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2018年05月30日

リエチ先生のサイクリストからだ相談室【ひざ痛:2回目 ひざの前側の痛み】

ひざの前側の痛み

Q:自転車歴1年です。週末を中心にロードバイクを楽しんでいます。最近ブルペにはまり、週末にアップダウンが激しい道を長距離乗ることが増えました。2月ごろから坂を上るときに右ひざのお皿の周辺に痛みを感じるようになりました。しばらく休んで痛みがなくなったので、また山を自転車で上ったところ同じ場所に痛みが出てしまいました。なかなか改善しなくて困っています。  

45歳男性

前回は「自転車で起こるひざの痛み」全般に関してお伝えしました。

今回の相談は「ひざの前側の痛み」です。ひざの前側にあるお皿(膝蓋骨:しつがいこつ)周辺が痛い場合はいくつかの原因が考えられます。一番多いのは、お皿の下の腱が痛む「膝蓋腱炎」やその下の脂肪体の炎症「膝蓋下脂肪体炎」、お皿の上の腱が痛む「大腿四頭筋腱炎(だいたいしとうきんけんえん)」です。他にもお皿のうらの関節(膝蓋大腿関節:しつがいだいたいかんせつ)での炎症や、軟骨がすり減る「膝蓋大腿関節症」、全人口の30%に存在すると言われているお皿の内側にある滑膜ヒダが引っかかる「タナ障害」などもあります。
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図.1「右ひざを前から見たところ」
お皿を中心に、押して痛い場所を探ってみましょう。どのあたりが痛むかで、その原因が特定できます。
①大腿四頭筋腱付着部炎(だいたいしとうきんふちゃくぶえん)②膝蓋腱炎(しつがいけんえん)③腸脛靭帯炎(ちょうけいじんたいえん)④鵞足炎(がそくえん)
サイクリストのひざ痛では、ひざの前側の痛みである①と②、次に外側の③が多い。※黄色の丸は、加齢性の変化(変形など)や半月板損傷で痛みが出やすい部分。


 

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図.2 「右ひざを外側からみたところ」

痛みが起こりやすくなる原因

相談の方はこのいずれかの原因で痛みが出ている可能性が高いですが、いずれもペダリングによるひざの曲げ伸ばしで負担がかかる部位のため、まとめて説明しましょう。

ひざには太ももの骨とスネの骨が接している部分と、お皿と太ももの骨が接している部分の2か所の関節があります。このうち、前者は体重の負荷が影響する関節なので、自転車で痛むことはあまりありません。しかし、後者は、ひざの曲げ伸ばしをスムーズにするために重要な関節なので、自転車のペダリングに影響します。このお皿と太ももの関節のことを「膝蓋大腿関節:しつがいだいたいかんせつ」と呼んでいます(図.2)。

ペダリングの推進力を生む最も重要な筋肉が、太ももの前にある大きな大腿四頭筋ですが、この筋肉は「大腿四頭筋腱」としてひざのお皿に付着し、それがお皿の下にある「膝蓋腱」を介してスネの脛骨(けいこつ)に伝わります。この一連の動きを担うのが膝蓋大腿関節です。ペダリングの繰り返し動作でこのお皿が上下に動くため、膝蓋大腿関節の周囲に負荷がかかり痛みを起こすのです。

原因ですが、まず考えられるのはもともと自身が持っている解剖学的特徴があります。お皿の形や位置の異常、O脚、X脚、下肢の骨の形態の特徴が原因で、お皿の骨がスムーズに動かしづらい場合があります。

また、非常に多く見られるのが「大腿四頭筋の柔軟性が低下」しているケースです。ここが硬くなるとお皿周辺が突っ張ってしまうため、膝蓋大腿関節の圧が高まって損傷が起こりやすくなります。デスクワークなどを長期間続けてきた人は特に注意が必要です。うつ伏せになって、パートナーにひざを曲げてもらった時に、かかとがお尻に全くつかない場合は硬いと考えていいでしょう。

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【大腿四頭筋の硬さを調べる検査】
方法:
うつ伏せにした状態から片ひざを曲げ、かかととお尻の距離を測定
評価:かかとがお尻につかないと大腿四頭筋が硬い

太ももの後ろにあるハムストリングスや、お尻の大臀筋の柔軟性低下は股関節を曲げる動きの制限につながり、ふくらはぎの柔軟性低下は足首を反らす動きを制限するため、いずれもお皿の動きを悪化させます。


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【ハムストリングスを中心とした股関節後方の柔軟性を調べる検査】
方法:
仰向けでパートナーが下肢を持ち上げ、股関節の曲がる角度を測定する。
評価:床との角度が80〜90度以下だと硬い

大腿四頭筋の筋力低下や筋力のアンバランスが起こると、お皿の骨が屈伸時に外側にずれやすくなり、これもお皿の動きを悪化させます。

自転車のセッティングに関して考えてみると、サドルが低い場合はひざが深く曲がるため、膝蓋大腿関節の圧が高まります。ハンドルが低すぎたり、前方すぎても同様です。クランクが長すぎたり、クリートの位置が後ろすぎてもペダリングに影響するため、痛みの原因になります。ほかにも「かかとがグラつく」などシューズ内の不安定性も問題です。

相談の方のように、ヒルクライムではどうしてもペダルに高い負荷がかかり、回転数が低下します。すると、平地よりも膝蓋大腿関節の圧が高まり、痛みやすくなる可能性があります。

ズキズキと痛む場合はアイシングを
治療ですが、安静にしてもズキズキ痛む場合はアイシングを数分しましょう。サイクリング中の場合はコンビニの氷を利用すると手軽です。お皿を安定させるサポーターは痛みを軽減させる可能性がありますが、圧迫が強くひざの屈伸運動を妨げるものはかえって痛むことがありおすすめできません。痛みが強い場合は、自宅に戻ってから消炎鎮痛剤の内服や湿布などを利用してもいいでしょう。痛みがあるうちは、ウォーキングや水泳、体幹トレーニングなどの運動か、平地を中心に自転車に乗り、なるべくヒルクライムなどの痛みがでる動作は避けましょう。

再発予防のために

症状が落ち着いたら、再発予防のためにまずは原因を探りしっかりとセルフケアをしましょう。大腿四頭筋などの筋肉が硬い場合は、風呂上りの体が温まっている時や運動前にしっかりとストレッチをしましょう。普段から日常生活の中で習慣にすることが大切です。特に筋肉の柔軟性に左右差がある場合は、その差がなくなるように努力しましょう。硬い筋肉に円柱状のローラーをあてがい、ほぐすのもおすすめです。

ストレッチはすべて反動を使わず、気持ちいいと思える位置で止め、15秒から20秒ほど伸ばしましょう。

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【大腿四頭筋・腸腰筋ストレッチ】
方法:両脚を大股一歩前後に開いたら、前後のひざを90度に曲げる。

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後ろ脚のひざを曲げ、同じ側の手で足首を持つ。反対側の手は椅子などの支えに置くか、前脚のひざに置く。
上体を床と垂直にして、体重を真下にかけ、後脚の太ももを前へ傾けよう。


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【太ももの裏側(ハムストリングス)のストレッチ①】

方法:床に座り、片方のひざをあぐらのように曲げ、もう一方はまっすぐ前に伸ばす。両手を前に置き、胸を張って背すじを伸ばす。
へそをひざに近づけるように前傾し、両手で爪先に近い部分を持つ。猫背にならないように気をつけて。左右。


 

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【太ももの裏側(ハムストリングス)のストレッチ②】
方法:両手にフェイスタオルを持ち、床で仰向けになる。片脚を上げ、足にタオルをかける。反対の脚は床に伸ばして置く。ひざをできるだけ伸ばし、タオルを引いてつま先が自分の方に向くようにして、太ももの裏側を伸ばす。左右。


 

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【ハムストリングス、大臀筋ストレッチ】

方法:床で仰向けになり、片方のひざを曲げ、ひざの裏を両手で抱えて胸まで引き寄せる。反対の脚は伸ばしておく。

 

8
ひざの位置はそのままに、ひざを伸ばして上の脚をなるべく真っ直ぐにする。10秒キープ。これを5回繰り返す。左右。


9
【お尻伸ばしストレッチ(床で):大臀筋】
方法:床で仰向けになり、伸ばす方の脚(写真は右脚)を、逆の太ももに組む。

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下になっている太ももの後ろを両手で持ち、できる限りこれを胸に近づけると、伸ばしたい脚(ここでは右)のお尻からももの外側が伸びる。左右。


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【お尻伸ばしストレッチ(イスで):大臀筋】
方法:イスに座り、片脚の足首を反対のひざに乗せ、足首とひざ下に手を置く。
上体を前に倒し、乗せた脚のふくらはぎに胸が近づくようにしてお尻を伸ばす。左右。

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【お尻伸ばしストレッチ:中臀筋】
方法:床に座り、伸ばす方(写真では左)のひざを曲げて逆脚の外側に足をつく。立てたひざの外側に反対の肘を当てて、肘で押しながら上体をひねる。目線はひねった方へ向け、一方の手は後ろにつく。左右。


13
【ふくらはぎのストレッチ:腓腹筋】
方法:本や雑誌など(写真はヨガブロック)を利用し、高さ10㎝くらいの段差をつくる。その前に少し離れて立ち、片足のつま先を段差に乗せる。上体を真っ直ぐに保つ。両手は下げるか前の壁に添える。余裕があれば、体を前に傾けたり、前後左右にお尻を揺らすとより効果的。


 

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【大腿四頭筋の筋膜リリース】
方法:うつ伏せになり前腕で体を支えながら、太ももの下にローラーを入れてひざ上から股関節まで
転がす。


冬場は気温の低さから筋温が下がり、より柔軟性が低下するため冷えに注意しましょう。
特にヒルクライムでは、ひざの痛みが改善しても練習を再開するときは保温対策を忘れずに。

大腿四頭筋の筋力強化も重要です。手軽な方法をあげると、椅子に座ったり脚を投げ出して床に座った状態で、つま先を上に向けてひざを伸ばすようにお皿の上に力を入れて5秒ほど維持する運動を10回ほど行いましょう。
自転車のセッティングを調整することも大切です。サドル、ハンドル、クリートの位置、クランクの長さ、シューズの安定性について確認するといいでしょう。

なかなか改善しない場合は、整形外科を受診し、解剖学的特徴がないか、軟骨のすりへりが酷くないか、関節に腫れがないかなどの診察を受けると安心です。ひざにヒアルロン酸注射などの治療をすると楽になる場合があります。

 

参考文献
熊井司ほか:自転車ロードレース障害.持久系スポーツによる運動器障害Ⅱ〜治療と予防〜.臨床スポーツ医学vol.34:686-689,698-7022017.7

 写真:Rieko Kuramoto

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