2019年08月22日
執念 〜入部正太朗、2019年全日本選手権優勝への軌跡~(前編)
自信を失い、引退も考えた
全日本選手権での勝利からさかのぼること1年半前の2017年の終盤、入部は自らの選手キャリアに行き詰まりを感じていた。引退という言葉すら、頭によぎっていたという。
「今思うと、自信がなくなっていたんです。キャプテンをやっていたことに対して自分で変なストレスをため込んだり、成績も伴うかたちで下がっていって、どんどん精神的に負のループに入ってしまっていました。選手に向いてないから辞めようかと、全部逃げる方向に考えていました」
そこからさかのぼること3年前の2014年末、シマノレーシングは大きな若返りを図った。畑中勇介(現チーム右京)、吉田隼人(現NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ)、野中竜馬(2017年引退)の主力3人が移籍し、翌2015年には当時若干25歳ながらチーム最年長になった入部が畑中に代わり、新キャプテンとなった。
「僕もまだ結果がない状態なので、どうしたらいいかわからなかった。若い選手が入ってきても、僕の経験だけで下手なこと言って、彼らに悪い影響してしまったらどうしようとか考えたり、右も左もわからない不安な状態が続いてましたね」
悩みながらも毎年のように勝利を挙げ、成績でもキャプテンとしてもチームを引っ張り、奮闘を続けていた。しかし、優勝よりも2位、3位が多い選手というイメージも強かった。
「練習も今より量が少なかったし、真剣じゃなかったですね。まだまだ今よりプロ意識が低かったかもしれないです。忙しいとか言い訳して、未熟だった。本気ではやってるつもりでも、若かったからまだ何年かあるわ、と心に隙があったんだと思います」
しかし悩んだ末に、もう一度選手として全力を尽くそうと意識を変えた。
「年齢を重ねてきて、いよいよもう時間ないぞ。人生であと何年間、選手をできるかはわからない。あと3年かもしれないなら、この3年もうちょっと頑張ってもいいじゃないか、そういう意識が増えてきました」
入部にそう思わせる身の回りの出来事もあった。
「ちょうどそのころ、親父の体調が悪くなり始めたというのもあります。誰よりも僕のことを応援してくれたのもありましたし、もっと頑張ろうかなと思いました」
心機一転の意味も込めて、キャプテンを2年後輩の木村圭佑に託した。
「次の年から木村にキャプテンをお願いする形で変わってもらいました。木村には苦労かけてしまったし、すごく助けてもらって感謝しています。木村キャプテンが頼もしくて、うまくまとめているので、それに助けてもらっていい流れになっています。いろいろ悩んで苦しんだことも勉強になったんで、いい経験で今に繋がっています」
後輩ながら昨シーズンからキャプテンを務める木村圭佑(右)に、入部は全幅の信頼を寄せる
著者プロフィール
光石 達哉みついし たつや
スポーツライターとしてモータースポーツ、プロ野球、自転車などを取材してきた。ロードバイク歴は約9年。たまにヒルクライムも走るけど、実力は並以下。最近は、いくら走っても体重が減らないのが悩み。佐賀県出身のミッドフォー(40代半ば)。