2016年11月22日
瀬戸圭祐の 「快適自転車ライフ宣言」 2-5)Mの世界?パスハンティングの快感
第2章:ハマるとヤバい?自転車の魅力! その5 Mの世界?パスハンティングの快感
「坂バカ」と言われる人々が増えつつある。
坂道を速く上ることにひたすら情熱を燃やしたり、激坂を足を着かずに上りきれるかといった限界に挑み続けるといった、かなりMな人たちである。
日本中のハードな上り坂を求めて、そこを征服する達成感や自己満足に浸ることで快感を覚える……普通の人から見れば、ちょっと変態かとも思われる種族でもある!?
そこまで行かずとも、坂を上ることを楽しみ愛する「ヒルクライマー」はここ数年で激増したように思える。
しかし「快適自転車ライフ宣言」では、Mの世界に深入りはせず、その手前のパスハンティング(峠越え)の楽しみについて語りたい。
ってその違いもビミョーだが……。
超激坂として有名な暗峠を走りきった著者(写真左)
ツーリングは様々な趣を求めて知識見聞を広めて行く楽しみがあるが、達成感や充足感、人との繋がりや人情に触れるといったエモーショナルな楽しみも大きい。峠越えの達成感、人との出会いと地域との交流などもツーリングの大切な要素なのである。ツーリングを続けているといずれかは峠越えをしなければならないだろう。自分のツーリングの世界を広げて行くなかでの宿命でもある。標高差や難易度はいろいろあるが、それを乗り越えて達成感を味わうことができれば、一皮向けたツーリングの世界と新たな楽しみが待っている。
どんな峠であれ自分の力だけで上ることが求められる。途中で降りて押そうが、休憩を何度とろうが、時間がかかろうが構わないが、他人に引っ張ってもらったりおんぶをしてもらったりするのは物理的にも無理な話だし、輪行をするといっても都合よくバスが走っているケースは少ない。ある意味引き返す以外には逃げ道のない背水の陣なのである。だからこそ上りきった時の達成感、満足感、そして征服感は大きなものとなる。
何度も峠越えの経験を積み重ねていると、より高い峠を目指したくなる。より難易度の高い峠を越えることにより、その度に初めての峠越えに感動した時と同様の喜びを覚えることができるのだ。そして上ることに快感を覚え、その楽しみ方を知ったなら、きっと峠を征服するパスハンティングにはまってしまうのである。ちなみに著者はその素晴らしさにはまり、より大きな感動を求め、ついにはアルプスやロッキー、ヒンズークシュやカラコルムといった世界の屋根まで自転車で走破してしまった。
ってやっぱMの世界……。
上りきった時の達成感は走った者にしか分からない感覚だ
パスハンティングは自転車とともに苦労して一生懸命に上り、自転車との一体感が生まれるサイクリングの醍醐味だ。上りきった峠からの大景観もそこにたどり着くまでの苦労があってこそのものであり、クルマやバスで労せずしてやってきた場合とは同じ場所でも、見える景色もその素晴らしさもまるで違うのである。
がんばった者へのご褒美はそれだけではなく爽快で気持ちのいい下りの楽しみがある。重力に身を任せ、心地よい緊張のなかで風を切って下っていく快感は言葉では表せないものがある。自分専用のジェットコースターに乗っているような気分だ。
爽快な下りはがんばった自分へのご褒美だ
パスハンティングを楽しんだり、いつも自転車で坂道を走っていたりすると自分の体のなかで峠や坂道は目標達成に一生懸命になれるフィールドという概念が染み付いてくる。自転車で走った道をクルマで上るときは、全く何の苦労もなく峠についてしまい、何かとてもズルイことをしたような気分になってきて罪悪感を覚える。また自転車にも申し訳ない感じがする。この妙な罪の意識を感じるようになれればサイクリストとして一人前と言えるだろう。もしかしたらMの世界に入り込んで行くかもしれない。
更には普通のクルマの通れる峠道では物足りなくなり、押したり担いだりして更なる高みやピークを求めるかもしれない。ちなみに自転車のラクな担ぎ方は、フレームの前三角(シートチューブ/トップチューブ/ダウンチューブ)の中に腕を入れ、サドル直下のトップチューブに肩をあててハンドルを持ちながら立ち上がる。通した手はフロントフォークの下部を掴み前輪を下げて歩く。スローピングフレームや前三角が小さいか、または無いフレームの場合はサドルのノーズ部分の下に肩を当てて持ち上げ、手は同様にフォークを握り、肩が痛くなれば左右を時々入れ替える。そうやって峠やピークを征服できれば、また更に高みを望んでしまうのである(やっぱMの世界!?)。
自転車を担いでのパスハンティングは醍醐味のひとつ
パスハンティングのルートは上りを短くし下りを長くするようなコース設定のほうが楽しめる。上りの急坂は大変そうだが、短距離短時間で高度を稼げ、効率的に上れる。そして下りは緩めの坂のほうがスピードも楽しめ、ブレーキングも楽である。逆だとダラダラと長い時間を費やして上り、下りは急坂をブレーキを握りしめながらノロノロと進む事になりかねない。
パスハンティングではクルマが少ない、または来ないほうが絶対に良い。上りはスピードが落ちるため安定しづらくなり、横をクルマがバンバン抜いていくと落ち着かないし、下りでは高速になるためクルマが多いとリスクも高まる。
国道や県道の峠に新しいトンネルができたところなどは、旧道は格好のツーリングコースとなる。交通量は激減し、人々の往来の無い侘しい風情のある道となっている場合が多い。道によっては長年整備されずに舗装が剥げていたり割れ目から雑草が生えていたりするがそれも趣がある。道路族の議員などが税金でバイパスやトンネルを作ってくれた結果の、サイクリストには嬉しい副産物だ。
仲間と一緒のパスハンティングならば、街中では得られない苦楽を共にした者同士の結びつきも強まってくる。仲間同士でなくとも峠にサイクリストがいればそれだけで同胞意識が芽生えたり、それがきっかけで交流が始まったりすることだってある。
人とのふれあいもツーリングの魅力のひとつである。峠に限らずサイクリスト同士であれば、休憩地や立ち寄りポイントなどで一緒になった際には自然と挨拶から会話が始まる。
いろいろな情報を交換しあうことでそれぞれのツーリングが充実するであろうし、同じフィールドを走っている仲間がいることも心強くなる。
峠を上りきるという目標をともにする仲間とのパスハンティングは絆を深めてくれる
サイクリスト同士でなくてもいろんな人と積極的にコンタクトしてみたい。特に地元の人には挨拶をしたり道を尋ねたりする機会も多いだろう。それをきっかけにその街や集落、周辺の観光ポイントや祭り、イベントの情報などを入手できることもある。その土地で取れる食産物や名物を教えてもらったり、時には戴けることもある。著者はそれがきっかけで普通の民家に泊めてもらったことも多々あるのだ。土地の人の話を聞くことで文化や歴史風土の勉強になることもあれば逆に自分の住んでいる街の話を聞かれることだってある。臆せず恥ずかしがらずにいろんな人々と交流をもつことができれば、それだけツーリングそのものもより充実した満足度の高いものとなるのだ。
峠越えはツーリングを続けていれば必ずやってくる。ビギナーには峠どころか坂道が大嫌いという人も多い。しかし嫌々でも少しずつ挑戦してみよう。無理せずゆっくり上ればいつかは必ず上りつくのである。ポイントは息を切らさずに、話をしながらでも進めるようなラクな自分のペースで、そのうち必ず着くのだからと焦らずドーンと構えて笑顔で上ることである。実際に走ってみると最初は辛いと思うこともあるが、時間をかければ必す上れる。そして上りきった達成感を味わうとこれが楽しみに変わっていくのである。そこには新たな世界が待っているのだ。
パスハンティングの魅力を知ってしまったら、ヒルクライムイベントに参加してみるのもおすすめだ
(瀬戸圭祐さんの「快適自転車ライフ宣言」は隔週火曜日掲載です。次回は12月6日に公開予定です。お楽しみに!)
第2章 ハマるとヤバい?自転車の魅力!
<項目>
5)Mの世界?パスハンティングの快感
6)百花繚乱!イベントは選り取り見取り
7)自転車ナルシスト!自分だけの自転車に心酔する
8)仲間が増える!自転車コミュニティ
著者プロフィール
瀬戸圭祐せと けいすけ
中学/⾼校時代に⽇本全国を⾛破し、その後、ロッキー、アルプス、⻄ヒマラヤ/カラコルム、ヒンズークシュ、北極圏スカンジナビアなど世界の⼤⼭脈を⾃転⾞で単独縦断⾛破。 ⼗数年ジテツウを続けており、週末はツーリングや⾃転⾞イベントなどを企画実施。 ⾃転⾞の魅⼒や楽しみを著書やメディアへの掲載、市⺠⼤学での講座、講演やSNSなどで発信し続けており、「より良い⾃転⾞社会」に向けての活動をライフワークとしている。 NPO法⼈ ⾃転⾞活⽤推進研究会 理事、(⼀社)グッド・チャリズム宣⾔プロジェクト理事のほか、 (⼀財)⽇本⾃転⾞普及協会 事業評価委員、丸の内朝⼤学「快適⾃転⾞ライフクラス」講師、環境省「環境に優しい⾃転⾞の活⽤⽅策検討会」検討員などを歴任。