2016年03月02日
東洋フレーム 竹之内悠インタビュー(前編)「自分の性格は….“調子乗りですね”」
”ベルギー在住”のイメージが強い竹之内悠さん。2016年は、これまでの活動を支えてきた石垣鉄也氏が監修を務める新チーム、”東洋フレーム”が発足し、竹之内悠さんをメインとしたチーム構成であることが発表された。これまで長期間ベルギーで活動し、ヨーロッパのチームに所属した経緯から、どうしてここに至ったのか。その胸中を聞いてみることにした。
profile
竹之内悠(たけのうち・ゆう)/東洋フレーム 所属
1988年9月1日生まれ 身長170cm 体重62kg
主な経歴
2011〜15年 全日本シクロクロスチャンピオン
2010年 全日本U23マウンテンバイククロスカントリーチャンピオン
2008、2009年 全日本U23シクロクロスチャンピオン
新チーム発足
編:東洋フレームのチームへ活動を移すということですが。
竹之内悠(以下、竹之内):2016年の1月1日から東洋フレームの所属になりました。大きく変わるのは夏の間だけで、冬の活動はいつも個人でしていたので。ベルギー籍のチームに所属はしていますけれど。この4〜5年間はチームからほとんど援助を受けていませんが、現地のスタッフとよい関係にあり、ともにレースを転戦しています。
アマチュアレースで結果を残せたことも加入できた要因ではありましたが、これまではシーズンを通じてベルギー籍のチームで活動していました。ここで自分の可能性を試したり、ベルギー人選手がどのように世界一までの過程を積み上げているのか、夏の間クロスの選手はなにをしているのか知ることができました。
夏はほとんどのクロス選手がロードレースメインで活動していました。身体作りとポテンシャルの底上げをしていました。ベルギーのロードレースは質が高く、各国のナショナルチームが来ていました。北米、アメリカ、最近ではアフリカ、ロシアが印象に残っていますね。プロのレースは毎週レベルの高いインターナショナルなレースが開催されます。夏なのでクロスのプロ選手は手を抜いているようなところはあるんですが、それでもトップチームの誰かしらはトップ10には入ってくるので、切磋琢磨していますよね。
カテゴリー的にはプロツアーの選手とも一緒に走っていますよ。かつてUCIポイントを獲得したレースがあったことを覚えていますが、ベルギーでポイントを取ることが非常に難しいと感じました。その年も新城選手と僕だけだったと思います。
編:あのときはとても驚きましたね。
竹之内:あのときのポテンシャルは……(笑)。あれがピークかな。そこで欲張りすぎて。そのツケが回っていて後処理を今やっているところです。3年前、ちゃんとしたトレーナーに付いていなかったということもありますが、夏も冬もガンガンやっていたので身体がバカになってしまって。一昨年はなにもできず、そのあたりから脚の故障が多くなって、去年は立て直そうと思ったんですが11月にまた故障をしてしまった。もう一度取り戻すためにいろいろ考えています。
ケガでどん底へ。復調は?
編:復調の兆しは?
竹之内:あるつもりです。
石垣鉄也(以下、石垣):本当は1年前に同じ話をしていて、2015年は我慢しようという年にしたんだだけど、あまりに調子が良かったから、いっちゃったんだよね。もっともしてはいけないことをしてしまった。
編:それが11月。
石垣:もう1年我慢していたら、乗り越えられたかもしれない。でも単身ベルギーで戦っていたら、どうしてもレースで成績を出そうとしてしまうじゃないですか。とくに調子が良かったからね。レースでも20位くらいで入賞もしたけど、そのツケがいま回ってきている。
編:具体的にいうと?
竹之内:……一言でいうと過信。心の問題ですね。心に身体がついてこない。ナチュラルハイというか、すぐにイケイケになってしまって、つねにアクティブに、なんでもポジティブに捉えられるようなって。
石垣:コンディションに合わせて機材も変えて、2015年は本気でやろうかってなったときに、肝心なときに我慢できなくなった。
編:うーん。ご自身の性格を自己分析するとどんな感じだと思いますか?
竹之内:調子乗りですね(笑)。調子が悪いとイジイジしていますし、中間がないですね。
右手のテーピングはゾルダーの世界選手権の落車で痛めてしまったもの。その後の診断で骨挫傷、じん帯損傷などの診断を受けた。
編:そういう選手は多いですか?
竹之内:まあでもヨーロッパでも強い選手は調子乗りですよね。賢い選手もいますけど。まあなにかしらのクセはあるなあと。よく言えば筋が通ったわがままで、自分を絶対曲げない選手が海外には多かったですね。海外で走っていてそのあたりは勉強になりました。
編:夏の活動スタイルは具体的にどうなりますか?
竹之内:日本で活動することになります。昨年の11月に脚を故障していて、もっと自制したいということもあるんですが、ヨーロッパにいるというそれだけで、パワーを使うので。調子に乗らないように(笑)。日本ではMTBで東洋フレームという名前で走れるレースがあるので。MTBライダーとして活動していた時期もあったので、もう一度MTBで活動して、シクロクロスに繋げていきます。
編:ということはクップ・ドュ・ジャポンで走るということですね。
竹之内:いまのところはそれを考えています。日本でロードレースを走ろうと思うと、チームに所属していないと難しい点が多いので。ローカルレースや、実業団、そして登録レースではないようなレースにポッと出ることはあるかもしれませんけど。そこはメインに考えていないです。
編:今のベルギーのお住まいは?
竹之内:西フランドル地方のワレヘムというところなんですけど、ずっと僕のことの面倒を見てくれているスタッフがいるんです。その人の友人が家を2軒もっていて、1軒を借りているんです。使っていないからという理由で安く借りることができていて、良い生活をさせてもらっています。車は持っていないので、5kmくらい先のマーケットに買い物用の自転車で毎日通っていたりしますね(笑)。そう言うと大変に感じますけど、目的があってのことですので、苦に感じませんね。1人でヨーロッパにいると日本人のしがらみを感じますけど、なんだかんだ結構長い間住んでいるんで。
編:何年くらいからですか?
竹之内:よくわからないですね。全日本を獲ったときからですから。
石垣:その前に辻浦くんが行っているときから、ちょろちょろ行きはじめているから、7〜8シーズンは行っているよね。
全日本選手権について
編:全日本は5連覇していますが。この日本のレース環境はどう感じますか?
竹之内:やっぱりキャッチーな競技なので盛り上がっているとは思います。そこに僕も含めて、もう少し選手の質を高めたいですね。トップの成長がないまま、なんだかこのまま行くとあまりよろしくないような気もしています。それは僕の課題でもあるんですけど。スター性がないと、この先のシクロクロスは….。全日本は僕が5連覇させていただいていますけど。
編:11月に体調を崩されていましたね。それでも勝てた理由は。
竹之内:勝てたことに対するすごさはないと思っています。そりゃ勝つだろと。これまでやってきたことへの自信もありますし、まあ積み上げてきたものも。とはいえ全日本は毎年、簡単に獲っているようでそうでもないです。一発勝負なので難しさはありますね。そこは僕自身としては目標のひとつですけど、大きな目標はヨーロッパで結果を残すことを目指してやっているので。日本で勝つことを目指す選手とはやろうとしていることは違いますよね。まあへんな絶対的な自信はあります。それが持ち味で、それで自分を作っていますから。負けられないし、負けたらかっこわるし(笑)。
編:話を聞いているだけでプレッシャーを感じます。
竹之内:プレッシャーはあるようでないような。そのへんは石垣さんをはじめ、いろいろな人に支えられているので、レース前はそんなにピリピリせず、楽しく走れています。僕1人だとすぐナイーブになるんですけど。今年とかびっくりしましたね。
編:今年はどんな内容だったんですか?
竹之内:レースの質としてはすごくかっこ悪いことをして全日本を獲ったんですが、スタッフのみんなが笑ってくれるおかげで落ち込まずに済んで。
石垣:そこに行くまでに、そういう形を作るじゃないですか。悠が日本にいるときにどういう付き合い方をするとか、そこから入っている。見るとだいたいわかるんですよね。コイツだいぶキツい感じやなと(笑)。あえてそこで満足をさせないような持っていき方をしますね。“もう良いやろ”と言ったときに、イヤこれだけやっておいてくれと。“なんでですか?”と聞かれますけど、その説明をすると始める。これをやるのは次のレースにつながっているのがわかっているから、やるんだと思うんですよ。今年の全日本は前日と当日のコンディションががらっと変わった。夜のうちに雨が降って前日のドライからマッドに変わった。コンディションが変わると不安じゃいないですか。でもよく考えると、悠しか対応できないことはわかっていた。
だから試走するなと。
調子も悪いので一発ドーンといけと。レースが始まるとやっぱり2〜3周目はコースに対応できなくて遅れているんですよ。でも悠は後半タイムが落ちないことはわかっているので、そこでの勝負ということもわかっていた。ほかの選手たちはスタートよかったけど、どんどんタイムが落ちていった。悠の場合は上がってきた。そういう勝負をして勝つか負けるか。最終的にはそこで勝利を得たというところですよね。
竹之内:そういうことです(笑)。
石垣:その通りになったからな。幸平(山本)も終盤乗り方が荒れてくるのはわかっていた。光(小坂)はドーンと行った後、必ず落ちる。彼はもみくちゃになるレース経験を日本でしていないから。僕らさえミスをしなければ、悠が勝つというシナリオはできていたから、こっちのほうがプレッシャーですよ。ピットでミスったらどうしよう(笑)。まあ、そういう信頼関係でやっているからね。
(写真/小野口健太)
著者プロフィール
山本 健一やまもと けんいち
FUNRiDEスタッフ兼サイクルジャーナリスト。学生時代から自転車にどっぷりとハマり、2016年まで実業団のトップカテゴリーで走った。自身の経験に裏付けされたインプレッション系記事を得意とする。日本体育協会公認自転車競技コーチ資格保有。2022年 全日本マスターズ自転車競技選手権トラック 個人追い抜き 全日本タイトル獲得