2025年12月05日
“TDFに出場する選手の輩出”を新目標に。RTA報告会で浅田顕が語った3年の成果と課題
11月25日、品川区の自転車総合ビルで「ロード・トゥ・ラヴニール(RTA)」の活動報告会が開催された。主宰する浅田顕氏は3年間の活動を振り返るとともに、プロジェクトのゴールを「ツール・ド・フランスに出場する日本人選手の輩出」へと明確化。資金難という課題を抱えながらも、次世代育成への道筋を示した。

7段階のパスウェイで描く育成の全体像

RTAは次世代プロロードレーサーの輩出を目的に、7段階の活動を設定している。1〜4段階が国内、5〜7段階が欧州での取り組みだ。

1段階目の「パスウェイの普及」では、ツアー・オブ・ジャパン全ステージでブースを出展し、プロへの正しい道筋を提示。2段階目の「タレント発掘」では、全国の地域クラブチームと提携し、埼玉ユース自転車競技部を運営するなど受け皿作りを進めた。
3段階目の「ユースキャンプ」は地域ブロック別に8回実施し、基礎技術やトレーニング方法、栄養学を指導。参加者から世代別日本代表選手も輩出された。4段階目の「TT&ヒルクライムテスト」では、世界基準との比較が可能なタイムトライアル能力の測定を重視。浅田氏は「日本人選手のTT能力向上は絶対的に必要」と強調し、ジュニア全日本選手権へのTT種目新設の必要性も訴えた。
5段階目の「欧州レース参戦」では、2025年に春と夏の遠征で年間約100日、30レースに参戦。浅田氏は「ヨーロッパのレースで認められない限りプロにはなれない」と断言する。現在、ワールドチームの育成チームはU23の1年目から選手獲得に動いており、ジュニア期から実績を出すことが求められている。
6段階目の「代表チームサポート」では、2023年にツール・ド・ラヴニールへ男女代表を派遣。男子の留目夕陽が個人総合24位、女子の石田唯が総合23位という結果を残した。7段階目の「プロ契約サポート」は該当者なしで未実施となった。
メキシコの成功例が示す欧州拠点の重要性
浅田氏は、メキシコのA.R. Monex Pro Cycling Teamの事例を紹介した。2021年設立の同チームはイタリアに拠点を置き、ジュニア・U23のメキシコ人選手を育成。イサーク・デルトロはU23の2年目にラヴニールで総合優勝し、UAEチーム・エミレーツ入りを果たした。

「ヨーロッパで評価を得ようとするなら欧州拠点は必須」と浅田氏。日本の若手が年間2000km前後しかレース距離を走れない一方、欧州のU23選手は7000km以上を走る。「才能でなく経験の差」と指摘し、若い選手には欧州で走る場が絶対的に必要だと強調した。
最大の課題は資金不足

活動停滞の要因について、浅田氏は「9割はお金」と明言した。欧州拠点の家賃支払いすら苦しい状況で、機材費の高騰も重なり、予備バイクやホイールの準備にも影響している。
クラウドファンディングでは3年間で延べ2000人以上から約2600万円の支援を受けたが、当初想定の年間6000〜7000万円には遠く及ばない。RTAでは年額30万円から協賛可能な強化支援スポンサーを募集しており、2026年で20周年を迎えるエキップアサダ後援会への新規会員入会も呼びかけている。
ゴールを「TDF出場」へ明確化

浅田氏は今後の方針として、プロジェクトのゴールを変更すると発表した。「日本人が再びツール・ド・フランス(TDF)に出場すること」。ワールドチームでは最低でも年間40億円規模の予算が必要で、日本でのチーム参戦は現実的でないため、まずは個人の輩出に集中する。

「別府史之、新城幸也という優秀な選手が2人出ています。彼らの次にどう選手を輩出するかを誰よりも真剣に考えてきた自負があります」と浅田氏。実力が備わった選手を特定の地域やチームで囲い込まず、適切なステップへ送り出す「共同育成」の重要性を訴えた。
質疑応答では、ツアー・オブ・ジャパン組織委員会委員長の栗村修氏が「若手のマインドセットが変わり、厳しさを受け入れる選手が増えている」と指摘。浅田氏は「個々で気持ちが強い者はいるが、まだ体力レベルが足りていない選手も多い」としつつ、最重要育成期間はU23世代であると位置づけた。
出席者の関心が高く質疑も活発に行われ報告会は長時間に及ぶ。
一方で日本のロードレース界が抱える課題と可能性を浮き彫りにした。活動継続には十分な資金調達が不可欠であり、新たな支援者の参加が期待される。
12月20日(土)にはEquipe Asada Year end party 2025が開催される。くわしは以下のリンク先より。
https://www.rta-cycling.jp/news/7569
関連URL:ロード・トゥ・ラヴニール(RTA)
https://www.rta-cycling.jp
RTA新着情報 2026年度前半活動支援について
https://www.rta-cycling.jp/news/7650
著者プロフィール
山本 健一やまもと けんいち
学生時代から自転車にどっぷりとハマり、2016年まで実業団のトップカテゴリーで走った。自身の経験に裏付けされたインプレッション系記事を得意とする。日本体育協会公認自転車競技コーチ資格保有。 全日本マスターズ自転車競技選手権/2022年3㎞個人追い抜き、25年個人タイムトライアル 全日本タイトル獲得。JCGAガイド資格所有

