2018年10月05日
最新自転車パーツの現在地【GOKISO】
ホイールが走行性能に大きな影響を与えているのは、スポーツバイクに乗っている人なら、誰もが知っている。そして、世界中のホイールマニアから称賛を集めているのが、愛知県にある近藤機械製作所が生産する“GOKISO”である。自転車業界の既成概念に囚われない自由な発想と、マッドエンジニアリングなモノ作りを社長であり、GOKISOハブを考案した近藤豊さんに話を伺った。
適材適所のマテリアル
菊地 今日はハブ以外の話も聞いてみようかな、と。具体的に言えないこともあるでしょうが、いろいろやっていますよね?
近藤 自転車の部品、全部やってやろうという考えは最初からですよ。
菊地 それは興味深い。その前に、最近、注目しているテクノロジーや素材はありますか?
近藤 あと5年もしたら、プリプレグ製法は衰退するんじゃないですかねぇ。
菊地 え、どういうことですか?
近藤 ランボルギーニが採用している“フォージド・コンポジット”って聞いたことありませんか?
菊地 ないです。
近藤 プリプレグと比べて短いカーボン繊維を金型に入れて、加熱&圧縮させます。
菊地 で、高価になるんですか?
近藤 いえ、安くなると思います。
ーー ランボルギーニによると、オートクレーブ成型で6時間かかるところが、フォージド・コンポジットだと9分間以内。コスト面でも30%程度も抑える可能性があるそうです。
近藤 うちが普通のカーボンをやっても後追いだし、量産化では敵いません。航空関係の技術からアプローチしていこうと考えていますし、まずは小さい部品からですね。
菊地 というと?
近藤 現在、航空業界ではカーボンに代わる素材として、熊本大学(とボーイング)が開発した不燃マグネシウムが注目されています。この素材は比重がジュラルミンの3分の2しかなく、融点も1100℃と高いんです。
菊地 ほぉ。
近藤 たとえばカーボンリム。プロは乗るのが上手だからいいけど、一般の方が使うには耐熱性が低い。
菊地 200℃ぐらいでしたよね。
近藤 そうです。カーボンリムでラテックスチューブを使うと、パンクの原因の多くは熱に起因しています。この弱点をディスクブレーキだと克服できます。ただ……。
菊地 ただ?
近藤 現行のスルーアクスル方式だとベアリングのサイズが2つぐらい大きくなってしまう。それだと転がり抵抗も大きくなっちゃう。
菊地 それは以前から問題視されてましたね。
近藤 最近はワイドリムになって、タイヤ幅も28Cが増えてきていますよね。うちの実験では23Cのタイヤをワイドリムに装着して、実測25Cで使うといいという結果が出ています。でも、25や28Cにすると転がり抵抗が大きくなってしまう。
菊地 ゴキソの目指すところではない?
近藤 石畳とかを走るならメリットもあると思いますが、ヒルクライムなら転がり抵抗は極限まで小さくした方がいい。
ロスはもっと減らせる
ハブシェルにスリットを入れて外側弾性体構造にして路面から受ける振動がベアリングの回転に干渉しない《クライマーハブ》
精度にこだわるのはリムも同じ。ビードのかかるフック部分は研磨され、ワイドリムと相まってタイヤのよじれを防いでいる。©️:近藤機械製作所
菊地 損失を少なくするということでは、転がりや摩擦、空気抵抗など進化しているように思いますが……。
近藤 もっと改善できます。たとえば、ギアの組み合わせによるロスはバカにできません。脚をリンクだと考えてみると、日本人には現状のクランクは長過ぎるし、ケイデンスだって見直す必要がある。スプロケットにしても16や17Tよりも小さいギアは抵抗が増えちゃう。
菊地 ギヤは大きい方が駆動効率がいいというヤツですね。
近藤 そうです。で、チェーンピッチや変速性能など、クリアすべき課題はあるけど、うちだけやっても意味がない。
菊地 互換性を無視できないですもんね。
近藤 アイデアはあるんですけど……。
菊地 では、現在販売しているホイールは100点満点で何点ですか?
近藤 70点ぐらいです。
菊地 案外いいですね。もっと低いかと思いました。
近藤 台湾のリムメーカーが頑張ってくれていますしね。でも、現状を越えていくには、作り方を変えないとダメでしょう。
菊地 ダメですか?
近藤 現在、私たちが考えている工法が成功すると、リムの精度が圧倒的に良くなる。すると、乗り心地も一気に改善されます。それこそタイヤの精度が問題になるぐらいじゃないかな。
菊地 タイヤの精度?
近藤 自転車のタイヤは、厳密に言うと構造的に均一に拡がらないというか、ムラが出てしまう。もっと良くなるアイデアはあるけど、実現するには非常に大きなコストがかかる。それが実現できたら、その先にはフレームのジオメトリーも……。
菊地 車輪径ですか?
近藤 はい。コーナリング性能は一般的なロードバイクよりも小径車のほうが上です。全長を大きく変えないで性能を上げるなら、車軸長を変えるという手もあるかなって思っています。
菊地 段々、大がかりな話になってきましたが、もうちょっと近未来で発表できるネタはないですか?
近藤 チューブレス対応のホイールは近い将来だします。
自転車の枠でもなくて、“街を走る精密機器”
菊地 さきほどランボルギーニの話がありましたけど、ゴキソが目指していく世界観としては、ラグジュアリーですか、それともレース?
近藤 ラグジュアリーではないです。エンジニアリング的な発想を元に、物理的というか科学的に効率を求めています。そして、人間の感性も大事です。変な音がしたり、乗るのが苦痛に感じるようなモノはダメ。そうして突き詰めたところと、レースの世界が近い気がします。
菊地 あぁ、わかる気がします。
近藤 イメージとしてランボルギーニやフェラーリだって言われるのはわかるのですが、それは量産では敵わないからです。ハンドメイドの領域を残しながら、ニッチなところを担っている。それが似ている点だと言われるなら、そうなのかもしれません。
菊地 自転車界のランボルギーニ?
近藤 私の中では、自転車業界に参入したおぼえはないんです。自転車の枠でもなくて、“街を走る精密機器”だと思って開発している感じですね。
問;株式会社近藤機械製作所
関連URL:http://www.gokiso.jp/ja/products/
著者プロフィール
菊地 武洋きくち たけひろ
自転車ジャーナリスト。80年代から国内外のレースやサイクルショーを取材し、分かりやすいハードウエアの評論は定評が高い。近年はロードバイクのみならず、クロスバイクのインプレッションも数多く手掛けている。レース指向ではないが、グランフォンドやセンチュリーライドなど海外ライドイベントにも数多く出場している。