2016年12月05日
バラ❤︎サイ VOL.7 望月美和子さん【ねじガール】/前編
自転車をはじめて現在3年目。この2016年、走ったヒルクライムレースは7大会、それをすべて優勝、と文字どおり飛ぶ鳥を落とす勢いのサイクルねじガール、望月美和子さんのお話を伺いたくて静岡市清水区興津へ行ってきました。
そもそも「ねじガール」というのは?
美和子さんの勤務先である興津螺旋 代表取締役の柿澤宏一さんに伺いました。
新社屋のエントランスには、美和子さんの賞状が並ぶ。なかにはMt.富士ヒルクライムの受賞も含まれていました。
柿澤社長:ねじを作る会社がいくつもある中で、業界を見渡しても女性がねじ作りの現場で働くことは大変珍しいのですが、うちは従業員77名のうち39名が女性なんです。その中でもねじ製造に携わる11名をねじガールと呼んでいます。美和子さんは当初別の部署に配属されていたのものの、ねじ製造の仕事もやりがいがありそうだ、と思っていたそうです。そんな矢先(入社4年)異動の話が上がって「やってみよう!」ということに。
興津螺旋といえば……バラ❤︎サイ読者の中にはサイクルモードの出展等でご存知の方もいらっしゃると思います。様々なねじを製造されていますが、その中でも私たちサイクリストに親しみがあるのはスポーツサイクル用チタン合金ボルト。こちらの製造・販売を手がけていらっしゃいます。
ちゅなどん:では美和子さんが自転車に乗るようになったきっかけは、やはり会社でスポーツサイクル向けのねじを作っていたことからだったんですか?
美和子さん:最初は「街乗り」をしたかったんです。クロスバイクでもいいかな、って思ってたくらいで。ちょうど社内で自転車をやってる先輩がいたので相談しました。どういう自転車を買ったらいいですか? って。いただいたカタログ見て、その中で「これがいい!」って言ったのがロードバイクだったんです。だけど先輩に「これがほしいな」って言ったら、ロードバイクは危ないよ、ってマウンテンバイクを勧められたんです。
ちゅなどん:ほぅ……ではちょっと通りかかった原センパイ、お話伺っていいですか?
原センパイ:ロードバイクはスピードもでますし、落車した時に顔に怪我でもしちゃったら、かわいそうだし、美和子さんのご家族や社長にも、叱られてしまいますからね。
原センパイ、とっても優しい上に、自転車というものをよくわかっていらっしゃる。しかし、そんなセンパイの心配をよそに美和子さんは……
美和子さん:でも私、あの曲がったハンドルが良かったんです。だったらマウンテンバイクにハンドルだけドロップに換えて乗る、なんてことを言ってて。今思えば、なに言ってたんだろうわたし、ってくらい可笑しいんですけど。
あぁ、でもわかります。気に入ったカタチで乗りたいっていう気持ち。色やカタチは女性にとって、とても大事ですよね。その気持ちが通じて、マウンテンバイクを勧めた原センパイも「そんなに言うなら…」と美和子さんをショップに連れて行ってくれたそう。
美和子さん:そこで赤いコルナゴに一目惚れしたんです。コルナゴっていうブランドは知らなかったんだけど、そのバイクはとても気に入ったんです。色とデザインが。
念願のロードバイクを手にいれて、まずは自転車通勤から!
美和子さん:ロードバイクに乗ってみて、最初の印象が「ものすごく進むなぁ。これなら20km先の会社までいけるんじゃないか」って。8時の始業に間に合わせるために2時間前の6時に出発しました。もし時間までに到着するのが無理そうならどこか駅の駐輪場に置いて電車に乗ろう、って決めて。その道中で偶然、師匠(原センパイ)に会って「ちょっとついてきなよ」って。後ろをついて行ったら、「意外と速く走れるね。今度、チームの練習会に来てみる?」って誘ってもらって。その後、チームの朝練に参加することになったんです。
いきなり朝練、というあたりがこの後の急成長につながりそうなエピソードです。
美和子さん:でもその朝練も最初はほんとに怖くってーーー。
ちゅなどん:えっ?朝練が怖いって、どういうところが?
美和子さん:置いていかれる! ついて行けないと思って! 道を知らなかったんです。だから置いていかれると帰れない~って。必死だったんです。峠を上ってる時なんてもう半泣きで。「疲れたー足着きたいー」。でも道がわからないからついて行くしかなくて。一緒に走ってるみんなは私がいるからペースを落として合わせてくれたりもするんですけど、そうすると今度は迷惑をかけちゃう。申し訳ないなって気持ちになるし……。上り終わった時には脚がプルプル震えてました……。
ちゅなどん:その時、シューズはフラットペダル?
美和子さん:すでにビンディングペダルになってました。自転車買って2ヶ月くらいだったかな。通勤の途中で見かけたサイクリストのシューズを見て、カッコイイ!って思っちゃったんです。速く走るにはきっとあの靴なんだ!って。最初はもちろん立ちゴケしましたね。車が少ない早朝に出発して、車の迷惑にならないルートを選んで、転びながら会社に行きました(笑)。
ちゅなどん:ではレースに出始めたのは朝練を始めた後ですか?
美和子さん:そうですね。最初はレースに出ようとは思ってなかったんです。勝てないと思ってたし。でも会社が毎年ツール・ド・八ヶ岳にブース出展をしていて、出走枠があるということだったので、それなら走ってみたいです、って言って走らせてもらいました。
ちゅなどん:その結果が3位。お見事じゃないですか!
美和子さん:ツールド八ヶ岳の後に、周りの勧めがあって、バイクをカーボンのものに買い換えたんです。そのあと、誘われて走ったヒルクライムレースでも3位。去年はこの2レースだけだったんですね。そして、今年に入って走ったレースで1位を取った報告をしたところ、社長が「会社で応援してあげるよ」って言ってくださったので、たくさんレースに申し込みました。
写真/編集部
著者プロフィール
ちゅなどんちゅなどん
自転車好きが高じて一時期飽きるほど自転車に乗り、とうとう自転車に"乗る理由"がなくなってハンドメイドサイクルキャップを制作販売、自走納品する『自作自演型サイクリスト』 その傍ら、あるときはサイクリングイベント会社で、あるときは自ら企画するイベントでアテンドライドしています。持ち味はよく通る声と年の功からにじみ出る安定感。 ハマっ子歴19年。関西弁ネイティブ。