2018年08月25日
【第18回アジア競技大会(2018ジャカルタ・パレンバン)現地レポート】BMXレースで自転車競技第1号の金メダルを長迫吉拓が獲得!
男子表彰式。左より銀メダルのサプトラ・I・グスティ・バグース(インドネシア)、金メダルの長迫吉拓(モトクロスインターナショナル)、銅メダルのダニエル・パトリック・キャラグ(フィリピン)
インドネシアで開催されているアジア競技大会。自転車競技は場所をスバンからジャカルタに移し、BMXレースが行われた。日本から出場している長迫吉拓(モトクロスインターナショナル)が、本大会の自転車競技で第1号の金メダルを獲得した。
男子のレースに出場した長迫はタイムトライアル形式で行われたシーディングランをトップのタイムで通過し、その後のモト(3回行われる第一回戦)でも安定した力の強さをみせて首位で通過。モトから勝ち上がった8名による決勝戦で、スタートこそ若干の出遅れはあったものの、最初のストレートのジャンプセクション後にトップに浮上し、その後は危なげない走りで優勝。金メダルを獲得した。吉村樹希敢(GAN TRIGGER)は、長迫とは別のもう一つのモトから圧倒的な強さで決勝に進出したものの、前半でのミスが響き、6位でレースを終えた。2位には地元インドネシアのサプトラ・I・グスティ・バグース(インドネシア)、3位には前大会優勝のダニエル・パトリック・キャラグ(フィリピン)が入った。
女子のレースでは、シーディングランからモトまで畠山紗英(日本体育大学)が、ほかの選手を引き離す強さを見せたものの、決勝の第1コーナーで畠山のイン側に入った中国のルー・ヤンの転倒に巻き込まれ8位となった。このレースは中国のチャン・ヤルーがトップでゴールし金メダルを獲得した。
女子の絶対的な優勝候補だった畠山紗英のモトでの走り。圧倒的な強さだったが、勝負の厳しさを味わう結果となった
男子決勝、第2ストレートに設けられたプロセクションをクリアする長迫(先頭)。吉村もここまでは2位につけるものの、わずかな失敗が響き6位でレースを終えた
今大会の自転車競技で初めて君が代が流れ、日の丸が中央に掲げられた
長迫はモトの1ヒート目でインドネシアのトニー・シャリフディンに先行させるものの体力を温存して決勝に備えた
モトを3ヒートとも2位銀メダルのサプトラ・I・グスティ・バグースを押さえてトップでゴールした吉村樹希敢。決勝はミスが響き6位でレースを終えた
女子決勝は畠山紗英のイン側に入った、中国のルー・ヤンがこの後転倒。畠山も巻き込まれてメダルを逃した
長迫吉拓(モトクロスインターナショナル)のコメント
まずは目標の金メダルを獲れてほっとしている。僕自身アジアでのレースが2015年以来で、それ以降はオリンピックなどの選考上あまり優先順位が高くなかったので、スキップしてきた。
アジア各国の選手レベルが上がってきており、実際に走ってみてもインドネシアやタイの選手のレベル向上を感じた。今回、危ない面もあったが自分のなかで勝てるのはわかっていたし、だからこそ守りでなく挑戦、チャレンジャーという気持ちで挑んだ。
最初のモトでインドネシアの選手に先行を許したが、前に出られてしまったので後方を走る感覚をつかんでおこうと、あえて抜かずに2位でゴールした。決勝は、スタートでインドネシアの選手に出られてしまったが、最初のジャンプセクションをクリアしたところで前にでることができた。
今日のレースは暑さのなかで体力面がタフなコースを5本走らなければいけない。そういった面でも少しでも体力を温存しておこうということで1本目はゆっくり走った。インターバルの短いレースだったが、日本でさらに短いインターバルでの練習をしてきた。しんどさはあったが、僕のなかでは計算どおりの展開だった。
BMX日本チームとして初めての金メダルだったためプレッシャーはあった。この金メダルで来週から始まるトラック競技につなげられたら良いという思いもあった。
トラック競技に取り組んだことによるメリットは出てきている。全体的な体力が向上したこともあるが、それ以上にレースに対する考え方や準備といった面で、ブノワコーチの指導が生きているのだろう。技術面については自転車や走る場所がまったく違うため、乗り換えたときの感覚をすぐに取り戻せるように、現在も十分なレベルではあるが、さらにうまく両立させたいとは考えている。
BMXとトラックの両競技で東京オリンピックを目指す気持ちは変わらない。レベルこそ違うがシステムや流れなどは、オリンピックとアジア大会は同様のものだ。リオオリンピックを経験したことで、アジア大会では優勝することができ、大きなステップだと思う。勝たなければならないところでプレッシャーに負けずに勝つ力が得られたと思う。
当面のBMXの取り組みはワールドカップで表彰台や決勝での常連メンバーになることが、東京オリンピックでのメダルに近づく目標だと考えている。そのレベルにしっかりと高めていくことが必要だ。技術的な面はそのレベルに達しているが、スタートでのパワーが課題で、練習ではできることが本番でできない状況がある。思考的な面も含めてレベルアップしていきたい。
三瓶将廣(JCF BMXコーチ)のコメント
男子2人女子1人で3つのメダルを持って帰りたいというのが目標だったところではあるが、最低限の目標として定めていた金メダル、それも今大会の自転車競技で初のを獲得できたことは率直にうれしい。BMXレースにおいても、3大会目にして初めてのアジア大会の金メダルとなる。
アジア大会はワールドカップなどから比べると出場人数も少ないが、選手村があるなどほぼオリンピックと同じ形態で運営されているため、この場を選手に経験させて次のオリンピックにつなげていきたいという強い想いがあった。
今回はナショナルチームとしてもベストメンバーで臨んだ大会だった。吉村は直前までアメリカで、畠山もスイスで調整してきた。トラック競技にも取り組んでいる長迫も本大会はBMX1本に絞った。それぞれ活動内容は異なるが、万全の体制でこの大会を迎えることができた。
今大会は出場人数が少ないため、レースのインターバルが大変短いのが特徴だったと思う。シーディングからモトをまとめながら、決勝でベストな力を出すことが求められた。ほかの国の走りも気にはなるが、日本は以前からアジアのBMXレースをリードしてきたという自信をもって決勝に進むようにと伝えて選手たちを送り出した。
金メダルを獲得した長迫について、練習日から安定した走りをしていたし、コースの攻略も問題なくできていたので、あとはいつもどおりの走りができればいいと考えていた。決勝のスタートがベストなタイミングで出ることができなかったが、それでも許容範囲のなかにまとめて、レースを優位に進めることができた。
トラック競技に取り組んだことも新たなトレーニングを取り入れるなど、マイナスになってはいない。今後は東京オリンピックに向けて最後の調整という時期を迎えるが、どれくらいトラック競技の練習を入れていくか、もしくは少し減らしてBMXの比率増やすなど、どうアレンジしていくかをこの大会の成果も含めて検討していくことも求められると思う。
決勝で転倒してしまった畠山の結果について、やはり相手ありきのレースであるのがBMX。もったいないと思うが、そこをクリアできてこそオリンピックのレベルにいけると考えている。本人としてもオリンピックにつながるアジア大会の会場のシステムなど、非常に良い経験になったと考えている。
東京オリンピックについて、自国開催ということ生活面で有利になる部分はあるだろうが、使用するコースを日本の選手が多く走れるような優位性はないと考えている。やはり実力的に優れている選手が勝てるのがオリンピックの舞台だ。別の場所にレプリカコースを作って強化の環境を整えられることがベストだと思う。それを作れる場所や体制を整えていきたい。
北京オリンピックから正式種目として採用されたBMXレース。そこからアスリート種目として強化が進んできた。そのなかで僕自身も選手として活動していた時期もあった。
畠山などは強化の体制が本格化してユースから育ってきた最初の世代の選手だ。畠山は東京と次の2024年がターゲットとなり、長迫や吉村は、東京でベストな状況で挑めるだろう。引き続き選手強化を進めて、アジア大会とオリンピックと異なる大会ではあるが、自国開催として今回のインドネシアのように盛り上がれるレベルまで引き上げたい。
どこの場所であっても金メダル獲得を至上命題とした大会は、相手が違えども同じ面がある。この経験を選手たちがしっかりと受け継いで、自分の糧として、さらに若い世代に受け継いでいくことが重要だ。
金メダルの長迫吉拓とコーチの三瓶将廣。三瓶は2014年仁川大会の銀メダリストで、現在は指導者としての道を歩んでいる
畠山紗英(日本体育大学)のコメント
予選からどんどん調子が良くなっていき自信もあったが、BMXレースは何があるかわからないのを改めて感じるレースになってしまった。同時にアジアのBMXのレベル向上も感じた。
決勝で中国のルー選手と争って、第1コーナーでインに入られ接触して転倒してしまった。コーナーの手前では先行していたが、私がアウト側にいたのでインに入られたのが敗因だったと思う。
アジア大会という大きな舞台だけに悔しさは大きい。この経験を生かして次につなげていきたい。
吉村樹希敢(GAN TRIGGER)のコメント
スタートは良かったがひとつ目のジャンプで失敗してしまい、ペダリングの体制に入れず失速してしまった。第2ストレートで3位に入れるチャンスがあったが、相手に押し出されてしまった。自分との戦いで負けてしまったところがある。この経験を生かしていきたい。
写真と文:猪俣健一
関連URL:https://www.joc.or.jp/games/asia/
著者プロフィール
ファンライド編集部ふぁんらいど へんしゅうぶ
FUNRiDEでの情報発信、WEEKLY FUNRiDE(メールマガジン)の配信、Mt.富士ヒルクライムをはじめとしたファンライドイベントへの企画協力など幅広く活動中。もちろん編集部員は全員根っからのサイクリスト。