2020年02月18日
【2020ハンドメイドバイシクル展 】Vol.2 “多様性と新鮮な風”
活性化し、発展する未来が見えるハンドメイドフレーム
ハンドメイドバイク展の見どころの1つは、出展している人たちの多様性だ。一時期、国内のフレームビルダーは若手が少なくて将来が不安視されていた。
それがかつてのピストブームによってカスタムフレームの魅力が再認識され、サイクルデザイン学校の新設やアメリカでフレーム作りを学ぶ人たちの帰国などが相まって、今や「このまま若手が増え続けたら、全員が食べていくのは大変だよな」と思えるほどになった。
そして、新人たちはハンドメイドバイク展に新鮮な風を送り込んでいる。
新旧で対決するわけではないが、胸を貸すベテラン勢の方もいつの間にかメンバーが替わっている。円熟味を増す職人芸で魅せるドバッツや、衰えることない好奇心で進化を追い続けるアマンダなど、ベテランにもいろいろなスタンスがあって、こちらも飽きることがない。
CHERUBIM/ケルビム
ケルビムが考えた女性用ディスクロードフレームの“セレーナ・ディスク”。高剛性化を狙って力強いチューブが増えている中、痩身のチューブで組まれたフレームはスチールらしいスタイリングでまとめられている。フロントをシングルにして操作系をシンプルにするなど、メカが苦手な女性のことも考慮されている。また、ディスクブレーキを採用することで650Bのホイールを併用することも可能だ。
公式HP:ケルビム/今野製作所
WINDCOG/ウインドコグ
個性的なパイプ構成の折りたたみ自転車のWINDCOG。フレームは3ピース構造になっており、剛性と精度の高さを誇る。トップチューブの連結部が2段階に調整できるので、体格に合わせて荷重バランスを可変させられる。フレームはT6熱処理を施した7000系アルミで、ホイールは20インチ。専用の前後キャリアや輪行袋もある。
BB前方に回転軸となるセンターチューブがある。下側に凝った構造のワイヤーリンクがある。後方にはセンタースタンドが標準装備され、折りたたんだ状態で自立する。
公式HP:WINDCOG
TOYO FRAME
昨年、ハンドメイドバイク展でチタンフレームを発表したTOYOフレーム。今年はチタンとクロモリの新作ハイブリッドフレームを登場させた。クロモリを採用した理由は「クロモリのほうがパイプの選択肢が多く、我々のノウハウも豊富です。しかも、コストまで抑えられる」からだという。異素材接合のため接着を用いたのも着目点だ。カーボンフォークを含めると3種類の素材を使っている。
リアブレーキ用のフラットマウントはチェーンステーに溶接せず、アルミの削り出しアダプターで固定される。センシティブな部分に加熱せず、確実に精度を出す方法を選択するあたりも白眉である。
公式HP:TOYO FRAME
CERCHIO GHISALLO/チェルキオ・ギザッロ
イタリアにある自転車を守護聖人とするマドンナ・デル・ギザッロ教会のすぐ近くにある、木製リムメーカーの“チェルキオ・ギザッロ”。木製クリンチャーリムは内圧がかかるため、現行モデルへの装着に不安もあったが内側にカーボン補強を施した新作が登場。
問い合わせ先:アマンダスポーツ amanda_chiba@ybb.ne.jp
東京五輪ロード用国産予備車
1962年、日本自転車工業会が2年後の東京オリンピックにむけて作った予備車。フレームはエベレストを手掛けていた土屋製作所製で、部品はスギノ鉄工所、三光社といった国産品を中心に組まれている。このバイクはアジア大会で大宮政志選手が2位になった。
WELD ONE/ウェルドワン
オーダーした人の要望で、あえて仕上げ処理を行なっていないチタン製中空クランク。フレームのRAWフィニッシュは未塗装なだけで、溶接部の仕上げを行なっているが、このクランクは一切、溶接したままの状態だ。仕事の中身が分かる人なら驚愕の逸品。
ヨーロッパ最大のハンドメードバイシクルショー“Bespoked UKHBS”や北米ハンドメイドバイシクルショー“NAHBS”にも出展歴がある京都のウェルドワン。「京都の行政が特許を取得したんです……」というカーボン製のコイルスプリング。自転車のパーツではないが、今後の応用という点では興味深い一品だ。
ハンドメイドバイクに光明が差す
ただ、アメリカで開催されている北米ハンドメイドバイクショー(NAHBS)同様、すべてのブランドが高い技術レベルを有しているわけではない。若手の台頭を感じるということは、輝きを失いかけているブランドがあるということだし、日本の市場規模では新興メーカーの多くは生き残れない。
そうした切磋琢磨があることで、かつて心配されていたビルダーの老齢化に伴う、ハンドメイドバイクの衰退という心配はなくなりつつある。それこそが最大にポジティブな事柄だろう。
そして、3500人を上回った過去最高の入場者が集まったというのが、このショーを継続的にみる楽しさを物語っているのだ。
文:菊地武洋
写真:山田芳朗
著者プロフィール
菊地 武洋きくち たけひろ
自転車ジャーナリスト。80年代から国内外のレースやサイクルショーを取材し、分かりやすいハードウエアの評論は定評が高い。近年はロードバイクのみならず、クロスバイクのインプレッションも数多く手掛けている。レース指向ではないが、グランフォンドやセンチュリーライドなど海外ライドイベントにも数多く出場している。