2016年12月20日
瀬戸圭祐の 「快適自転車ライフ宣言」 2-7)自転車ナルシスト!自分だけの自転車に心酔する
第2章:ハマるとヤバい?自転車の魅力! その7 自転車ナルシスト!自分だけの自転車に心酔する
サイクリングはいくつになっても生涯続けられる。自転車そのものもきっちりとメンテナンスをすれば10年や20年、場合によっては生涯の付き合いとなることもある。実際何十年も何万キロも乗り続けている人もたくさんいるのだ。
自転車の楽しみは乗ることだけではない。自分の好みや走り、予算に合わせてパーツなどを変更したり各種調整を変えたりして、自分だけのオリジナル自転車に創り上げて行くことも大きな喜びがある。
経験を積むにつれて様々なテクニックが身に付き、筋力や体力も変化してくるし、パーツや機能などの知識も増えてくると、自然とグレードアップの欲も湧いてくる。自分仕様に改造したくなってくるのだ。
パーツひとつひとつに思いの籠った、世界に一台だけの自分の主義主張を表現する自転車を創る!
ちょっとナルシストで、かなりオタクな世界かもしれないが、これも大きな自転車の楽しみなのである。
自分好みにフレームをペイントし、世界に1台だけの愛車を作ることも可能だ
<まずは自分に合った自転車を選ぶ>
自転車を創る喜びは、まずは自分の自転車を所有することから始まる。そのために大切なのはショップ選びである。できればスポーツサイクル専門店が望ましい。自転車雑誌によく広告が出ているようなショップならばまず大丈夫である。ショップが自転車クラブをやっていたりイベントを主催しているような場合はハズレは無いだろう。常連客が多いショップも安心だ。信頼している人が多いことの証明でもあるし、集まる客の知識や要求のレベルも高くなるからショップ側も常に勉強と経験の蓄積を怠れないのである。
ポイントはショップのオーナーやスタッフがどれだけ自分でサイクリングを行っていてフィールドテクニックを身につけており、自分の経験としての必要なものの品揃えをしているかである。そういう店にはたいがい試乗車があり、実際に自分で試乗した感想をベースにアドバイスをしてくださり、最適な選択を教えてくれる。新車購入時にはできる限りの選択と調整を行い、その時点で最大限自分に合わせた仕様にしてくれるショップを選ぼう。
自転車を入手したら、とにかくできるだけ乗ってみよう。乗れば乗るほどに自転車の事が少しずつでも身体でわかってくるし、自転車がどんどん楽しくなってくる。ネットや本などでお勉強する事も大切だが、乗っていない人の主張は説得力に欠ける。やっぱ自転車は乗ってナンボなのである。仲間と一緒に楽しめば、お互いにいろんな情報交換ができ、知識をベースとした、身体でのパーツや機能の良し悪しの理解がしやすくなってくる。
仲間同士自転車を見せ合い、情報交換をすれば、知識はどんどんと深まっていく
<パーツを選びは、奥が深い>
最初に体感しやすいのが、特に脚力に直結するギアである。ギアの使い方とテクニックがわかってくると自分の脚力や好みに合わせたギア設定が明確になってくる。初心者にはコンパクトドライブの設定をお勧めするショップが多いが、脚が十分に回せるようになってくれば、そのケイデンスに応じたギアへの変更をすれば良いだろう。
シマノやカンパのクランクセットには52x39tやコンパクトドライブならば50x34tといったフロントギアの設定が多いが、私のような貧脚には、ヒルクライムなどの場合50x34tでも快適なケイデンスを維持するペダリングなど無理である。峠越えをのんびりと楽しみたいのならインナーをできるだけ小さくすれば良いのだが、ロードバイク用の30t未満の小径インナーは入手困難である。ちなみに私はカンパが1980年代に一瞬だけ出したMTB用のトリプルギアでインナー24tを骨董品市場で入手して使用している。それに合うBBやディレイラーなどもレアものばかりだったので、それらの収集など含めたドライブトレーンの調整などには更に半年以上を費やした。それがまた楽しいのである。
インナー24Tのトリプルギアを装着した、筆者のバイク
路面状況や走行条件の微妙な変化に合わせて細かく対応したいのならば、後のスプロケットギアを歯数差の少ない12-24tなどといったクロスレシオに変更すれば良い。自分の走りのスタイルと技量に合わせた仕様に改造して行けばいいのだ。
但しその際必ず確認せねばならないのが、前後のディレイラーのキャパシティである。レース仕様のディレイラーならば歯数差の大きなアウター/インナーには対応できない場合があるし、後ギアも大きな歯数のものはリアディレイラーの一部に干渉することもあるので要注意だ。また、後ギアを新しくする場合はセットでチェーンも交換したほうが良い。新品と使い込んだものは馴染みが悪く歯飛びしやすくなる。
ハンドル周りは特にフラットバーの場合ポジショニングのオプションが欲しくなる。バーエンドにイクステンショバーやスピナッチを取り付ければ上りなどで力を入れやすいポジションがとれるし、付け方を工夫すればアップライトなラクなポジション設定も可能だ。ステムもメーカー標準設定の自転車には100mm前後のものが付いているが、好みに合わせてより前傾を取りたいなら長めに、アップライトなポジションにするなら短めに変更できる。
ドロップハンドルにも様々な形状や材質があり、値段の幅も大きい。自分に合った使い勝手とブレーキレバーとの相性、デザインのマッチングなども考えれば、それだけでいろいろ思いが巡ってしまう。
サドルはしばらく乗ってみなければ自分(のお尻)に合っているかどうかはわからないため変更は慎重にしたい。形状や硬さなど様々な種類があるが、一般に着座部の幅はロードバイク用、ツーリング用、MTB用、女性用の順に広くなる。特に女性は骨盤が広いため、初心者には安定して座りやすい女性用がお勧めである。もちろん男性が使っても構わないが……。硬さも素材によって様々でクッションジェル入りの柔らかいものもある。
クランクは脚が回せるようになれば少し短めに変えるとより回しやすくなるし、踏み込む力を優先するなら長めの選択もある。5mm刻みで設定があるが、ベストな長さを選ぶには、やはりしっかり乗り込んで身体で評価できるようにしたいものだ。
タイヤは比較的交換しやすいパーツだ。軽快な走りを楽しみたいのなら技量に合わせより細くトレッドのないタイヤに変更する。乗り心地や多少の段差なども気にせずに乗りたいのならば太めのタイヤ、オフロードも楽しみたいのならばゴツゴツとした深いトレッドのタイヤを選ぶ。ひとつのホイール(リム)でも何種類かのタイヤ装着が可能なので走るコースに合わせて履き替えることもできる。
走りの軽さに最も効果があるのがホイールである。リムの形状もクリンチャー、チューブレス、チューブラーとあってそれぞれにエアロタイプやデイープタイプなど材質も含めていろんな選択肢が広がっている。値段もホイールセットで100万円近いものもあるが、やはり高級ホイールは驚くほど走りが軽くなる。市販車には比較的ベーシックなホイールが装着されているので、多少の予算があって軽い走りを求めるなら、10万円以上のホイールにすればその効果を明確に実感できるであろう。
ステム長やライト類のセレクトなど、ハンドルまわりのには乗り手の個性が現れる
<コンポーネントパーツ>
コンポーネントパーツとは主に駆動系、変速機系、ブレーキ系のパーツをセットとしてグレード別にラインナップした基本部品群のことである。ロードバイクのコンポーネントパーツは日本のシマノとイタリアのカンパーニョロ、アメリカのスラムで世界市場を独占しており、メーカーの選択はほぼこの3社に絞られる。但しこの3社の製品には互換性のないものが多いので要注意だ。グレードは別表のとおりだが、その差は重さが何グラム違うだとかレスポンスがコンマ以下の数字で微妙に早いだとかレースで0.1秒を競う人々のニーズに合わせたもので、低級グレードでも元々の基本性能が優れているのでサイクリング用には全く問題ない。但し、デザインの好みや見栄などでより高級グレードパーツを求める人も多く、楽しみのひとつでもある。全てのパーツを同じシリーズで揃える必要はなく、自分のニーズや好みに合わせて選べば良い。
さまざまなグレードがあるコンポーネント選びに悩む方も多いだろう
<深みに嵌れば、オタクの世界?>
自転車は簡単そうな構造に見えて、パーツの数は百数十もある。そのひとつひとつに幾つもの選択肢があり、組合せは無限大である。その中から自分の技術や体力、思いやセンスに合わせてパーツや組合せを選んで、オリジナルに創りあげて行く。それは喜びと満足感に溢れている。
入手するのも、ショップでの購入は一番安心だが、自分でメカができるならば、通販やオークションを活用すれば安い場合が多い。新品にこだわる必要はないのだ。更には、パーツそのものをコレクションとするオタク的な楽しみ方もある。年代物や貴重なレアものパーツを入手するのは容易ではなく、コレクターとしての喜びを味わうこともできるのである。アニオタの方々はディスクホイールにアニメを描いた「痛チャリ」の世界を楽しんでいらっしゃる人々も多い。
いずれにせよ、創造していく自転車には常に改善の余地があり、そこをクリアすればまた別の改造をしたくなってくるものなのである。そんな自分のオリジナルな自転車を部屋で飲みながら眺めるのは、ある意味究極の一人酒の楽しみかもしれない。
ナルシストかオタクか、それともちょっと変態なのだろうか……。
レアなビンテージパーツなどは、自転車フリーマーケットで探すのも手だ
(瀬戸圭祐さんの「快適自転車ライフ宣言」は隔週火曜日掲載です。次回は1月3日(火)に公開予定です。お楽しみに!)
第2章 ハマるとヤバい?自転車の魅力!
<項目>
7)自転車ナルシスト!自分だけの自転車に心酔する
8)仲間が増える!自転車コミュニティ
著者プロフィール
瀬戸圭祐せと けいすけ
中学/⾼校時代に⽇本全国を⾛破し、その後、ロッキー、アルプス、⻄ヒマラヤ/カラコルム、ヒンズークシュ、北極圏スカンジナビアなど世界の⼤⼭脈を⾃転⾞で単独縦断⾛破。 ⼗数年ジテツウを続けており、週末はツーリングや⾃転⾞イベントなどを企画実施。 ⾃転⾞の魅⼒や楽しみを著書やメディアへの掲載、市⺠⼤学での講座、講演やSNSなどで発信し続けており、「より良い⾃転⾞社会」に向けての活動をライフワークとしている。 NPO法⼈ ⾃転⾞活⽤推進研究会 理事、(⼀社)グッド・チャリズム宣⾔プロジェクト理事のほか、 (⼀財)⽇本⾃転⾞普及協会 事業評価委員、丸の内朝⼤学「快適⾃転⾞ライフクラス」講師、環境省「環境に優しい⾃転⾞の活⽤⽅策検討会」検討員などを歴任。