2017年01月17日
瀬戸圭祐の 「快適自転車ライフ宣言」 号外版)自転車利用に市民権!「自転車活用推進法」って何なの?
号外版)自転車利用に市民権!「自転車活用推進法」って何なの?
昨年末、自転車界を明るくする大ニュースが飛び込んで来た。足掛け16年以上、国会議員をはじめ多くの方々と法案の内容を議論してきた「自転車活用推進法」が、遂に国会で正式に成立したのである。
しかしこの法律、どんな内容で何故自転車界を明るくするのか、どんな経緯で生まれてきたかなどを、きちんと理解している方は多くはない。
今回は連載の号外版として、「自転車活用推進法」を皆さまに正しく理解して頂けるように解説をしてみたい。
足掛け16年以上の歳月を経てついに成立
これは、「国が正式に自転車の活用を総合的かつ計画的に推進していく」という、一見そんな事あたりまえではないのか?と思えそうな法律であるが、そのあたりまえの成立が、日本にとっては画期的な出来事なのである。
自転車に関する法律は、第1章第3項「複雑怪奇な自転車交通ルール」で紹介したようにあいまいな部分が多く、また、ほとんどの自転車先進国が持っている「国レベルの自転車活用推進計画を作ると決めた法律」は存在しなかった。
従来の自転車の法律は昭和23年制定の自転車競技法(競輪法とも言う)、昭和45年制定の自転車道整備法(自転車道の整備に必要な措置を定めた)、昭和55年制定の旧自転車法(違法駐輪への対策法)しかなかったのが実状である。
これらの法律は自転車の利活用については「良好な交通網の整備」に関する条文がある程度で、全くと言っていいほど触れていない。
従って自転車の利活用を推進する法律が必要であると、20世紀の時代から議論され続けてきたのである。そして1999年に超党派の国会議員が集まり、自転車活用推進議員連盟が発足。2002年4月に自転車活用推進研究会(以下自活研)が議員連盟に対して自転車基本法の改正案を提出した。
その後、省庁の縦割り行政や既得権益への固執、様々なステークホールダーの利害関係問題などで難航を繰り返し、なかなか思うように法案をまとめることができなかった。
そこで自転車活用推進議員連盟の谷垣会長がリーダーシップを発揮し、自転車活用の在り方について提言をまとめるため「自転車活用プロジェクトチーム」を2013年4月に発足させた。自活研がベースを作成した今回の法案の元となる提言を、その年の12月にプロジェクトチームとして行ったのである。
提言は行ったものの、安保法案など国会での様々な紛糾の煽りを受け、先送りを繰り返されてなかなか法案の可決には至らない。国会の期間中に可決されなかった場合は翌年に自動的に繰り越しにはならずに廃案となるため、また一からのやり直しを繰り返すことになったのである。今回、足掛け16年以上の歳月をかけて、やっとの思いで法案成立に至ったのだが、実は2016年も臨時国会終了間際での間一髪の成立で、廃案になった可能性もあったのである。
自転車活用推進議員連盟の2013年総会で挨拶する谷垣会長
自転車先進国に向けての第一歩
さて、この難産にて成立した「自転車活用推進法」とはどのような内容なのかを見てみよう。
これは、「身近な交通手段である自転車の活用が交通・環境・健康増進等に重要な課題であることから、自転車活用に関する基本理念を定め、国の責務等を明らかにし、施策の基本となる事項を定めるとともに、自転車活用推進本部を設置することにより、自転車の活用を総合的かつ計画的に推進すること」を目的としている。低炭素社会や災害時利用、健康増進などのために自転車をより活用すべく、国や地方公共団体、公共交通事業者などの責務を定めたものなのである。
2013年11月に「交通政策基本法」が成立し、交通政策に関する基本理念や施策、国や自治体等の役割などを定めたが、国レベルの自転車活用推進計画をどのように作るのかといった具体的な事は定められていない。大枠の理念を示す「交通政策基本法」に基づき、それを実現するために自転車をどのように活用するかを明確化する事も、今回の法律の狙いである。
「自転車活用推進法」は今まで日本には無かった仕組みなので、自転車先進国へ向けての画期的な第一歩だと言える。
これは今後、日本で自転車をどう扱うかを考える上で重要な指針となり、国民の健康にも、環境にも優しい自転車の利活用を「国レベルで推進しよう」という姿勢を明確にしている。
つまり、自転車通行帯の整備、シェアサイクルの整備、安全性の高い自転車の供給、自転車を使った観光客誘致支援、交通安全教育および啓発などの施策を定め、自転車の活用推進における基本理念を示すものなのである。
具体例を挙げると、これまでの法律に記載のなかったシェアサイクルについて、公共の利益になるとして普及を推奨しており、各地での更なる広がりにつながるであろう。
この法律により、自転車運転中の道路交通法に違反への反則金制度、損害賠償を保証する制度、さらには賠償責任保険の義務化などの検討を進める事が可能になる。
自転車の安全性の確保に関しては、性能・品質基準を政令で定め、不適合車の販売を禁止することが検討されるであろう。
国土交通大臣を本部長として官房長官や厚生労働相ら関係閣僚でつくる自転車活用推進本部が設置されることとなり、国会への報告が義務づけられている。
また、自転車活用推進議員連盟が昨年末に開催した成立報告会にて、各省庁は次のように抱負を述べている。
国交省
自転車の活用を一層進めるためには環境整備が必要。
自転車活用推進計画の策定などを総合的、計画的に実施をしていく。
内閣府
関係省庁と連携をとり、自転車の安全な利用の教育、啓発を鋭意推進していきたい。
警察庁
自転車の通行空間の確保、特に交通安全に取り組んでいきたい。
文科省スポーツ庁
スポーツを通じた健康増進への取り組みで自転車の活用を考えていきたい。
金融庁
自転車による人の生命、身体が害された場合の保証制度について検討を行う。
厚生労働省
国民の課題となる健康増進に取り組んでいきたい。
経済産業省
自転車業界とともにこの法律に基づいた必要なことを検討していきたい。
環境省
政策を実施できるように予算の確保、関係各所と連携していきたい。
このように、国としての本気度が窺え、期待が持てる内容となっている。
法案成立によって自転車環境にさまざまな変化が起こることが期待できる
法案成立後の変化とは
しかし、前述したようにこの法律は自転車の活用推進における基本理念を示すもので、具体的な実施の項目については、これから国交省の自転車活用推進本部が中心になって作成される。公布後6か月以内の施行であり、実際に国や自治体、地方公共団体や公共交通事業者によって動きが出るには、お役所感覚の時間で進むことになる。
従って同法が施行されても、自転車の利用環境が急激に変化することはないかもしれない。やっと市民権が自転車利用にも及んだのが現状なのである。
20世紀の時代から当法案を成立させるために精力的な活動を行い、様々な苦難を乗り越えてきた、自活研の小林理事長は「これはゴールではなくスタート。絵に描いた餅にしないために具体策を詰め、実行する体制を作ることが大切。そのためには利用者の覚悟と、ドライバーや歩行者の意識改革を促す不断の努力が肝要。この法律はまさに交通思想の大転換のスタートと受け取ってほしい。」と全ての自転車利用者にエールを送っている。
つまりこれは、大きな一歩を踏み出したにすぎず、ある意味これからが本番なのである。我々はこれからも「より良い自転車社会」の実現にむけて、がんばって行かねばならない。
尚、NPO法人自転車活用推進研究会のHPにて、自転車活用推進法の全文や、その概要などの説明資料、自転車活用推進議員連盟やその設立趣意書などが掲載されているので、是非一度のぞいて頂き、ご賛同を頂ければ心強い。
また、自転車活用推進法の解説と討論会を、グッドチャリズム宣言プロジェクト主催で2月1日(水)に豊洲シビックセンターで開催する。
小林理事長による説明と聞き役に日向涼子さんを迎え、グッチャリリーダー片山右京さん他の著名人を含めて参加者とともに、法律の理解と「より良い自転車社会」に向けて何をすべきかを議論する予定だ。
興味のある方は下記URLから申し込んで頂きたい。
https://www.facebook.com/events/275321919537666/
http://good-charism.com/archives/1953
これまで法案成立に向け、精力的に活動しつづけてきたNPO法人自転車活用推進研究会の小林理事長
(瀬戸圭祐さんの「快適自転車ライフ宣言」は隔週火曜日掲載です。次回は1月31日(火)に公開予定です。お楽しみに!)
※本文の一部を訂正いたしました(2017/1/19)
著者プロフィール
瀬戸圭祐せと けいすけ
中学/⾼校時代に⽇本全国を⾛破し、その後、ロッキー、アルプス、⻄ヒマラヤ/カラコルム、ヒンズークシュ、北極圏スカンジナビアなど世界の⼤⼭脈を⾃転⾞で単独縦断⾛破。 ⼗数年ジテツウを続けており、週末はツーリングや⾃転⾞イベントなどを企画実施。 ⾃転⾞の魅⼒や楽しみを著書やメディアへの掲載、市⺠⼤学での講座、講演やSNSなどで発信し続けており、「より良い⾃転⾞社会」に向けての活動をライフワークとしている。 NPO法⼈ ⾃転⾞活⽤推進研究会 理事、(⼀社)グッド・チャリズム宣⾔プロジェクト理事のほか、 (⼀財)⽇本⾃転⾞普及協会 事業評価委員、丸の内朝⼤学「快適⾃転⾞ライフクラス」講師、環境省「環境に優しい⾃転⾞の活⽤⽅策検討会」検討員などを歴任。