2016年08月16日
瀬戸圭祐の「快適自転車ライフ宣言」 1-3)複雑怪奇な自転車交通ルール
第1章:東京を自転車シティに!「より良い自転車社会」を実現させよう! その3 複雑怪奇な自転車交通ルール
日本の自転車事故の件数は、先進国中で一番多い。
その最大の要因は、「自転車が歩道を走る」という日本の慣習である。
かつては日本でも「自転車は車道」が当たり前だったが、1970年代にクルマが急速に普及してクルマと自転車の事故が激増した結果、臨時措置として自転車の歩道走行が認められた。あくまで暫定的な対応であったはずだが、以後抜本的な対策がとられることなく、自転車の歩道走行が定着し現在に続いている。
自転車は車道というのが道交法のルールであるにもかかわらず、多くは歩道で歩行者を脅かしながら走っているのが現状なのである。
その結果、自転車対歩行者の事故のおよそ4割は歩道上で発生しており「自転車が歩道を走る」という日本独特の慣習が少なからず事故を生む土壌となっている。 2000年と2010年を比較すると、交通事故の総件数が約2割減っている一方で、自転車対歩行者の事故は1.5倍となっており交通事故全体に占める自転車関係事故の比率は増え続けている。
また、自転車の歩道走行は、歩行者のみならず、自転車にとっても危険である。歩道を走る自転車はクルマから認知されにくいため、車道を走る場合に比べて交差点でのクルマとの事故発生率が格段に高い。 自転車が歩道を走る場合、事故にあう確率は車道を走る場合よりも7倍近く高いとするデータもある。クルマの横を走るよりも歩道の方が安全に感じるかもしれないが、クルマから認知されやすい車道を走る方が、じつは安全なのである。
そして、根本的な問題は、自転車を利用している皆さんが、自転車交通ルールを正しく理解していない事である。
と言うか自転車交通ルールそのものが複雑怪奇で、世の中にちゃんと認知されていないのである。
たとえばベルの装着は義務付けられているが、歩道で歩行者に対しベルを鳴らすと違反となる。
今回はそんな複雑怪奇な自転車交通ルールを考えてみたいと思う。
①左折レーンのある交差点の直進
法律的には左折レーンの左から真っ直ぐ行くのが適正とされ、左端をそのまま直進通過すればよいのだが、左折車両に巻き込まれるリスクが高い。
とくに信号待ちをして発信しようとする際、同じく信号待ちをしていた左折車両と接触する事故が起こりやすくなる。
さらに交通量が多いとずっと左折車両に阻まれて直進ができず、そのうちに信号がまた赤に変わってしまい、左折車両を無理やり止めない限りいつまでも交差点を直進することはできない。これが法律なのかと疑ってしまうが、それが実状なのである。
これを回避するために、真ん中の直進レーンを通行する方々がいる。
しかし、自転車は車道の一番左側の車線を通行せねばならないため、これは厳密には違反になる。
ならば、法律に従いしかも安全に交差点を通過すのはどうすれば良いのか?
交差点の百~数十m手前から一番左側の車線の右端に移動し、左折車両の右側を通れば巻き込まれる事は無い。もちろん左折車両の往来する車線を斜めに横切るので、十分な注意が必要である。
軽車両は複数車線の場合第一車線で左に寄る必要がなく、一番左側の車線の右端でも違法ではない。但し、単車線の場合は左側を通行せねばならず、これも誤解を生じさせる複雑怪奇なルールである。
もしくは、交差点で自転車を降りて歩道を押して歩き横断歩道を渡ってから、また車道に出てから乗車して出発するというのが、最も安全で法律上も問題がないが、時間が十分にある方でないと、そんな悠長な事はしていられないだろう。
②横断歩道に併設された自転車横断帯のある交差点の直進
道路交通法63条7項では、「当該交差点又はその付近に自転車横断帯があるときは(中略)当該自転車横断帯を進行しなければならない」となっている。
つまり自転車横断帯を通らねばならず、そのまま直進するのはダメという事である。
しかし、実際にこのとおり通行しようとすると、まずは少し左折してからまた右折するようにして自転車横断帯に入ることとなる。左折してくるクルマのドライバーから見れば、前を行く自転車が左折したのでクルマも左折したら、自転車がいきなり右折して目の前に出てくる事になる。これはメッチャ危険であり事故も多い。実際自転車事故の7割が交差点で発生しており、このケースも随分ある。
道交法に背いて素直に交差点をそのまま直進したほうが、ずっと安全なのである。
あまりにおかしなルールであり、危険を誘発する自転車横断帯は現在急ピッチで削除されているが、まだまだ残っており、道交法もそのままになっている。
削除されない自転車横断帯が残っているのは、歩道を通行する自転車のためというらしいが、自転車の歩道走行は禁止であってそれを助長するような対応は即刻止めて改善してもらいたいものである。
自転車活用推進研究会では、問い合わせがあれば、そのまま直進するほうが安全である旨を伝えている。
③どの信号に従うべきか
走行中に従うべき信号は、定められた走行場所に対面する信号機というのが法律である。
自転車は車両であるため、車両用の信号に従うべきである。
しかし、歩道を通行している自転車は歩行者用信号に従って、車道を走行中の自転車は車両用の信号に従うと思っている方が多いが間違いである。歩道にある信号は歩行者用であり、自転車は通行禁止だから自転車用の信号は有り得ないハズである。
が、「歩行者・自転車専用」「自転車専用」といった信号が歩道に設置されている場所が多い。仮に車道左側を走行してきた場合、対面する信号機というのは当然クルマ用の信号となるが、並行する歩道の先に「歩行者・自転車専用」と記された信号があれば、それに従わなければならないと解釈されている。これもおかしなルールであり事故を誘発しかねない。
先ほどの自転車横断帯のある交差点と同様に、道交法に背いて素直に交差点をそのまま直進したほうが、ずっと安全なのである。
④スマホや携帯を操作しながらの運転
自転車を運転しながらのスマホや携帯電話の使用禁止する規定は、各都道府県によって異なっている。
例えば東京都の場合は、「自転車を運転するときは、携帯電話用装置を手で保持して通話し、又は画像表示用装置に表示された画像を注視しないこと」となっている。
つまり、手で持って通話しながらの運転と画面を注視しながらの運転は違反とのことだ。
青森県は、「携帯電話を手で保持することなく、かつ、携帯電話に表示された画像を注視することなく使用することができる場合にあっては、この限りでない」との規定で、ハンズフリーやスマホホルダーを使えばOKとしている県もある。
イヤホンやヘッドホンの使用、傘さし運転(「さすべえ」を含む)などについての規定も各都道府県により異なっている。それぞれ在住地での道路交通規則を確認しても良いが、大切なのは自分と周辺の方々の安全の確保であり、仮に規則で違反にならないと解釈できても、安全性が低下するリスクがあることはするべきではない。
⑤ライトの規制も都道府県によって異なる
道路交通法では、夜間自転車で道路を走るときは、前照灯及び尾灯(又は反射器材)をつけなければならないとなっている。ライトは道をしっかり照らし路面状況を確認するためにあるが、どの程度の明るさが必要なのか?
東京都の場合は10m先の状況がわかる事が求められており、神奈川県の場合はこれが5mである。具体的な明るさが明記されていない場合も多く、「ホタルのような光でもよい」なんて勝手に解釈できるかもしれない。またバッテリーの節約のためか点滅式のライトにしている人がいるが、これは路面状況がしっかり確認できないため前照灯とは認められない。
都会の夜道を走行するのには実は尾灯のほうが大切である。ライトの重要な目的は道を照らすよりも、まわりのクルマに存在をアピールする事である。どんどんと追い抜いて行くクルマは後方から自転車を認知する。それが遅れると事故につながるのだ。ドライバーへの認知を高めるためにも、尾灯は少しでも高光度のものをできれば複数装備したほうが良いだろう。
自転車交通ルールは複雑怪奇なのであるが、そんな中で、自転車を安全に乗るためにはどうすれば良いか?
原付バイクに乗るのと同様にルール順守をすればよいと思う。原付バイクは『原動機付き自転車』である。免許が必要な車両と意識して点数が引かれると思えば、まさか原付で歩道を走行はしないだろう。
皆がそういう意識で自転車に乗れば、マナーも向上し安全な交通社会につながって行くと思う。
(イラスト/イケウチリリー)
(次回の掲載は8月30日の予定です。お楽しみに!)
瀬戸圭祐の「快適自転車ライフ宣言」
第1章 東京を自転車シティに!「より良い自転車社会」を実現させよう!
<項目>(予定)
3)複雑怪奇な自転車交通ルール
4)自転車活用推進研究会は、快適な自転車走行環境を実現させる
5)マナー向上とルール順守のために、グッチャリは頑張る!
6)世界最大の自転車国際会議を日本で開催しよう!
著者プロフィール
瀬戸圭祐せと けいすけ
中学/⾼校時代に⽇本全国を⾛破し、その後、ロッキー、アルプス、⻄ヒマラヤ/カラコルム、ヒンズークシュ、北極圏スカンジナビアなど世界の⼤⼭脈を⾃転⾞で単独縦断⾛破。 ⼗数年ジテツウを続けており、週末はツーリングや⾃転⾞イベントなどを企画実施。 ⾃転⾞の魅⼒や楽しみを著書やメディアへの掲載、市⺠⼤学での講座、講演やSNSなどで発信し続けており、「より良い⾃転⾞社会」に向けての活動をライフワークとしている。 NPO法⼈ ⾃転⾞活⽤推進研究会 理事、(⼀社)グッド・チャリズム宣⾔プロジェクト理事のほか、 (⼀財)⽇本⾃転⾞普及協会 事業評価委員、丸の内朝⼤学「快適⾃転⾞ライフクラス」講師、環境省「環境に優しい⾃転⾞の活⽤⽅策検討会」検討員などを歴任。