2015年11月22日
3モデル インプレッション VOL.3 トレック編/エモンダSLR(スタンダードバイク)
TREK / EMONDA SLR IMPRESSION
エモンダの目的は各グレードにおいて最軽量バイクを作り出すこと。今回はエモンダの最上級グレードのエモンダSLRをテストライド。ライドチューンドOCLVカーボンフレームは、フレーム単体重量690gと極限なまでに無駄を削ぎ落としながらも、運動性能を最大限発揮できるよう工夫を凝らす。実に軽量ながらもフレームを構成するものは限りなくオーソドックスに近く、今回はスタンダードロードとしてエントリーしていることをご了承いただきたい。さて、この超軽量バイクをインプレッションしてみよう。
EMONDA SLR /フレーム:ウルトラライト700シリーズOCLVカーボン■フォーク:エモンダ・フルカーボン■試乗車のコンポーネント:シマノ・デュラエース■ホイール:ボントレガー・パラダイム エリート チューブレスレディ■完成車実測重量:6.3kg(ペダルなし)■カラー:マットバイパーレッド■サイズ:50、52、54、56、58、 60、62cm■価格:1,466,000円(プロジェクトワン参考価格、完成車、税込)
電動コンポーネントにも対応する内蔵機構。さらにケーブルルーティングでのフリクションをほぼゼロにしており、あらゆる状況下でスムーズなギアチェンジを可能にした。この構造を実現するまでに3年の時間を要したという。
リアディレイラーのケーブルはフリクションロスを軽減するために直線的なルーティングを用いる。
ボントレガー製のダイレクトマウントブレーキ。優れたブレーキングパフォーマンスを提供する。
リアブレーキもボントレガー製のダイレクトマウントブレーキを用いる。バックステイの内部に隠れるコンパクトなデザインで空力にも貢献するだろう。
ドマーネと同じくライドチューンドシートマストを採用。カット不要の設計で10cmにおよぶ高さ調整域を実現した。さらに従来のシートポスト結合部分に必要な素材を少なく抑えることができ、軽量化にも貢献する。
BB90は直接シールドベアリングをインサートする規格で、構成パーツを最小限に抑えることができ、軽く仕上げることができる。
見直さざるを得ないパフォーマンス●菊地武洋
もしかして失敗作?と、エモンダのデビュー当時の凡庸さは期待していただけに意外だった。超軽量ホイールという弱点を抱えていたものの、ただの軽いカーボンバイクだと思ったからだ。その後もほかのモデルを試したものの、どうもパッとしない。最良のエモンダはアルミであり、カーボンフレームならマドンのほうがベターという結論に至っていた。しかし、1年振りに乗ったエモンダは、以前のそれとは印象が違っていた。相変わらず剛体という感じはしないが、ペダルを踏んだときや路面から受ける振動の伝えかたが洗練され、頼りなさというよりも、角が取れたまろやかなという表現が相応しい感じになった。疲れにくく、ロングライドにも良さそうな走行感はホビーライダーにとっても好ましいし、レースで使いたい人もいるだろう。ダイレクトマウント方式のブレーキも制動感が素晴らしく、コーナーリングもオンザレールでクリアしていく。というわけで、久し振りのエモンダSLRには弱点らしい弱点がない。エッジの立った走行感を求めるならマドンもいいが、最大公約数で考えるとエモンダのほうが人気を集めそうだ。走行感だけでいえばマドンのほうが好みだが、メンテナンス性などの実用面も含めて考えるとラインナップの中心はエモンダだろう。ドマーネよりはスポーティーで、マドンよりもマイルド……。まぁ、狙いどおりの出来というわけだ。文句もないのに注文をつけるのも変だが、ここまで健康優良児っぽいと、もっとちょっと不良っぽいところも見たくなる。
軽さへの追求が生んだフレーム●小高雄人
マドンやドマーネに比べるとギミックも少なく、いたってシンプルなフレームデザイン。トレックの技術を駆使し、軽量性を追求した結果が不必要な部分をそぎ落とし、ミニマルなデザインへと結実したのだろう。個人的にはシンプルなデザインは流行り廃りがなく、長く乗り続けられそうで好印象。プロジェクトワンでお気に入りのカラーを選択すれば完璧だ。
乗り味は一時期の重量にこだわったモデルに比べると、神経質な部分は少ない。それでも軽さゆえ、不安定さは少なからず感じるので上級者向けの性能といえる。もちろん上りでの軽さは特筆すべきものがある。シッティングでもダンシングでも軽快に駆け上がれた。ヒルクライムレースで活躍したいのならば、最高の相棒になること間違いなしだ。
オーソドックスなフォルムに隠された攻撃力●山本健一
能ある鷹は爪を隠すとか、羊の皮を被ったオオカミ、などといった類いのギャップを楽しむことができるのがエモンダだろう。個人的にはマドンの、見た目から完全無欠を目指したというバイクよりも、エモンダのような余計なものを削ぎ落とした系バイクで高い運動性能を感じるモデルに、よりぐっとくるものがある。なにしろ限りなく少ない素材で、ライダーが満足する剛性レベルに到達するという無理難題を克服したという点でリスペクトに値する。相反する能力を両立するという、むしろマドンよりもドマーネよりもハードルが高いのではないかと思う。ライディングフィールはというと、反応はよいもののややマイルド。ヒルクライムはすこぶる良く、イーブンペースでの軽快な走りは爽快感すら得られる。だが私の体格では少し腰高に感じてしまう。下りで限界くらいまでコーナーを攻めると、路面状況によってはヒヤリとすることもあった。慣れてくれば多少は克服できそうだが、マドンほどイケイケで攻めるのは難しそうである。とはいえ同じコースを反復するサーキットレースでは最高速スピードも知れているし、マドンよりも使いやすいと感じる。そんな私の理想はマドンとエモンダの使い分け。そんなブルジョアみたいな所業に及んでみたい。数日だったとしても満足しそうだ。もうひとつ、体重が軽いライダーにとっては最高の武器となる。お世辞にもリーズナブルとはいえないが、ガンガン乗ってこそのバイクといえる。
(写真:和田やずか)
お問い合わせ先:トレック・ジャパン http://www.trekbikes.co.jp/jp/ja/
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著者プロフィール
ファンライド編集部ふぁんらいど へんしゅうぶ
FUNRiDEでの情報発信、WEEKLY FUNRiDE(メールマガジン)の配信、Mt.富士ヒルクライムをはじめとしたファンライドイベントへの企画協力など幅広く活動中。もちろん編集部員は全員根っからのサイクリスト。