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2018年07月04日

リエチ先生のサイクリストからだ相談室【ひざ痛:3回目 ひざの外側の痛み】

IMG_7552今年の富士ヒルクライム、みなさんいかがでしたか?
私も10年くらい前は恒例行事だっただけに、仲間たちの記録が気になるところです。雨女の私は当時大雨に降られてしまい、レース本番の思い出よりもゴール後の下山でのスリップの恐怖と、寒さでブレーキに力が入らなかった恐怖を強く覚えています。
最近ではトライアスロンレース前ということで、千葉県鴨川市にある「清澄寺」のプチヒルクライムに行ってきました。片道約5.8kmの手頃な距離で車も少なく、お気に入りのコースです。さて、今回は自転車で起こるひざ痛3回目、「ひざの外側の痛み」です。

 

 

 

 

 

 

 

 

自転車歴5年です。1年ほど仕事が忙しくて乗れていなかったのですが、今年から自転車を再開しています。サドルも高めに調整し直しました。最近ロードバイクに乗っていると、20kmあたりから左ひざの外側が痛くなります。先日は痛みのために途中から自転車を押して帰りました。それからはすぐに痛みが出るようになり、自転車に乗るのが怖いです。  
35歳男性

 

ひざの痛みに関して、1回目は「ひざの痛み全般」,2回目「ひざの前側の痛み」についてお伝えしました。

今回の相談の方ですが、自転車で起こるひざの痛みの中でも2番目に多い「腸脛靭帯炎(ちょうけいじんたいえん)」の可能性が高いです。
腸脛靭帯とは太ももの外側にある長い靭帯のことで、股関節の横にある骨の出っ張り(大転子)の下からスネにある脛骨(けいこつ)の外側に走行しています。(図1、2)(写真1)
この靭帯の上の部分には、お尻にある大臀筋とポケットの位置にある大腿筋膜張筋が入りこんでいます。

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図.1


 

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図.2


 

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写真.1
③が腸脛靭帯炎(ちょうけいじんたいえん)が起こる場所。
①は大腿四頭筋腱付着部炎(だいたいしとうきんけんふちゃくぶえん)、②は膝蓋腱炎(しつがいけんえん)が起こる場所。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


この靭帯はひざを曲げ伸ばしした時に、ちょうど30°曲がったところでひざの外側の骨(大腿骨外側顆:だいたいこつがいそくか)を乗り越えます。ペダリング中のひざの完全伸展角度は30〜40°前後なので、ひざの外側の骨を乗り越える時の摩擦を繰り返して炎症を起こすことがあります。

原因ですが、まずはもともと自身が持っている解剖学的特徴が考えられます。例えばO脚やX脚、大腿骨外側顆が通常よりも大きいなどです。
腸脛靭帯の柔軟性が低下して硬く張っていることや、腸脛靭帯の上側にある大臀筋や大腿筋膜張筋などのお尻周囲の筋肉の柔軟性低下も影響します。
股関節の外転筋力の低下や、大腿四頭筋、ハムストリングスの筋力低下も原因になります。
また、ペダルを踏み込んだときにかかとの骨が内側に倒れこみやすかったり、下肢の骨の形態の特徴がある場合も痛みを起こすことがあります。

バイクのセッティングも重要な要素のひとつです。例えばサドルが高すぎたり後ろすぎると、ひざの屈曲角度が30°を超えて伸びてしまうため、ひざの外側で摩擦の刺激が増える可能性があります。

下肢の形態異常があるときに、クリートを利用して足の向きの無理な矯正をすると腸脛靭帯が張るため、痛みを起こすことがあります。

軽いギアで高いケイデンスを維持すると発生する可能性があると指摘されており、全力を出すレースなどでは注意したほうがいいでしょう。
治療法ですが、痛みが強い場合はアイシングをするといいでしょう。走行中はコンビニの氷などを利用すると手軽です。辛い場合は消炎鎮痛剤を内服したり湿布を利用してもいいでしょう。
ひざ用サポーターの利用もかまいませんが、ランナーひざ用のサポーターはペダリングしづらくなるため、薄手のものが使いやすいでしょう(ランナーひざも同じ腸脛靭帯炎のことを指しますが、ランナーひざ用のサポーターは構造がしっかりしているため、サイクリストが使うとペダリングに支障がでることが多い印象があります)。
予防と対策ですが、腸脛靭帯のストレッチや筋膜リリースがオススメです。
特にローラーを利用したストレッチは痛みが軽減します。大臀筋や中臀筋のストレッチも有効です。
外転筋力を鍛えることも大切で、方法としてはクラムシェルやヒップアブダクション、サイドブリッジなどがいいでしょう。

ストレッチはすべて反動を使わず、気持ちいいと思える位置で止め、15秒から20秒ほど伸ばしましょう。


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【腸脛靭帯ストレッチ】
方法:両足を揃えて立ち、軸になる脚(写真では右脚)とクロスするように、伸ばしたい脚(写真では左脚)を後ろに大きく引き、足の甲を床につける。
両手を軸脚のひざに乗せ、ひざを曲げて後ろ脚に体重をかけながら後ろ脚の太ももの外側をストレッチする。左右を変えて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


image2-2
【腸脛靭帯筋膜リリース】
方法:上記のポジションで、体を両手で支えながら、伸ばした後ろ脚の太ももの外側のひざ上から股関節下までローラーで数回転がす。痛い場所があれば、その場所で30秒ほどローラーを当てたままキープ。左右を変えて。
※筋膜リリース用のローラーがなければ、缶にタオルを巻いて使用する。


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【お尻伸ばしストレッチ:中臀筋】
方法:床に座り、伸ばす方(写真では左)のひざを曲げて逆脚の外側に足をつく。立てたひざの外側に反対の肘を当てて、肘で押しながら上体をひねる。目線はひねった方へ向け、一方の手は後ろにつく。左右。


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【お尻伸ばしストレッチ(床で):大臀筋】
方法:床で仰向けになり、伸ばす方の脚(写真は右脚)を、逆の太ももに組む。

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下になっている太ももの後ろを両手で持ち、できる限りこれを胸に近づけると、伸ばしたい脚(ここでは右)のお尻からももの外側が伸びる。左右。


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【お尻伸ばしストレッチ(イスで):大臀筋】
方法:イスに座り、片脚の足首を反対のひざに乗せ、足首とひざ下に手を置く。
上体を前に倒し、乗せた脚のふくらはぎに胸が近づくようにしてお尻を伸ばす。左右。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


6
【クラムシェル:股関節の筋力トレーニング】
床に横になり、片腕を枕にする。両足を揃えて閉じ、かかとをつけたまま股関節屈曲0度、45度、90度の角度でひざを開く。骨盤が動かないように気をつける。
10回を3-5セット繰り返す。


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【サイドブリッジ:腹横筋、腹斜筋、股関節の外転筋(中臀筋)】
方法:写真上 写真のように横になり、肘が肩の真下になるようにつく。上側の手は腰に当てる。(写真ではまっすぐですが、腰に当てた方がやりやすいかも)。

写真下 お腹をへこませてから腰を浮かせていく。このとき、頭と体幹、脚が一直線になるようにする。この状態で30秒キープ。余裕があれば、この状態から上の脚を開いてキープしてもよい。
 

痛みが落ち着いたら、ウォーキングや水泳、体幹トレーニングなど運動は続けてもいいでしょう。
自転車では平地のトレーニングを中心に低負荷で行いましょう。
冬の時期やヒルクライムではいつもより気温が低く、筋温が下がることで筋肉の柔軟性が低下します。
ひざの痛みが改善しても練習を再開するときには保温対策を忘れないようにしましょう。
バイクのセッティング見直しも重要です。サドルの位置が高すぎたりやクリートでの無理な矯正などがないか、確認しましょう。
これだけで痛みがなくなる可能性もあります。
シューズの中でかかとが安定しない場合は、シューズの見直しや自分にあったインソールに入れ替えると楽なことがあります。
保存療法で8割以上が治療に成功したという報告がある一方で、12ヶ月後に症状がなかったのは30%との報告もあり、治るけれども長引きやすい印象があります。
改善しない場合や原因がわからない場合は、整形外科を受診しましょう。

牛島史雄:自転車ロードレース障害.持久系スポーツによる運動器障害Ⅱ〜治療と予防〜.臨床スポーツ医学vol.34:698-7022017.7

自転車女医のサイクリニック エイ出版社 蔵本理枝子/ドロンジョーヌ恩田 共著p38-42

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