2024年07月30日
別府匠のツール・ド・フランス2024を振り返る 第3週目「絶対王者」
こんにちは、別府匠です。
今年は新たな試みとして、ツール・ド・フランスの中継を第1ステージから第21ステージまでの全ステージをスタートからフィニッシュまで観戦して、各ステージごとの考察と感想をまとめる、というのをやってみました。第1ステージから立て続けにいろいろなドラマが生まれて、あっという間の3週間でした。
ここではその3週間行われたレースを1週間づつに分けてお伝えします。このレポートを読んでサイクルロードレースの奥深さに興味を持っていただけたら幸いです。
第3週 7月16日(火)〜7月21日(日)
逃げ職人たちの意地
第17ステージと第18ステージでは、これまでなかなか決まらなかった逃げ切りでのステージ優勝争いになりました。
第17ステージは距離177.8kmで、前半は上り基調で徐々に標高が上っていき、114.8kmのスプリントポイントを経て、140km付近から2級、1級の山岳ポイントを超えて3級のSuperdévoluyにフィニッシュする獲得標高2850mのコースで、コースの難易度的にスタート前から逃げ切りステージ優勝のチャンスがあると言われているステージでした。
各チーム逃げるためのアタックが繰り返される中、60km地点でVisma-Lease a Bikeのティシュ・ベヌート選手、Red Bull-BORA-hansgroheのボブ・ユンゲルス選手、Groupma-FDJのロマン・グレゴワール選手、UNO-X mobilityのマグヌス・コート・ニールセン選手の4名の逃げが決まりました。しかしプロトンは追走を繰り返して、最終的に126km地点で43名に追走の5名が加わった48名の追走グループが形成されました。そうなるとようやくプロトンはスピードをゆるめ、タイム差が一気に4分以上に開きました。ようやく逃げ切り優勝のチャンスが到来しました。
48名の追走からまず最初に動いたのがCofidisのギョーム・マルタン選手とGroupma-FDJのヴァランタン・マデュアス選手で、1級のCol de Noyerで先頭に追いつき先頭グループが6名になります。その後、追走グループからJayco-AlUlaのサイモン・イェーツ選手がアタック。それを追うようにEF Education EasyPostのリチャード・カラパス選手とIsrael Premier Techのステファン・ウィリアムズ選手が追撃のアタックをかけます。イェーツ選手が先に追いついて先頭が7名になり、カラパス選手とウィリアムズ選手が追いつくタイミングでイェーツ選手がアタックして先頭が単独になります。そこからはイェーツ選手とカラパス選手の一騎打ちになりましたが、カラパス選手がキレのあるアタックでイェーツ選手との差を開き、独走に持ち込みます。
下りもそのまま攻め続け、最後の3級Superdévoluyまでの上りも独走し、カラパス選手は自身初のツールでのステージ優勝を飾りました。カラパス選手は他のステージでも逃げを試みるも、総合争いの余波でチャンスを潰されていましたが、ここでようやく勝つことができました。この優勝ですべてのグランツールでステージ優勝をしたことになりました。
第18ステージは、3級の山を5回通過する175.9kmのステージで、獲得標高も3065mと控えめで、フィニッシュ地点もそこまで上っておらず、クライマーよりもパンチャー系の選手にチャンスのあるコースでした。そしてレイアウト的に最後に総合争いが動くとは考えにくく、第17ステージに続いて逃げでのステージ優勝狙いのアタックが決まる可能性が高いと言われていました。
スタートからアタックが繰り返されましたが、22km地点で36人の逃げが決まりました。逃げに乗れなかったのはUAE Team Emirates、Soudal-Quickstep、Alpecin-Deceuninck、Astana kazaqstanでしたが、各チームが逃げを容認したためプロトンはUAEがタイム差が開いても問題ないペースでゆるゆると引いていました。この感じだと最後に総合争いが動くことはないので、ステージ優勝争いはこの時点でこの36名に絞られました。
5つ目の3級Cote des Moiselles Coifféesでレースが動きました。ステージ優勝に向けた激しいアタックが繰り返されますが、どれも決定打には至りません。そんな中、山岳ポイント付近でIneos Grenadiersのミハイル・クヴィアトコフスキー選手がアタックすると単独で抜け出すことに成功。そのまま山岳ポイントを先頭で通過します。すると後続からTOTAL Energieのマッテオ・ヴェルシェール選手とLotto dstnyのヴィクター・カンペナールツ選手が抜け出してクヴィアトコフキー選手に追いつきます。そして3名でのスプリントになり、カンペナールツ選手が自身初のツールでのステージ優勝をあげました。
聞くところによると、カンペナールツ選手は昨年の12月からこのステージでの優勝を目標にしていたようです。ツール・ド・フランスのステージ優勝は狙ったからできることだとは思いません。カラパス選手にしろ、カンペナールツ選手にしろ、何度も逃げに挑戦したり、ここぞと狙えるステージを絞ったり、それぞれの勝ちたいと思う気持ちが勝利を手繰り寄せたんじゃないでしょうか。まさに意地の勝利ですね。
絶対王者君臨
そして個人総合がどうなったかというと、UAE Team Emiratesのタデイ・ポガチャル選手が、第19ステージ、第20ステージの山岳ステージと、第21ステージの個人タイムトライアルで他を寄せ付けない強さで優勝。結局ステージ6勝をして自身3度目の個人総合優勝を決めました。近年のツール・ド・フランスでマイヨジョーヌでこんなにステージ優勝をした選手はいなかったと思います。ヴィンゲゴー選手らライバルたちも今までのベストパワーが出ているにもかかわらず、それを超えてくる今年の3週目のポガチャル選手は隙がありませんでした。実はジロ・デ・イタリアを走っていた影響で第11ステージがバッドデーだったんじゃないかという話もあります。
今後、ポガチャル選手は絶対王者として何度ツールでステージ優勝をして、何日マイヨジョーヌを着続けるのか。そしてライバルチームは来年に向けてどれくらいの準備をしてくるのか。今から来年のツールが楽しみでなりません。
今回は自分なりの解釈を加えたレポートになりましたが、いかがでしたか。サイクルロードレースはこんな感じでいろいろな考察もできるので、それぞれの考察を交えたディスカッションなどもしてみたいです。
お読みいただきありがとうございました。
各ステージの細かい内容についてはリンク先のnoteでご覧いただけます。
アカウント:https://note.com/takk3
著者プロフィール
別府匠べっぷ たくみ
神奈川県出身。愛知県在住。高校卒業後にTeam NIPPOのプロジェクトでヨーロッパに渡り自転車競技選手としてレース活動。帰国後は愛三工業レーシングチームの選手として国内・アジアのレースに参戦。選手引退後、同チームで監督を務め、UCIアジアツアーや全日本選手権の優勝をサポート。監督退任後はGCN Japanのプレゼンターとしてロードバイクの楽しみ方や機材についての情報を発信。現在はサイクリングエンスージアストとして文章や音声を使ってサイクリングにまつわるいろいろな情報を発信中。JSPO公認自転車競技コーチ3保有。