなった時点で測定は終了です。主観的運動強度(RPE)でも評価してみます。
心拍計で測定する場合にはスピードと組みわせて使うのがよいでしょう。
スピードはローラー台で練習するのであれば正確な指標となります。
スピードを負荷とし、維持をする場合でも心拍数はどんどん上がっていきます。これは運動にともなう体温上昇にたいして、血流を高め、体表での熱交換=体温上昇を抑制するためと考えられています。よって心拍数の上昇を気にする必要はありません。

同じ固定ローラー台、同じギア比を用いれば、パワーの値で速度が決まります。身近な人がパワーメーターを持っていれば、自分のローラー台に乗ってもらい、ローラー台の負荷レバー値と、ギア比を変えて測定を行い、ローラー台専用のパワーテーブルを作ることも可能です。
パワーと速度の関係を示したグラフを公表しているメーカーもあります。
高額なパワーメーターがなくても、競技を始めてしばらくは、どんな練習をしても力がついていきます。レベルに応じて必要な機器を導入しましょう。

 


3分間パワー(速度)を維持したら、1分間、完全に脚を止めて休んでください(100w以下でパワー値を下げて軽く回す程度なら構いません)。ケイデンスはできる限り87〜93rpmの範囲で自分が心地よいと感じるペダリンケイデンス数を保ってください。
負荷が高くなるにつれ、パワーを維持するのがきつくなっていきます。パワーを維持できなくなった時点(あるいはケイデンスを維持できなくなった)でテストは終了ですオールアウトする必要はありません。最後に到達したパワー値を記録します。
主観的運動強度(RPE)では、LT時に多くの選手がRPE評価で14の「ややきつい」〜「きつい」と感じ、このあたりがLT値に近い値と考えられます。

 


 

主観的運動強度(RPE)とは
運動時の主観的負担度を数字で表したもので,Borg Scaleが代表的である。Borg Scale は,数字を 10 倍するとほぼ心拍数になるように工夫されているが、年齢などにより差異があることに注意が必要である。13 が AT レベルと考えられる(3)

©️自転車競技のためのフィロソフィー

 

ヒルクライムTTによる測定も

もうひとつの測定方法として、ヒルクライムタイムトライアルがあります。
これは実験室で漸増負荷法によるLT測定での血中乳酸値、LTパワー値とヒルクライムTTで測定した場合の、血中乳酸濃度と、維持パワー値を比較すると、比較的一致することから、簡易的に測定する方法として実施しています。

実施するのは30分程度のヒルクライムタイムトライアルです。
測定時間内でのパワー値を維持できる最大パワー値でタイムアタックを行います。
1回のタイムトライアルではオーバーペースになってしまったり、逆にゴールで力を残しすぎてしまったりする場合があります。よって複数回実施して、最も高い平均パワー値を決めます。
このパワー値が「推算LTパワー値」となります。
タイムトライアル中はできるだけパワー変動を抑制して走ります。
パワー値を大きく上げたり、下げたりはできる限り少なくします。

ローラー台を用いたタイムトライアルでは上りの実走行のタイムトライアルに比べて、若干パワー値は下がる(5〜10%程度)、ローラー台での30分TTでも「推算LTパワー値」は求められる。ただしこれは非常にタフな精神力が求められる測定法である。

まずは自分のLTパワー値を測定し、ジブNの酸化的代謝能力を数値で知り、トレーニングの基準となるパワー値を設定することが、スタート地点です。LTパワー値は選手としての能力を表す数値であるとともに、トレーニング時の強度を考える上での基準点になります。

 

【コラム】体格とLTパワー値について

LTパワー値は値に大小の差があっても、選手の体格によって、レースで生かせる特性が変わってきます。
発揮するパワー値はその選手が持っている筋肉量をある程度反映します。このため小柄な選手に比べて大柄な選手はパワー値が高めにでます。
身体の大きさによるパワー値の差を規格化するために、LTパワー値を体重で割った値(単位体重あたりのLTパワー値)を計算して、これを基に異なる選手同士を比較する場合があります。
例えば62kgのA選手のLTパワー値が300wであった場合、単位体重あたりのLTパワー値は300/62=4.84w/kgとなります。
67kgのB選手が『A選手のLTパワー値』を自分の身体に換算する場合には、4.84×67=324wとなります。
筋肉量の多い選手は高いパワー値を発揮しますが、その分体重も重くなります。しかし筋肉量と体重はつねに比例関係にあるわけではないので、あるところで筋肉量との比例関係は小さくなっていきます。

上りの速い選手には体重の軽い選手が多く、単位体重あたりのLTパワー値は高くなる傾向があります。しかしこの値が高くても、元のLTパワー値が低い選手にとっては、平地を高速で駆け抜けるレース、強い風の中を走るレース、短いアップダウンの続くコース、あるいは石畳などの悪路を走るレースはきつく苦しいものになります。

上りの速さは単位体重あたりのLTパワー値の高さが発揮されますが、平地や悪路ではLTパワー値そのものの高さが効いてきます。
10分以上上りが続くようなレースであれば、この値の差が速さの差として明確になりますが、様々なコースを長時間にわたって走るロードレースでの強さは、この値だけで決めることはできません。

 

LTパワー値を活用したトレーニングメニューはこちら

 

 

引用
(1)自転車競技のためのフィロソフィー 柿木克之著 p.27 

(2)自転車競技のためのフィロソフィー 柿木克之著 p.45 
(3)日本スポーツ協会 アスレティックトレーナーに必要な検査測定の方法

協力:Blue Wych合同会社 http://www.bluewych.co.jp/
写真:編集部

 

 

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