2020年04月07日
【NIPPO・デルコ・ワンプロヴァンス 中根英登選手インタビュー】後編 そこまでが本当に遠かった
勝ったのは、意外にも「初めて」
ーーーランカウイでの勝利についてお伺いします。
キャリアとしては大きな出来事?
中根:いままで、2位・3位は何回も獲っていたり、あるいはレベルの高いワールドツアーの選手がひしめくなかでトップ10に入る、というリザルトは残してきました。
でも優勝っていうのは今までなくて。そこは、ホッとしました。ようやく一勝できたな、っていうところです。
よく周りの人に言われるのが「あれ?勝ったことなかったっけ?」なんですが。
一緒に走っている選手たちだって、どのレースで誰が勝ったかなんて絶対覚えてるはずなのに、入部選手や初山さんまで「勝ったことなかったっけ?」なんていうものですから。
ーーー代表に選ばれたり、名前がのぼっています。“勝ってて当然”というイメージがあったんですね。
勝ち慣れている選手より、苦労して勝った選手に聞くとより言葉に重みがありそうです。
中根:そこまでが本当に遠かったです。あの第6ステージで僕が勝てた日に限って言えば、その日は僕が勝ちに行くという感じではなかったんですね。チャンスがあれば、という感じではありましたけど。
僕としてはその2日前の山頂ゴールの日を狙っていたので、この日に気負うことはまったくなく、リラックスできていて本当に調子が良くて。冷静に飛び出す瞬間の状況や、コンマ何秒の判断のシーンでもいろんなことが判断できてたなという印象ですね。
©︎ Team NIPPO
ーーーあのレースで競ったヴィノ・アスタナモーターズの選手。彼もスプリントが強いんですか?
中根:彼はTTが強い。まだ若い選手ですよね。
彼が一人飛び出して、それに追走して何人か飛び出して、吸収されたあと、ぼくが一人で飛び出して。
うちのエーススプリントが二人残ってくれてたのが大きかったですね。スプリントで勝てればそれでいいと思って飛び出しました。
とりあえず、彼をキャッチして集団に引き戻せればいいかなと。そうすると、メイン集団の動きが止まったんですね。
チームメイトから無線で「こっち止まったからいけるぞ」と連絡を受けて余裕をもってというか、アスタナのグレブ・ブルセンスキー選手と合流して二人になったときも、そこでどうしても自分が勝ちたいという意思が強すぎたら、そのローテーションを必死で回ってたと思うんです。
逃げ切りたいから。そこで彼はそんな雰囲気を出してました。
ぼくは捕まっても後ろのスプリンターが勝てる、という気持ちでローテーションしてたんですね。
余裕があったというか冷静に走れていましたね。
ーーー余裕、というのが良かったのかもしれないですね?
中根:焦って間違った判断をせずにすみました。うちのチームメイトのおかげ、強いスプリンターがちゃんと二人残ってくれてた、ということで僕も今日はうちのチームが勝てるだろう、と思ってました。
そこで、もしうちのスプリンターがいなくて、チームメイトがいなかったら、ぼくが勝たなきゃ、っていう気持ちが強く出てしまっていたかもしれないので。
チームメイトのおかげですね。
旬だからこそ、冷静な目標設定を
ーーーこの勝利をして、将来どうありたいか、という目標設定についてお話しいただけますか?
中根:2年前にヴィーニファンティーニに移籍した時から目標は変わってなくて、ヨーロッパのレースで上位に食い込むトップテンに入ること。を一番の目標にしています。表彰台に立てれば最高ですが。
特にワールドツアーのレースをヴィーニファンティーニ時代にたくさん走らせてもらって、グランツールこそ走っていないものの、ワールドツアーレースの厳しさを肌で感じて、かなり現実的な考えになったというか。
もともと「ツールで勝ちます」なんていう思想ではありませんが、それがより現実的になったというか。
ーーー過去の経験を踏まえて、トップテンは現実的だと。
中根:そこならなんとか頑張ればそこには手が届きそうな。さらにステージ優勝とかできれば一番いいですし。
どうしてもツールに出たいとか、ジロを走りたい、とは思っていないんですね。
もちろんチームからジロとかツールにチームが出るとして「がんばってこい」と言われれば、全力を尽くしますけれど。
一つ例を挙げると、去年ジロに出られるチャンスがあった中で自ら辞退したことがありました。
南米のレースでは調子が良かったことから、年初めから「今年はジロにいくぞ」と言われてたんですが、そのあと体調を崩してしまってから調子がなかなか戻ってこなくて。戻せなくて。
“100%で行けないからぼくは無理だ”、と当時のGMや監督に伝えてました。
イタリア人にとってジロは夢というか、最大の目標なので、「おまえジロだぞ? ほんとにいいのか?」って何度も言われましたが、出るだけでは無駄というかもったいない。
“僕は今そのレースを走れる状態ではないことからやめておきたい”とチームに伝えてました。
©️Team NIPPO
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著者プロフィール
山本 健一やまもと けんいち
FUNRiDEスタッフ兼サイクルジャーナリスト。学生時代から自転車にどっぷりとハマり、2016年まで実業団のトップカテゴリーで走った。自身の経験に裏付けされたインプレッション系記事を得意とする。日本体育協会公認自転車競技コーチ資格保有。2022年 全日本マスターズ自転車競技選手権トラック 個人追い抜き 全日本タイトル獲得