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2018年08月04日

リエチ先生のサイクリストからだ相談室【熱中症】サイクリストのための熱中症対策

うだるような暑い日々が続いていますが、みなさん熱中症対策はしていますか?
連日の猛暑日が続き、テレビでは熱中症で亡くなる方のニュースが後を絶ちません。その多くが高齢者ですが、スポーツで起こる熱中症も数多く知られており、予防することで救える命がたくさんあります。

今回は緊急企画、「サイクリングでの熱中症対策」です!
まずは、健康診断で肥満を指摘されている40代男性からの相談をもとに、熱中症について解説しましょう。

Q .仕事はデスクワークで、オフィスで10時間以上過ごすことが多いです。今年になってダイエット目的のため、ロードバイクを購入し週末サイクリングを楽しんでいます。
2週間後の週末に、サイクリングロードで地元の自転車仲間と走る予定ですが、久々なので熱中症が心配です。飲水や服装など気をつけることはありますか?

さて、みなさんはサイクリングでは熱中症になりにくいと考えていませんか? 確かにサイクリングでは時速30kmを超えることも多く、風に当たって涼しい印象があるかもしれません。
しかし実はサイクリングにも多くの熱中症リスクが潜んでいます。海外の報告では年間数名の方が熱中症で亡くなられているというものもありました。熱中症は予防できますが、一歩判断を誤ると健康だった方が24時間以内に亡くなることもあるのです。
軽症の熱中症であっても、集中力の低下やめまいなどでハンドル操作を誤ると、落車や追突の危険があります。

相談の方のように特に暑さに慣れていない肥満、運動不足、初心者の方は熱中症になりやすいため注意が必要です。事前に1〜2週かけて暑さに慣れさせること、当日は塩分を含んだこまめな給水と多めの休息が必要です。可能な限り予防してサイクリングを楽しみましょう!

 

【熱中症とは?】
熱中症とは、熱が体内にこもることによって起きるさまざまな症状の総称です。
日本救急医学会分類2015によると、症状の重さによって以下の3段階に分類されています。

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図1:熱中症の症状と重症度分類

Ⅰ度(軽症:熱失神/熱けいれん)

立ちくらみ、めまい、大量の発汗、あくび、筋肉のこむら返り、手足のしびれなど。サイクリング中にもよく起こり、現場で対応可能。

Ⅱ度(中等度:熱疲労)

頭痛、吐き気、嘔吐、倦怠感、虚脱感、集中力や判断力の低下など。現場で応急処置し、改善なければただちに病院へ。

Ⅲ度(重症:熱射病)

意識障害、全身けいれん、まっすぐ走れない、歩けない、高体温など。検査では肝・腎機能障害、血液凝固障害などが判明する。入院が必要。


熱中症の原因は?

熱中症は、身体が熱を外に逃しきれなくなり、耐えられないほどの熱が体内に蓄積されることで起こります。

熱は気温や直射日光など身体の外から加わるもの以外に、運動でも身体から大量に発生します。運動中に筋肉で消費されるエネルギーのうち、筋収縮そのものに使われるのは約2〜3割で、残りの7〜8割は熱になると言われています。このとき気温や湿度が高く風が弱いと、熱を身体から逃しにくくなり、熱中症が発生します。


熱中症になりやすい人は?

①肥満の人:同じ運動でもエネルギーの消費が大きく熱がたくさん発生しますが、皮下脂肪が熱を外に出すのを妨げるため、熱がこもりやすくなります。
②体力の低い人:持久力が低い人は、循環機能も低いため、暑さに弱いです。
③暑さに慣れていない人:身体が暑さに慣れていないと、暑さに対する抵抗力が低くなります。※身体を暑さに慣らす方法は後ほど記載します。
④体調が悪い人:疲労、睡眠不足、発熱、かぜ、下痢、食欲低下、二日酔いなど
⑤熱中症にかかったことがある人
⑥持病がある人:糖尿病、高血圧、心臓疾患、精神疾患など


【熱中症の予防法】

〈サイクリング前までにできること〉
気温が高くなりはじめたら、1週間〜2週間かけて暑さに慣れる期間をつくりましょう。
方法:通勤や昼休みを利用して、ややきついと感じる速度で短時間(できれば20〜30分以上)のウォーキングなどを取り入れ、汗をかく習慣を身につけるといいでしょう。

前日の飲酒は可能な限り控えましょう
理由:どんな種類のお酒でも、アルコールは尿の量を増やし体内の水分を排泄してしまいます。運動前夜にアルコール摂取することで、運動前に脱水傾向になっている可能性があります。運動後のビールは最高においしいですが、これも脱水の原因になるため控えめにしましょう

運動直前はあらかじめ体温を下げるために身体を冷やした方が運動持続時間が長くなります。せめてサイクリング前は、集合場所などを工夫してなるべく日陰の涼しい場所で過ごしましょう。身体の外からの冷却以外に、最近話題のスラリーアイス(シャーベット状のアイス)を飲んで身体を中から冷やしてもいいでしょう。ただし内臓が弱くて下痢しやすい人は、無理に冷たいものを大量に摂る必要はありません。

〈当日の気温に関して〉
当日の暑さ指数(WBGT:湿球黒球温度)が31℃をこえたら、運動は原則中止しましょう。
自宅にある一般的な温度計の気温では35℃が目安で、湿度が高いときは特に注意しましょう。

地域別の暑さ指数(WBGT)は以下のサイトでチェックできます。
http://www.wbgt.env.go.jp/wbgt_data.php

 熱中症のリスクが高い日にどうしてもサイクリングに出かける場合は、なるべく早朝に済ませましょう。

〈当日の服装〉
服の素材は、大量発汗時には放湿性に優れた吸水速乾性の高い合成繊維が適しています。
一般的に、四肢を露出した方が熱は外へ出やすいと言われていますが、速乾性に優れているなど衣服の素材によっては素肌より効率的に水分を蒸発できるものがあります。四肢を露出する際には日焼けに注意しましょう。
服の色に関しては、黒色系よりも白色系の方が直射日光を反射するため、外からの熱を防ぐことができます。
ヘルメットは、なるべく通気性がいいものを選びましょう。

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私の熱中症対策ウェアはこれ!

〈補給は何を飲めばいい?〉
こまめに飲料を補給する。「喉の渇き」に応じて自由に補給するのがおすすめです。
具体的には、目安はコップ1杯を15分ごと。1時間あたり500ml〜1000mlの飲料を3〜4回に分けて補給します。日常生活では水やお茶でも構いませんが、運動時は塩分も失われるため、スポーツドリンクや経口補水液を利用して、0.1〜0.2%の塩分(ナトリウム40mg〜80mg/100ml)を補給します。
最近では飲料の栄養成分表示を確認すると、ナトリウムではなく「食塩相当量⚪g」と記載されているため、わかりやすくなっています。
2時間を超えるサイクリングをする方は、以下を参考にしましょう。
具体的には1時間で1リットルの汗をかくとすると、失う塩分は1.75〜3gなので、その5割〜7割にあたる0.75g〜1.5g/時間くらい塩分を補給できると安心。スポーツドリンクや補給食にも含まれているので、それらを考慮して摂取しすぎない(失った分だけ補う)ようにしましょう。

基礎疾患で塩分制限がある場合(高血圧や心・腎疾患など)は摂取量に注意しましょう。
アクエリアスで約1.0g/ℓ、ポカリスエットで約1.23g/ℓ、OS-1で約2.8g/ℓ、塩タブレットはメーカーによって0.107g〜0.45g/錠くらいまでさまざまです。
塩タブレットだけ急に飲み込むと胃けいれんを起こす恐れがあるため、必ず水と一緒に溶かしながら飲みましょう。かみ砕いてから摂取した方がより安全です。

水だけの補給だと、血液中の塩分が下がりすぎて低ナトリウム血症という症状に陥り、重症の場合は死亡する場合があります。
飲料の温度は常温より、5〜15℃の方が吸収がよく冷却効果もあります。
飲料の糖質は8%以上だと水分の消化管吸収を悪化させる可能性があり、6〜8%くらいが適当です。
毎朝起床時と、運動前後で体重をはかり、失われた水分量を把握しましょう。目標は体重減少が2%(50kgの人なら1kg)をこえないようにすることです。

〈走行中の注意:補給に関して〉
初心者は走行中にボトルが取れないことがあります。集団走行時は先頭がこれを理解し、信号がなくても給水のために立ち止まる時間を確保しましょう。

〈走行中の注意:補給以外に関して〉
こまめに休憩をとりましょう。30分に1回ほど寄れるコンビニや木陰を確保しましょう。
休憩時は、ヘルメットを外して頭部にこもった熱を外に逃がしましょう。
身体の暑さを強く感じる場合には、氷水やペットボトルの水で頭や身体を冷却するといいでしょう。走行中に身体に風があたることで気化熱を放散できます。(わかりやすいのは、真夏でも風呂上がりに濡れた身体でいると冷えて寒いですよね。あの仕組みです)
少しでも体調不良を感じたら止まって休みましょう。熱中症の軽症でもふらつきのために落車して大怪我をすることがあります。

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私が愛用している保冷ボトル「POLAR BOTTLE®」

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我が家に揃っているスポーツドリンク、経口補水液、塩タブレット(特にメーカーや種類にこだわりはなく、近所のドラッグストアで揃ったものです)

〈走行後の対策〉
氷水を入れて12℃前後になったバケツに下肢を3〜5分つけると、筋温を下げ、筋肉の微細な損傷に伴う炎症を抑える効果が期待できます。

【熱中症を疑う症状】
めまい、大量の発汗、嘔吐、悪寒
意識がもうろうとする
視線が定まらない
まっすぐ走れない
呼びかけに答えられない
会話が成り立たない

【応急処置】
まずは自分の症状の変化に気づくことが大切です。
汗が出なくなる、意識がもうろうとする、筋肉の攣りやけいれんが起こるなどの症状が出たら、ただちに止まりましょう。
涼しい場所で衣服をゆるめ、横たわりましょう。水分・塩分補給しながら氷や冷たい水で身体を冷やしましょう。扇風機やうちわがあればその風にあたると効果的です。
冷やす場所は大きな血管がある首、脇の下、股間などです。
通常は10分程度で症状が改善します。30分以上休んでも改善しない場合は、運動を中止して医療機関に向かいましょう。
吐き気などで水分補給ができない場合は医療機関にただちに向かいましょう。点滴などの治療が必要です。
言動や応答がおかしいなど少しでも意識障害が見られたら、重症の熱射病を疑い救急車を要請しましょう。救急車を待つ間も、身体の冷却は続けましょう。


いかがでしたでしょうか? 最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

この原稿を書いている室内はエアコンが効いているのですが、我が家の簡易温度計も熱中症危険マークがでているほど暑くて湿度が高く、水分補給なしには仕事できませんでした。

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我が家の簡易温度計

最近は昼間の運動がきついので、早朝ランニングや、昼間は水泳で熱中症対策をしています。今朝も5時からランニングしましたが、6時を過ぎると直射日光の日差しを強く感じました。早起きが得意な方は、6時前に運動するのがおすすめです!

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朝5時台のランニング

 

【参考HP】
公益財団法人日本スポーツ協会 熱中症を防ごう
http://www.japan-sports.or.jp/medicine/heatstroke/tabid523.html

スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック 公益財団法人日本スポーツ協会
http://www.japan-sports.or.jp/Portals/0/data/supoken/doc/nechusho_yobou_guidebook_2018.pdf

環境省 熱中症予防情報サイト
http://www.wbgt.env.go.jp

熱中症 環境保健マニュアル 環境省
http://www.wbgt.env.go.jp/pdf/manual/heatillness_manual_full_high.pdf

暑さ指数(WBGT)の実況と予測
http://www.wbgt.env.go.jp/wbgt_data.php

運動中の事故を防止するために〜競技団体からの提言〜
http://www.jtu.or.jp/news/2014/140711-1.html

【参考文献】
トライアスロン雑誌LUMINA
「アスリートドクターが教えるトライアスリートのための熱中症対策 指導 笠次良爾」

 

 

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