2016年02月11日
【パンライド ~自転車とパンのおいしい関係~】Vol.2 パン工房シロクマ 後編 サイクリストがシロクマを愛するワケ
サイクリストに人気のグルメと言えば、手軽に食べられるおいしいパン。そこで、自転車乗りでもあるパン屋さんとおススメのコースを一緒に走り、お腹を空かせたところでおススメのパンをいただいちゃおうという、おいしい連載「パンライド」。第2弾は、埼玉サイクリストの聖地として多くの人に愛される「パン工房シロクマ」。後編では、お店とパンの魅力に迫っていく。
ブリヂストンアンカーの選手たちが常連に
観梅ライドから戻ったところで、池田達也店長に定休日ながらお店の一部を開けてもらい、パンを用意していただくことに。その間、シロクマがいかにしてサイクリストに愛されるパン屋となったのか、あらためて振り返ってみよう。
東京のパン屋で10年間修業した池田店長は、1989年に地元・埼玉県越生町でパン工房シロクマをオープン。実家の畑だったところにお店を建てたが、周りは民家もまばらな奥武蔵の田園地帯。しかし、この一見不便な立地が、「走りやすい」と感じるサイクリストを引き寄せることになった。
前回も少し触れたが、埼玉県上尾市に拠点を置くブリヂストンアンカーの当時選手だった藤野智一さん(現なるしまフレンド神宮店店長)、橋川健さん(現チームユーラシア-IRCタイヤ監督)らが練習中にお店に立ち寄るようになったのは2000年ごろ。最初はとくに言葉を交わすことなく、彼らは外のベンチでパンを食べると、そのまま自転車で走り去っていた。
「競輪選手でも来てるかな?」と思っていた池田店長だが、そのうち他にも自転車に乗って多くのお客が訪れるようになった。
不思議に思うと、「雑誌に載ってますよ」と教えられた。橋川さん、藤野さんらが自転車雑誌に紹介したことがきっかけで、多くの自転車乗りに知られるようになったのだ。
それから、おいしいパンとやさしい人柄の池田店長目当てに、サイクリストが集まるお店となった。それまで定休日だった日曜も、自転車乗りのためにオープンした。
ちなみに、ファンライド初登場は2001年1月号。藤野さんが練習中に立ち寄るお店として紹介されている。その後も、ファンライドではたびたび登場していただいてきた。
その2001年には「シロクマCafe Racing」が結成される。お店に集まるシロクマファンのサイクリストが、普段所属するチームの垣根を超えて集まるチームだ。今ではメーリングリストを登録しているメンバーが160人にもなるという。
池田店長も「これは自転車をやる運命なのかな」と、自らもロードバイクに乗るようになった。
ブリヂストンアンカーの選手たちとも親しくなり、田代恭崇さん(現リンケージサイクリング代表)、山本雅道さん(Bicycle Factory Yamamoto代表、シエルヴォ奈良MIYATA-MERIDAレーシングチームで選手としても走る)、普久原奨さん(現BICYCLE PARK O2宇都宮店スタッフ)らも足しげく通っていたという。池田店長もツール・ド・北海道などのレースに、アンカーの応援に出かけた。
2004年にはお店を改装し、店内で食べられるカフェスペースを設置。その際、床板の材質は藤野さんたちのアドバイスでビンディングシューズでも歩きやすいものを選んだ。
当時の“常連”たちとの交流はその後も続き、数年前、池田店長がなるしまフレンドでデローザのロードバイクを買ったときは、藤野さん自らお店まで納品に来てくれた。自分の自転車も持ってきた藤野さんは、選手時代の練習コースを懐かしそうに走り、「店長に自転車を納品する日が来るとは思ってなかった」と喜んでいたという。
店内にはアンカーの選手のサインや写真もたくさん飾られている。TV番組の取材で訪れた俳優・蟹江一平さんのサインも
シロクマがファンライドに初めて掲載された2001年1月号。イラストレーター小河原政男さんのレポートで、「ブリヂストン選手御用達店」として藤野智一さんが紹介している
シロクマcafe Racingのジャージデザインは池田店長が手掛ける。昨年登場した最新モデル(写真)もすでに60着ほど売れているという
お店の前のサイクルラックは、チームメンバーがお金を出し合って設置したもの。週末はこのラックに収まりきらず、「前の田んぼの土手にもずらっと自転車が並びますよ」
自転車に乗るなら「シロクマあんぱん」!
さて、そろそろパンが焼きあがった。まずはシロクマ名物の「シロクマあんぱん」をガブリ! 池田店長がサイクリストが好きな大福をヒントに考え、中にはおもちとあんこが入っている。甘さはしつこくなく、「2倍走れる」のキャッチコピーどおり腹持ち抜群だ。
続いては「おきなわポーク」「明太ポテト」「ベーコンポテト」のサンドイッチ3種。パンは一度白焼きして、具材をつめてまた焼いているそうで、サクッと軽い歯触り。ボリュームある具材とのバランスもよく食べやすい。「おきなわポーク」は、沖縄の会社から仕入れたウィンナーを使用しており、「ツール・ド・おきなわ対策」としてゲンを担いで食べるサイクリストもいるという。
この他にも、チョコ好きの橋川さんのリクエストで誕生した「チョコパワー」も人気。生チョコとマーガリンがたっぷり入っていて、これもエネルギーの源だ。
池田店長は、平日は午前5時からパンを仕込んでいる。さらに週末は平日の3倍、サイクリストだけでも60~70人も来店するので午前3時半から準備しているという。パンは9時半ごろ焼きあがり、「自転車のお客さんは、10時~11時ぐらいにうちで食べて山の方へ行ってますね」とのこと。人気のパンは売り切れ必至なので、早めの来店がおススメだ。
ここ数年で自転車乗りウェルカムの店は周りにも増えたが、シロクマはそのパイオニア的存在。最近でもテレビやマンガで紹介されるなど、その人気は広がっている。きっとこれからも、多くのサイクリストが自転車のハンドルをついつい向けてしまうパン屋であり続けるだろう。
おもちとあんこが詰まって、ずっしり食べごたえのある「シロクマあんぱん(150円)」。サイクリスト必食!
左から「ベーコンポテト(150円)」、「明太ポテト(150円)」、「おきなわポーク(170円)」。おきなわポークはカレー風味
店内にはシロクマの置物がいくつも並べてある。店名の由来は、かつて池田店長が色白で今よりも太っていたから
「パン工房シロクマ」池田達也店長。物静かなパン職人だが、サイクリストやお客さんのことをつねに考えている
パン工房 シロクマ
埼玉県入間郡越生町成瀬313
TEL/FAX:049-292-2023
営業時間:平日9:30~17:30 日・祭9:30~16:30(売り切れ次第終了)
定休日:月・火曜
約15年間に渡り、多くのサイクリストに愛されるパン屋。シロクマあんぱん、チョコパワー、おきなわポークなど自転車乗りにエネルギーと元気を注入するパンが人気。
池田店長のブログ http://ameblo.jp/oku6sasi/
※池田店長入院により、現在しばらく営業をお休みしています。
池田店長の早期復帰をお祈りしています。
著者プロフィール
光石 達哉みついし たつや
スポーツライターとしてモータースポーツ、プロ野球、自転車などを取材してきた。ロードバイク歴は約9年。たまにヒルクライムも走るけど、実力は並以下。最近は、いくら走っても体重が減らないのが悩み。佐賀県出身のミッドフォー(40代半ば)。