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2016年08月16日

トレックワールド ジャパン 2016-レポート 鈴木未央さんインタビュー

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京都は国際会館にてトレックワールドジャパンが開催された。NEWプロダクツを中心にレポートを複数回に渡ってお届けしよう。
1.エアロダイナミクスの日本人エンジニア 鈴木未央さんインタビュー2016年版
2.トレック2017のキーワード(安全性)
3.注目のNEWプロダクツ

昨年のトレックワールドでもインタビューした鈴木未央さんに1年ぶりにお話を伺った。


 

編集部:昨年いろいろとインタビューをさせていただきましたが(※記事はこちら)、あれからアップデートされていると思います。話せる範囲でお聞かせいただけませんか?

鈴木未央さん:エアロの最適化に取り組んでいます。昨年のプレゼンテーションでマドンのボトルの配置場所をどうするか、というのをお話ししたのですけれど、それと同じ最新のソフトウエアを用いると、いろいろなことができるんですね。例えばバイクのチューブの形状をどうするか。この形を決めるときにエアロと剛性を一緒に解析できるので、物理的なものを見ていくということに力を注いでいます。

編:エアロチューブって総じてプレーンチューブよりも特徴のある剛性感の印象になるんですが、形状と剛性感には関係がありますか?

未央さん:もちろんあります。トレックのストラクチャー部門でマドンとドマーネを比べると、チューブの形だけですごく乗り味が変わるんですね。マドンはISOスピードを含めて、シートチューブの柔軟性を高めていますが、それでもエモンダに比べると、乗り心地は変わってきます。フカフカしているだけではなく、コーナリングでのパフォーマンスも変わります。エモンダのようなプレーンチューブに近いものは、スナッピーに乗れるというか。ただ硬いうだけでなく、効率よく進めるかというところが重要だと思います。

編:ドマーネにはあまりエアロのことを考えなかったと言っていました。ワールドツアーともなるとレースの平均時速はクラシックレースと言えどもかなり高速ですよね?

未央さん:そうですね、そうなんですが、パリ〜ルーベを例に挙げるとパヴェの振動が凄まじい。エアロダイナミクスを高めるよりも、振動対策を最優先に考えています。次にヘルメットやスキンスーツを改善する、とチームには説明をしています。

編:ヘルメットはかなり評価が高いですね。ヘルメット以外にも取り組みはあるのですか? シューズやウエア……。

未央さん:イエンス・フォイクトがアワーレコードに挑戦したときに、スキンスーツはどういう素材がいいのか、ソックスの長さはどれくらいがいいのか、というところまで見ました。チームからそういう要望があった場合にはプロジェクトになります。結構スキンスーツは奥が深くて、風洞実験を行なったときに、ただ形がどうこうというだけではなくて、どれだけ空気を通せるかなど、ファブリックの内容も調査しないとちゃんとしたスキンスーツが作れないんですよ。

編:空気を通したほうがいいんですか?

未央さん:あまり通しすぎると良くはないようですね。

編:現在のウエアを見ていると、まったく通さなくていいならゴムのような素材がいいのでしょうし、ある程度は必要なんでしょうね。快適性も含めて。

未央さん:それにレーサーも呼吸をしないといけないというところもありますし(笑)

編:話を戻すと….現在の3シリーズ(マドン、ドマーネ、エモンダ)にはパフォーマンスにそれぞれのバランスがあるじゃないですか。軽さ快適性、エアロ……。これらの次に(将来的に)注力している特性ってありますか?

未央さん:うーん、そういうものは今のところは無いのですが、バランスをどのようにして導き出すか、というのには力を入れています。例えば、エアロが重要なマドンやスピードコンセプトに関しては、確かにエアロが大事ではありますが、それだけではないということを確認しながら、バイクを作るということを心がけています。またプロレベルになるとスピードコンセプトはアグレッシブなフォームになります。そのようなフォームにフレームが対応できるか、ということも考えますね。

編:フォームによって荷重が偏らないようなフレームの設計をするとか?

未央さん:トレック・セガフレードの選手の場合はヴェロドロームでもちろん空力を見ますが、心拍数とかどういうふうに最大限のパワーが出せるようになるのか、ということを見ています。

編:最近はヴェロドロームで空力実験を行なうメーカーが増えていると聞きますが?

未央さん:流行っているというのはありますね。トレックの場合は風洞実験室とトラックの2つを使っています。トラックでは横風のテストができないんです。いつも正面の風の測定しかできません。そうなると実験する内容も限られてくるので、風洞実験室とパラレルに行なっています。やっぱりトラックでの実験となると実際のライダーを使う訳ですが、疲労してしまったり、コンディションなど色々な問題もあったりします。データの解析にも苦労はしますね。風洞実験でしたらマネキンを使って一日中同じペースで、足を回していけるので。

編:双方のメリットを生かす感じですね。

未央さん:そうですね、両方のよいところを使っています。どこでどんなデータを採取してもそのデータをどこで使うかというところで色々と変わってくると思います。トレックは独自の使い方としては様々なところでデータを求めて、チームに提供したいと思っています。

編:ディスクブレーキはエアロ効果にどれだけ影響がありますか?

未央さん:空力に関すると、正面からの風は問題はありませんが、横風に対しては最大で40〜50gの空気抵抗で、時速30マイル(51kmくらい)で計算をすると4〜5wほどのパワーロスとなります。かなり速いスピードですけれど。ドマーネなどではブレーキングなどにメリットがありますが、そういう面からみても、スピードコンセプトなどに(導入と)なると、ちょっとどうかなと検討しています。

編:タイヤ幅ってワイドになってきていますが?

未央さん:すごく変わります。例えば、23Cから25Cになるだけで変わりますが、タイヤ幅だけではなく、どんなリムに着けるかで大きく変わります。今カーボンリムはワイドリムなので25Cでもまあまあ大丈夫で、メーカーによっては23Cを着けようが、25Cを着けようが空力的にも変わらないというものもありますね。マーケットが今後25Cや28Cが主流となるなら、リムメーカーもたぶん幅を少し広げて空力にも対応できるような形になっていくと思います。

編:どんなリムに着けるか……というのは、リム幅に対するタイヤ幅がアンバランスだった場合ということですね?

未央さん:クラシックなチューブラータイヤをセットしたリムを思い浮かべてもらうといいのですが、細いリムに丸いタイヤが乗っているような形状ではどんな角度からの風でもタイヤとリムの接点辺りに乱流が発生しやすくなります。

編:空気の剥離というやつですね。タイヤとリムに段差や境目がないものが空力に優れているモノ、といえそうなんですね。

未央さん:そうですね。ボントレガーをはじめとした多くのメーカーのカーボンリムでは、だいたい23Cから25Cは大丈夫ですが、25Cのほうが若干劣るというデータが出るメーカーが多いですね。そんななかでリムがワイド化しているメーカーは増えてきています。

編:どのメーカーのタイヤとリムの組み合わせがよかったですか?

未央さん:もちろんボントレガーです(笑)。風洞実験を行なうときは他のメーカーのホイールも持っていきます。そうしないと自分たちの製品がどこにランクするかわからないじゃないですか。クリンチャーリムは私が設計したのですが、テストした中では一番良い結果が出ました。証拠もありますよ(笑)。しかし、それも古い話になってきているので、最新メーカーのホイールのテストも含めて、次の世代のホイールのテストをしていきたいと思っています。

編:今回発表になったアイオロス・トリプルXにも未央さんのフォードバックが活きているんですか?

未央さん:インプットはしましたけれど、あれくらいのシャローリムになると、空力効果はぜんぜん無くなってしまうんですね。分析をしたんですが、参考までにというところですね。このホイールのコンセプトは軽さと剛性。これが一番大事です。

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ボントレガー・アイオロスのカーボンクリンチャーホイールは鈴木氏が担当した商品だ。

 

鈴木未央(すずきみお)●東京出身。13歳で渡米し、カリフォルニア大学で化学工学と核工学を専攻。その後、空気力学を学ぶ。ウィスコンシン大学院へ進学し液体力学の修士号を取得。卒業後、自身もサイクリストであり、職業を選ぶ過程で住まいの近くに拠点を構えるトレックの見学ツアーを利用して訪問。環境や専門分野が活かせることからコンタクトをとり、インターンとして従事する。設計に携わったのは、アイオロスホイール、スピードコンセプト、イェンス・フォイクト氏のアワーレコードモデル。そして新型マドン、バリスタ。

トレック・ジャパン HP http://www.trekbikes.com/jp/ja_JP/

(写真/編集部)

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