2024年07月30日
別府匠のツール・ド・フランス2024を振り返る 第2週目「総合争いのゆくえ」
こんにちは、別府匠です。
今年は新たな試みとして、ツール・ド・フランスの中継を第1ステージから第21ステージまでの全ステージをスタートからフィニッシュまで観戦して、各ステージごとの考察と感想をまとめる、というのをやってみました。第1ステージから立て続けにいろいろなドラマが生まれて、あっという間の3週間でした。
ここではその3週間行われたレースを1週間づつに分けてお伝えします。このレポートを読んでサイクルロードレースの奥深さに興味を持っていただけたら幸いです。
第2週 7月9日(火)〜7月15日(日)
決まらない逃げ
今年のツール・ド・フランスの特徴として、フラットステージでの逃げが全く決まらない、というのがありました。例年だと少人数の逃げグループが逃げて、リーダーチームがタイム差をコントロールして、最後はスプリンターチームと逃げグループとの戦い、なんていう展開が一般的でしたが、今年はそういう展開になることがほとんどありませんでした。
理由としては、スプリンターが狙えるフラットステージが8ステージあるため、各チームがスプリンターを連れてきているからというのが考えられます。今回出場している22チーム中、15チームがスプリンターを連れてきているためスプリント狙い、6チームが総合狙いのためフラットステージではあまり動かない、唯一TOTAL Energieだけがまともなスプリンターがいない状態です。それに加えてGroupma-FDJがイタリアステージ中に総合争い圏外になってしまったので、このGroupa-FDJとTOTAL Energieのみが逃げたほうがステージ優勝の確率が高くなるため、積極的にアタックをしていたということです。
もう一つの理由としては、風が強かったからというのが考えられます。これは特に総合系チームの話になりますが、風が強い時にアタックがかかると逃げやプロトンのペースアップからエシュロンの発生に繋がります。その要因を排除して、プロトンにチームの人数を残すことでチームリーダーを守ってどんな状況にも対応できるようにする。横風でエシュロンが発生すると中切れがおこったり、落車のリスク、パンクからの復帰が難しくなります。一度遅れてしまうと、山岳コースで遅れる以上のタイム差がついてしまう可能性があるので、各チームの位置取りがかなりナーバスになります。なので今年のツールでは逃げがない、もしくは1人の状況で、プロトンの先頭で総合争いとスプリンターチームなどがアタックできない速度で、道幅いっぱいギチギチになって走っている状況が多かったのだと考えられます。2チームが頑張って逃げても追ってくるのが15チームでは勝ち目がないですね。
復活優勝と王者のプライド
第2週から個人総合争いが本格的になりました。第1週の第4ステージで早速UAE Team Emiratesのタデイ・ポガチャル選手がアタックをかけてステージ優勝を飾り、リードを広げて他の総合争いの選手にプレッシャーを与えました。Visma-Lease a Bikeのヨナス・ヴィンゲゴー選手は4月に負った怪我から奇跡的に早い回復からツールに出場して、例年レース後半に調子を落とすポガチャル選手を引き合いに出して、レースを走りながら第2週から第3週にかけて調子をあげていく、という発言をしていました。第4ステージでついた37秒差をどのように縮めていくのかに注目が集まりました。
第11ステージは第12週の最初の山岳ステージで、211kmの長いステージで最後に2級、1級、2級、3級と続くタフなステージでした。このステージではスタートから全く逃げが決まらない中、中盤に10名の逃げが形成されましたが、UAE Team Emiratesがアシスト3人で2級のCol de Neronneまで10名との差を2分をキープします。そして次の1級Puy Mary pas de PayrolでUAEの山岳アシストが一気にペースアップして逃げを全て吸収して、残りは総合争いの選手だけになりました。
そこからポガチャル選手が単独でアタックをかけて、独走でフィニッシュを目指します。後続のヴィンゲゴー選手は、他の総合争いの選手たちと下りで一緒になりました。そして次の2級Col de Pertusでヴィンゲゴー選手がアタックすると、ポガチャル選手との距離が縮まっていきます。ポガチャル選手はハンガーノック気味なのかペダリングに力がありません。ヴィンゲゴー選手は山頂付近でポガチャル選手に追いつき、最後はそのまま2人でスプリントになり、後ろから捲りにいったポガチャル選手が伸びず、先行したヴィンゲゴー選手がステージ優勝。怪我からの復活優勝をあげました。ほとんどタイム差はつきませんでしたが、ヴィンゲゴー選手には大きな勝利に、ポガチャル選手にはチームを使って攻めましたが悔しい結果になりました。
そしてここからポガチャル選手の巻き返しが始まります。
第13ステージはフラットステージだったのですが、ポガチャル選手はスプリント加わり、ステージ9位でフィニッシュしていて、周りからは「山岳で負けて焦っている」とか「山岳ステージまでにもっと温存しておいた方がいい」など言われていました。そして第14ステージではチームを使って完全にレースをコントロール。そして最後のカテゴリー超級の頂上フィニッシュPla d’Adetまでの上りでは、アダム・イェーツ選手を先にアタックをさせてライバルチームを翻弄。そして自らアタックすると段違いのスピードでライバルたちを寄せ付けず、逃げも全て置き去りにしてステージ2勝目を飾りました。
そして第15ステージは、今度はVisma-Lease a Bikeが総合逆転をかけて、プロトンの前を固めてすべての上りでペースアップをして後続を苦しめる作戦を仕掛けました。そして最後のカテゴリー超級のPlateau de Beilleまでの上りでマッテオ・ヨルゲンセン選手のペースアップからヴィンゲゴー選手がアタック。このアタックでヴィンゲゴー選手はポガチャル選手を落としにかかりますが、ポガチャル選手に苦しい様子はなくむしろペースが落ちたところにカウンターアタックを決められてしまいます。ポガチャル選手はそのままペースを落とすことなくヴィンゲゴー選手に1分8秒差をつけ3度目のステージ優勝。2つの山頂フィニッシュでステージ優勝と、完膚なきまで叩きのめすような形になりました。もう総合優勝は諦めろ!と言わんばかりの結果になりました。
ここまで激しさを増してきた個人総合争いですが、ヴィンゲゴー選手は、「優勝するためにここに来たのでまだ諦めていない」さらに「ポガチャル選手は第3週に調子を落とし、遅れる時は5分以上遅れるので、まだ逆転のチャンスはある」というコメントを残していました。
第3週まで調子を維持できるのはどちらなのか、2回目の休息日を挟み、総合争いの駆け引きは続きます。次のレポートはこちら。
各ステージの詳細レポートと考察はリンク先のnoteでご覧いただけます。
アカウント:https://note.com/takk3
著者プロフィール
別府匠べっぷ たくみ
神奈川県出身。愛知県在住。高校卒業後にTeam NIPPOのプロジェクトでヨーロッパに渡り自転車競技選手としてレース活動。帰国後は愛三工業レーシングチームの選手として国内・アジアのレースに参戦。選手引退後、同チームで監督を務め、UCIアジアツアーや全日本選手権の優勝をサポート。監督退任後はGCN Japanのプレゼンターとしてロードバイクの楽しみ方や機材についての情報を発信。現在はサイクリングエンスージアストとして文章や音声を使ってサイクリングにまつわるいろいろな情報を発信中。JSPO公認自転車競技コーチ3保有。