2018年05月23日
リエチ先生のサイクリストからだ相談室【ひざ痛:1回目 自転車で起こるひざの痛み】
先日、半年ぶりに外でロードバイクに乗ってきました。ちょっとだけのんびりサイクリングの予定が、急遽南房総で活躍されているロサンゼルスオリンピック代表の元自転車選手で、南房総サイクルツーリズム協会会長の高橋松吉監督が前を引いてくださり、脚が売り切れるまで頑張ってしまいました。
全行程60kmは信号待ちもない田舎道だったので、立ち止まって休むこともできず必死で監督の背中を追いかけていました。なにせ久々だったのでキツイ坂道を途中から立ち漕ぎすることも、飲水のためのボトルを手にすることも(実は片手離しが苦手です)ひと苦労で、帰宅したときには生まれたての子牛のような歩き方になっていました。
それにしても春の房総半島サイクリング、蛇がたくさん登場したことを除けば、海沿いの道も軽いヒルクライムも楽しめて最高でした!夏のトライアスロンレースに向けてスイッチが入りました。都会から日帰りで海も山も楽しむなら房総半島がおすすめです!
自転車で起こるひざ痛
サイクリングに最適なシーズンになりましたが、練習量が増えるとともに多く寄せられる相談が「ひざ」の痛みです。
一般的には、自転車はひざや股関節にかかる体重の負荷が少なく、ランニングなどと比較して着地の衝撃もないため、関節に優しい運動と言われています。しかしロードバイクをはじめとしたスポーツ自転車に関して言えば、長時間にわたって同じ前傾姿勢でペダリングという大きな円運動を繰り返すため、その繰り返し動作で「ひざ痛」は非常に多く起こります。ペダリングによる繰り返し動作の回数は、1分間に90回転する場合、単純に計算すると1時間で5400回転となり、ロングライドで2万回転は優に超えることになります。この回数だけでも、日常生活では考えられないほどの負荷がひざにかかることがわかります。
しかし、「ひざ痛」と言っても原因はひとつではなく、関節や腱などさまざまな原因が考えられます。ひざが痛くなると「老化現象」ではないかと焦る方がいますが、実際は軟骨のすり減りなどによる加齢性の痛みよりも、使いすぎで腱が痛んでいる場合が圧倒的に多いです。
痛い場所や痛む状況などを詳しく診察すると、その原因を特定することができます。ひざが痛くて悩んでいる方は自分の痛みの原因が何であるか、以下の図1をみて探ってみるといいでしょう。
図1 「右ひざを前から見たところ」
お皿を中心に、押して痛い場所を探ってみましょう。どのあたりが痛むかで、その原因が特定できます。
①大腿四頭筋腱付着部炎(だいたいしとうきんふちゃくぶえん)②膝蓋腱炎(しつがいけんえん)③腸脛靭帯炎(ちょうけいじんたいえん)④鵞足炎(がそくえん)
サイクリストのひざ痛では、ひざの前側の痛みである①と②、次に外側の③が多い。※黄色の丸は、加齢性の変化(変形など)や半月板損傷で痛みが出やすい部分。
実際、プロのロードレース選手109名についての報告では腰痛45%についでひざ痛は23%に見られ、特にひざの前側にあるお皿周囲の痛みが多いとされています。他にもひざの外側の痛みで知られる「腸脛靭帯炎」も有名です。
次回からはロードバイクによる「ひざの痛み」の中でも最も多い「ひざの前側の痛み」と2番目に多い「ひざの外側の痛み」の2つの相談について原因と対策をお伝えしたいと思います。
参考文献
Clarsen B,et al:Overuse injuries in professional road cyclists.Am J Sports Med 38:2494-2501,2010
熊井司:自転車ロードレース障害.持久系スポーツによる運動器障害Ⅱ〜治療と予防〜.臨床スポーツ医学vol.34:686-689,2017.7
著者プロフィール
蔵本理枝子くらもと りえこ
整形外科医として、病院やクリニックで勤務する傍ら、運動器(骨、筋肉、関節など) の痛み一般、スポーツに関わる痛みで悩む人々へ向けて「リエチ先生」の愛称でさまざまなメディアで情報を発信中。日本整形外科学会専門医 。日本整形外科学会認定スポーツ医。障害者スポーツ医。2006年より「いとう整形外科」(世田谷区)副院長。亀田総合病院スポーツ医学科/健康管理科非常勤。 趣味はロードバイク、マラソン、トライアスロン。3児の母。過去に往復34kmの自転車通勤歴が2年ある。愛車はTREKdomaneSLDisc。今年は産後久々にトライアスロンレースに復帰予定。 funrideでは約11年ほど前の連載「ドクター理枝子の私に診せて」以来の登場。著書に「自転車女医のサイクリニック」(エイ出版社)ドロンジョーヌ恩田共著等がある。