2015年11月17日
3モデル インプレッション VOL.3 トレック編/マドン9.2(エアロロードバイク)
TREK / MADONE9.2 IMPRESSION
新型マドンは、高度な空力性能、Isoスピード、ライドチューンドパフォーマンス、そして完璧なインテグレーションという4つポイントを集約したスーパーバイクだ。今回試乗したマドン9.2はプロスペックのマドンRSLが700シリーズOCVLカーボンであるのにたいし、600シリーズOCLVカーボンを採用している。またH2フィットのジオメトリーで、無理のないポジションの設定ができる。さて、このすべてを集約したスーパーバイクをインプレッションしよう。
MADONE9.2 /フレーム:600シリーズOCLVカーボン KVF ■フォーク:マドンKVFフルカーボン■試乗車のコンポーネント:シマノ・アルテグラ■ホイール:ボントレガー・アイオロス3D3 TLR■完成車実測重量:7.4kg(ペダルなし)■カラー:マットドニスターブラック×マイアミグリーン■サイズ:50、52、54、56、58、60、62cm■価格:650,000円(シマノ・アルテグラ完成車、税込)550,000円(H2フィット フレームセット、シートポスト、ブレーキセット、ヘッドパーツ小物付属、税込)※試乗車と販売モデルはスペックが異なります。
専用のエアロバー/ステムはケーブルをすべて内蔵し、空気抵抗が少ない形状に仕上げた。いまのところドロップ形状は1パターン。
ヘッドスペーサーは2分割でき、ハンドルバーを完全に抜くことなくスペーサーを外し、ハンドル高の調整ができる。形状もケーブル内蔵化に対応する独自の規格だ。
ブレーキはマドン専用設計で完全に調和している。ハンドルを切るとカバーが動くベクターウィング機構は実に画期的である。
横風にも強いKVFチューブはさらに進化を遂げた。機械/電動式問わず、リアの変速調整が可能なダイヤルがダウンチューブに設けられる。
長時間快適に走ることができるIsoスピード。シートチューブをトップチューブから完全に独立させる形状によって、他社の競合するモデルよりも2倍の振動吸収性を実現した。
リアブレーキはバックステイに収まるコンパクトなデザイン。センタープル式で、シートチューブからケーブルが伸びる。ケーブルはむき出しながらも従来のブレーキ構造体よりも空力特性は高いだろう。
孤高の存在となるのか●菊地武洋
今度のマドンは、実にいい。こんな書き方をすると嘘くさいけど、本当に、そう思うのだ。モデルチェンジのたびに繰り返されるので、聞かされる方も飽きただろうが、書く方もいささか飽きた。それでもマドンを褒めるのは、少なくともこの10年間はマドンがマイルストーンになってきたからである。誤解を恐れずに言えば、マドンに似せて作れば「現代風」とか「最新」の走行感になる。デビュー時は鮮烈なのに、翌年になってフォロワーが出てくるとマドンの印象が薄くなるのを繰り返してきた。ライバルからの最大の賛辞だとは思うけど、僕が開発チームのメンバーだったら心穏やかではないだろう。しかし、今度の新作はいろんな意味で面白そうだ。走っている分には、新型に不満はない。走る・曲がる・止まるのすべてが驚くべき高いバランスを誇っている。『絶対』という表現は使うべきではないが、こと走行性能だけで「これで満足できないなら、あなたが間違っています」とでも言いたくなるほどだ。一方で、「ついにやらかしたな!」という弱点も内包している。すばらしいスタイリングで抜群の空気抵抗を手に入れているが、代償として複雑難解なワイヤリングを受け入れざるを得なくなっている。ライバルのヴェンジ・バイアスよりはいいが、完全にメカニックを敵に回すメンテナンス性の悪さは優等生のマドンとは思えないほどだ。「着いてこられるものなら、着いてこい!」とでも言いたげな男らしいアタックだが、果たして集団は追撃に出るのか? 僕は追いかけないと思う。それゆえ、今回のマドンは個性的で魅力的だ。
パッケージングされた次世代ロードの凄みを感じる●小高雄人
エモンダの登場で、マドンの歴史は幕を閉じるのであろうと勝手に予想していたが、予想を大きく裏切り、世界最先端のロードバイクとして新型マドンが登場したことには本当に驚かされた。その佇まいだけで、従来のカーボンロードバイクとは一線を画す存在であることがわかる。今後のロードバイクの進む方向を指し示す、ベンチマーク的な存在になりそうだ。乗ってみると、今まで乗ってきたロードバイクとはどこかフィーリングが違う気がした。ハンドルからブレーキ、そしてホイールまで、ほとんどすべてをパッケージング化し開発されているがゆえに、完全な1つの集合体に乗っているような印象を受けた。だからからこそ、ハンドリングにもぺダリングにも一切のロスを感じさせない。しかしながらパーツの選択に限りがあり、メンテナンスにもスキルが求められるので、一般のホビーライダーが扱うには難点もあるが、それを補ってあまりある性能と価値を感じずにはいられない。とにかく最新のモノが好きであれば、一度その目で確かめてみてほしい。
追従したくてもできないスポーツカー●山本健一
様々な機構をフレームに格納したマドンは、スポーツカーのような無駄のないフォルムになった。マドンといえばつねにロードバイクの新しいスタイルに先鞭を付けていて、ライバルメーカーからは追従される立場である。しかし、今回に関してはこの真似したくてもできないほど複雑に特化した機構かもしれない。ちょっと言い過ぎかもしれないけど、もはやメカニックなしには乗り倒せない、ユーザー個人だけではどうにもならないレーシングマシンだろう。ライディングフィールは形状から想像するよりも乗り心地はすこぶる良い。ペダリングに対する反応は機敏ながらも、重戦車のような安定感も併せもっているのが印象的だった。いざ加速するときもスムーズに伸び、高速巡航こそが真価を発揮するときだ。ある程度の速度まで上げると後ろから押し出されるようにペダルを回すのが軽くなる瞬間がある。そこから上げるためには身体の鍛錬を必要とするが、この感覚は誰でも得られるはず。そのうえ下りでの安定性は特筆だろう。柔と剛の調和。この質感はマドンだからこそ、マドンユーザーになったからこそ得られる特権といえる。1つ気になるのはベクターウイングの可動音。うっかり幅員の狭い道でUターンしたときのきしみ音には肝を冷やした。落車時にハンドルが大きく切れたとき、そんな状況を頭に描くとゾッとしてしまった。いずれブラッシュアップは施されるだろうが、この特化した機構をいま体験し、乗りこなすことにも大きな意味がある。とはいえ、完全無欠じゃないニューマドンにちょっとだけホッとするのはひねくれているだろうか?
(写真:和田やずか)
お問い合わせ先:トレック・ジャパン http://www.trekbikes.co.jp/jp/ja/
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著者プロフィール
ファンライド編集部ふぁんらいど へんしゅうぶ
FUNRiDEでの情報発信、WEEKLY FUNRiDE(メールマガジン)の配信、Mt.富士ヒルクライムをはじめとしたファンライドイベントへの企画協力など幅広く活動中。もちろん編集部員は全員根っからのサイクリスト。