2016年05月28日
SRAM RED / eTAP いよいよ国内販売開始
昨年8月、ドイツ・ユーロバイクショーで発表されたワイヤレス変速システムのスラム・レッドeTap(イータップ)が、いよいよ7月1日から国内でも販売がはじまる。
スッキリとしたデザインは、いかにもスラムらしい。裏側に変速機とペアリングさせるボタンがある。
コントロールレバー、変速機セット、充電器、ドングルで構成されるeTap。これにクランクやブレーキがセットされる。
アジアマーケットのマネージャー、ビリー・ユーさんも来日して、関係者の前で契約書が交わされた。
スラムはシマノ、カンパニョーロとともに3大コンポメーカーのひとつ。機械的でスタイリッシュなデザインはメカ好きサイクリストの琴線に触れ、欧米で高い人気を誇る。最上級モデルのレッドは先進性と伝統的な魅力を両立させ、エンスージャストから絶大な支持を得ると同時に、シマノのDi2やカンパニョーロ・EPSと同等以上の電動変速システムが求める声もあった。また、数年前から試作品をプロのレースでテストしており、ファンにとってeタップの発売は驚きよりも、待望という言葉のほうが似合っている。その待っていた部分の大半は、電動よりも無線変速にある。
スリムな印象のコントロールレバー。260グラム。フロント2、リア11スピード対応。
無線によるワイヤレス変速はマヴィックがかつて発売したことがある。ユニークな機構は大きな注目を集めたが、防水性や自動ドアと電波干渉するなどの問題もあり成功を収められなかった。eタップは専用の周波数帯を使い、高度に暗号化(128bit)されることでトラブルが起きるのを防いでいるという。シマノやカンパのようなジャンクションはなく、ハンドル回りだけでなく変速機周辺のスタイリングがシンプルにまとまる。フレームにケーブルを内蔵するためのトンネルも不要になるので、eタップ専用フレームを作ったならば、軽量化する上でもメリットになるだろう。ワイヤードと比べてハンドリングは軽快になり、ケーブルの断線もない。レースや遠征時にリア変速機を外してしまえばトラブルを回避でき、キズも防げる。
機械式同様、Z軸回りのYAWアジャストメントを搭載してトリム調整が不要。187グラム(バッテリー込み)、直付けのみ(アダプター対応)。
シャープなデザインのリア変速機は最大歯数が28T、重量はバッテリー込みで238グラム。プーリーのベアリングはセラミックを採用。
操作方法は独特だ。右側のレバーを動かすとリア変速機はトップ側へ、左側を動かすとロー側へ動く。機械式のダブルタップシステムはケーブルの“巻き取り”と“解除”を稼動するときの質感とストローク量で制御していたが、今度はチェーンの動きと連動させた直感的な操作方法である。フロントの変速は両方のレバーを同時に押すことで操作する。近年、メーカーによる変速性能の差は徐々に小さくなりつつあり、その良し悪しが購入の動機にはならない。大切なのは操作方法やフードの形状といったインターフェイスである。既存の操作方法と大きく異なるが、初心者には分かりやすく、ベテランライダーにとっても直感的で慣れるのに苦労が少なさそうだ。
バッテリーは前後共通。充電時間は45分と早い。
バッテリーは2種類。コントロールレバー用はコンビニで販売されているCR2032を使用し、電池寿命は約2年間。変速機用は前後で入れ替えて使うことができ、充電時間は45分。フロントは最大90時間、リアは最大60時間稼動するという。eタップの頭脳となるのは加速度センサーが搭載されたリア変速機だ。信号待ちや休憩など止まっていると、30秒でセーブモードになり無駄なバッテリーの消耗を抑える。したがって、リア側のバッテリーが切れるとフロントも変速不能になるので、その場合はバッテリーを差し替えてリア側だけ変速できるようにするという。
充電器。左下はファームウェアのアップデート用ドングル
コントロールレバーには片側2つのポートがあり、好みの位置に変速スイッチを追加できる。
ブリップと呼ばれる変速用の追加スイッチ。同時に押すとフロント変速機が動く
注目の価格はコントロールレバー、前後変速機、充電器、ドングルのセットで19万7000円。初回は7月に入荷し、年内には油圧ディスクブレーキ仕様も入荷する予定だという。発表会には新たに輸入元となったインターマックスの予想をはるかに超えた人が集まった。それだけ多くの注目を集めたのは、シマノの一強時代にスラムが風穴を開ける期待だろう。ユニークなシステム構成と戦略的な価格設定を含め、どのような反響があるのか楽しみだ。
(写真/編集部)
問:インターマックス http://www.intermax.co.jp/
著者プロフィール
菊地 武洋きくち たけひろ
自転車ジャーナリスト。80年代から国内外のレースやサイクルショーを取材し、分かりやすいハードウエアの評論は定評が高い。近年はロードバイクのみならず、クロスバイクのインプレッションも数多く手掛けている。レース指向ではないが、グランフォンドやセンチュリーライドなど海外ライドイベントにも数多く出場している。