2017年08月15日
【2018 NEWプロダクツVOL.3】TREK / EMONDA SLR6
TREK / EMONDA SLR6
2015モデルとして誕生したトレック・エモンダが、2018モデルで2世代目へと進化した。車名は“不要な部分を除く”という意味のémonder(フランス語)に由来し、シリーズのコンセプトはいうまでもなく軽量化。フレーム重量はペイントをする前で610g、ペイントしても640g(56㎝)。どれほど軽いのか、きちんと理解するために旧モデルを引き合いに出すと、旧モデルでもフレーム重量は690gほど。そこから約10%の軽量化を果たしている。エモンダシリーズは最上級モデルのエモンダSLR9を筆頭にディスクブレーキモデルを含めて計13モデルをラインナップ。インプレッションを行なったSLR6は新型アルテグラを搭載した中核モデルだ。
軽さとの戦いは、どのメーカー、どのモデルにも共通したロードバイクにとって永遠のテーマだ。逆に言えば、つねに限界に挑戦した結果であり、この先はカーボンに代わる素材が登場するなど革命的なことが起きない限り、飛躍的な軽量化は最後だと開発陣が言うほどの情熱が注ぎ込まれた結果である。設計には複合領域最適化ツール《HEEDS》を投入し、強度や剛性といったパラメーターの最適化を図った。従来、ディスクブレーキ用フレームはリムブレーキよりも圧倒的に重かったが、新生エモンダでは25gのみの差しかない。
エモンダ SLR 9 1,199,880円
エモンダ SLR 8 ディスク 964,440円
エモンダ SLR 8 860,760円
エモンダ SLR 6 590,760円
(税込 他、エモンダ SL、ALRをラインナップ)
ヘッドパーツのサイズは上側が1.125、下側が1.5インチの異形断面。また、わずかだがヘッドチューブの剛性も向上し、優れたハンドリングに貢献している
SLR6は最上級モデルと同じ、最高級グレードのカーボン素材OCLV700が採用されている
シートマストはBB90と共にトレックのロードバイクの基礎となる企画の1つ。上下方向に適度なしなりを与えて走行時の快適性向上に貢献する
ダイレクトマウント方式のオリジナルブレーキ《ボントレガー・スピードストップ プロ》。メカニカルなスタイリングはマニア好きするものだ
軽量化とともに剛性アップも新型エモンダの大きな開発テーマの1つとなった。BBシェルの幅が90㎜に変更はないがダウンチューブのシェイブがブラッシュアップし剛性アップしている
試乗車のホイールは次世代主力タイヤとして期待されるチューブレスレディに対応した《アイオロスプロ 3TLR》が装着されている
IMPERSSION
軽いながらも重厚★山本健一
初めてエモンダの実物を見たのは、リリース前、全日本選手権に出場した別府史之選手が乗っていたものだ。勝利を引き寄せるために持ち込んだエモンダは、どのバイクよりもすっきりとしていたが、ただならぬオーラを発していたのを思い出す。トレックも軽さか、とエモンダのコンセプトを聞いた時に思った。正直にいうと超軽量バイクに関してはあまりいい印象はない。軽量化は好きだが、一線を超えてしまったときの「ノーコン」な感じがどうしても受け付けない。しかしながら、この新型エモンダに関しては、軽いながらも重厚という表現がしっくりとくる。素晴らしく軽快に感じる踏み出しのよさは、むしろ質量の小ささからではなく剛性由来であるように感じる。フォークのコントロール性はより精悍さを増した。見た目の印象は昨今の尖ったバイクたちに比べるとおとなしい。ボントレガーのブレーキがメカメカしいが性能は問題なく、ともかくバイクの雰囲気からはやや浮いている印象もある。たしかに個性的な部分は少ないが、正直欲しい一台である。運動性能を犠牲にしてまで、得られる軽量化、あるいはエアロダイナミクスはナンセンスだが、それを克服したのが新しいエモンダではないか。そういった意味で今考えられる最高の軽量バイクといえる。600g台カーボンフレームが市販され、ちゃんと乗れる時代が来てしまったことに驚いている。
大きな弱点は見当たらない★菊地武洋
エモンダが登場して4年経つが、2017年モデルに乗って古臭さは一切に感じなかったし、このまま継続販売でいいだろうと思っていた。しかし、レーシングバイクは進化させられるなら、少しでも進化させるのがセオリーだ。新しくなったエモンダのトピックは軽量化だが、残念なことに元が軽いのでシェイプされた重量を感じることはない。ハードブレーキングやタイトコーナーで、か細さがあったフロント回りの剛性が上がっているが、誤解を恐れずに言えば大差がない。しかし、確実に進歩しているのを感じる。たとえるなら、小学5年生と中学1年生の違いのように、新型をベースに考えると旧型は頼りなく感じられる。弱点を克服しているのに、それを強く感じさせないのは進化が鈍いのではなく、走行感を構成するバランスを見事に踏襲しているからだ。重量やレスポンスの高さはクライムバイクらしいものだし、大きな弱点は見当たらない。もっと個性を……とも思うが、その判断はディスクブレーキ版に乗ってから評価したい。きっと、上りだけに特化すればリムブレーキ、上りも下りも含めて考えるならディスクブレーキ版となるのではないだろうか。
COLUMN エモンダ SLにも試乗してみる
先日行われたトレックワールド2018にて、エモンダSLの試乗車を発見。ここでSLRと比較するようにテストライドを行なった。
エモンダSLはSLRの弟分にあたり、エモンダの性能をより身近に感じられる存在だ。旧エモンダと同じ形状となるか、大きな違いはOCLVカーボン500を採用している点である。とはいえ同価格帯のバイクでは軽量に仕上がっており、スペックだけみてもプロスペックの片鱗を感じることができる仕様だ。実際に乗ってみると踏み出しの軽さが突出しているのがわかる。ミドルグレードとしてはなかなか優秀な走りの軽さだ。ホイールのパフォーマンスも影響はあるが、ボントレガーのパラダイムもアルミホイールとしてはセンスのいいモデルだろう。忌憚なくいうなら旧エモンダSLRよりも印象がいい(無論、最新のエモンダSLRは異次元だ)。
どうしてもプロスペックのハイエンドモデルに目が行きがちだが、エモンダSLならレースに使ってもいいと思える。こうしたミドルグレードにも力をしっかりと注ぐことができているのは、プロだけでなく実際に走るサイクリストのことを考えている証拠だ。
このバイクは……
レース・ヒルクライム向け
すべての調和がとれた軽量ロードバイクのベンチマーク。
富士チャレンジ200
Mt.富士ヒルクライム
クライムジャパン
関連URL:トレック・ジャパン https://www.trekbikes.com/jp/ja_JP/
写真:編集部、江西伸之
文:菊地武洋、山本健一
著者プロフィール
菊地 武洋きくち たけひろ
自転車ジャーナリスト。80年代から国内外のレースやサイクルショーを取材し、分かりやすいハードウエアの評論は定評が高い。近年はロードバイクのみならず、クロスバイクのインプレッションも数多く手掛けている。レース指向ではないが、グランフォンドやセンチュリーライドなど海外ライドイベントにも数多く出場している。