2018年04月08日
【新連載】リエチ先生のサイクリストからだ相談室 【手のしびれ・前編】
みなさんはじめまして! 月刊FUNRIDE誌でお目にかかったみなさん、お久しぶりです。整形外科医の蔵本理枝子です。FUNRiDE.JPで連載を開始することになりました。これから自転車にまつわる「からだの問題」について、わかりやすく解説していきたいと思います。
簡単な私の自己紹介ですが、ロードバイクに乗り始めて今年で13年になります。千葉県の南房総がホームコースで、愛車はTREK Domane SL Discの黒いシンプルなロードバイク。今は3児の母で、トレーニングはほとんどが屋内ローラー台です。
過去に二子玉川から飯田橋にある病院まで往復34kmの道を毎日ロードバイクでジテツウしていました。極度に方向音痴なので、ポケットに突っ込んだ地図を信号のたびに確認していたものです(スマホがない時代でした)。慣れてからは信号のタイミングを考えながらジテツウ時間を短縮することに目覚め、Mt.富士ヒルクライム、ホノルルセンチュリーライド160kmなどのイベントに参加するようになるなど自転車を毎日のように堪能していました。
私自身、自転車で多くの痛みや落車によるケガを体験してきました。その体験もみなさまと共有できたらと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
今回の相談は……
Q ロードバイクに乗り始めて4カ月です。はじめての自転車ツーリング3日目(総走行距離約300km)に、左手の小指側が痺れてきました。ツーリングから戻って1週間経ち、多少しびれは改善したものの、指が思いどおりに動かしづらく、上手にパーができません。(20代男性)
A 自転車のハンドルの圧迫による「サイクリスト麻痺」の可能性があります。
ハンドルを握り続けることで、手首にある神経のトンネルが長時間圧迫され、尺骨神経(しゃっこつしんけい)が麻痺を起こすものです。しばらくの間、手のひらの圧迫を避け、状況に応じて消炎鎮痛剤やビタミン剤、ステロイド注射などで治療します。再発予防にはサイクリングの正しい姿勢維持と体幹強化、ハンドルバーを握る場所をこまめに変えること、手に過度の負荷をかけないこと、パッド付きグローブの使用をするといいでしょう。改善が見られない場合は、なるべく早く整形外科を受診しましょう。
さて、今回相談の「手のしびれ、指の動かしづらさ」ですが、長時間複数日に渡って開催されるサイクリングイベントでは、ハンドルを長時間握るために手に負担がかかり、手指のしびれや麻痺が起こることが知られています。一般的にはGuyon(ギヨン)管症候群として知られているこの症状ですが、とくにサイクリングに伴うものを「サイクリスト麻痺」(cyclist palsy/handlebar palsy)と呼んでいます。
Pattersonらの報告によると、4日間総走行距離600km のサイクリングの間に、70%ものサイクリストに発症し、そのうち運動麻痺が36%、感覚麻痺が10%、両方の麻痺が24%で、経験年数に関係なく、経験者と未熟者いずれも高い確率で起こると報告されています。
かなりの頻度で起こるサイクリスト麻痺ですが、適切な対策をとることで、ある程度リスクを避けることが可能です。次回はその症状と、しびれる原因、サイクリスト麻痺の対策と治療に関してお伝えします。後編はコチラ
著者プロフィール
蔵本理枝子くらもと りえこ
整形外科医として、病院やクリニックで勤務する傍ら、運動器(骨、筋肉、関節など) の痛み一般、スポーツに関わる痛みで悩む人々へ向けて「リエチ先生」の愛称でさまざまなメディアで情報を発信中。日本整形外科学会専門医 。日本整形外科学会認定スポーツ医。障害者スポーツ医。2006年より「いとう整形外科」(世田谷区)副院長。亀田総合病院スポーツ医学科/健康管理科非常勤。 趣味はロードバイク、マラソン、トライアスロン。3児の母。過去に往復34kmの自転車通勤歴が2年ある。愛車はTREKdomaneSLDisc。今年は産後久々にトライアスロンレースに復帰予定。 funrideでは約11年ほど前の連載「ドクター理枝子の私に診せて」以来の登場。著書に「自転車女医のサイクリニック」(エイ出版社)ドロンジョーヌ恩田共著等がある。