2019年10月16日
ホビーレーサー必読!「ロードレースのAtoZ」最終回「強くなるためのトレーニング基礎理論」
トレーニングは強化を目的とした取り組みです。
身体運動能力を向上させるために4つのポイントがあります(より詳しい内容は、自転車競技のためのフィロソフィー 柿木克之氏 著をお読みください)。
1.LTパワー値のアップ
基本的にほとんどの選手が取り組む必要があります。より高いパワーを長時間発揮し続けることができ、自転車選手としての能力を大きく向上させます。
2.繰り返し能力の向上
LTパワー値を超える強度では正確な筋収縮が阻害されます。高パワーの繰り返しのトレーニングを行うことで、正確な筋収縮を維持するためのに能力が向上します。LTパワー値が高くてもこの繰り返しができないというケースもあります。
3.筋力および解糖系の強化
解糖系の能力の高さが、最後のスプリント力の決め手となります。集団からのブレーク、短い上りでの加速など、ロードレースのセレクションをかけるポイントで必要になります。短距離トラック選手にとっては決定的な武器となります。
4.1〜3の複合的な能力の向上(脚を使い切る)
高い強度を断続的に、長い時間繰り返し、より多くの仕事量をこなせる選手がいますが、脚を完全に使い切るまで走れることができるとも言えます。これは1〜3までの複合的な能力が組み合わされた結果といえますが、トレーニング時には脚を使い切るとして意識すべきと考えられてます。
これらの4つを体への働きかけとして効果のある強度・時間の最小トレーニング単位を基本単位メニューとします。
基本単位メニュー
ミディアム(Md):代謝能力の向上。最も基本的な持久トレーニング
ストロング(St):代謝能力の向上と筋力、筋量の増加。基本的な持久トレーニング。全ての自転車競技にとって必須のメニュー。
ストレングス(Str):筋力アップと筋肉の増大。Md、St、Spのトレーニング効果を高める
スプリント(Sp):スプリント力の向上
ペース(Pc):距離を乗りながら脚を使い切る
ハイケイデンス(HCad):脚の回転技術の向上いずれも強度・時間、組み合わせは様々ですが、レースで要求される能力のほどんどをこの基本単位メニューに集約できます。
メニューを行う前提条件として
・フォームを絶対に崩さない
・メニュー実施時のパワー値を上げることだけにとらわれない
・心拍数を一定にすることにとらわれない
・健康には十分配慮する
・安全の確保(交通マナー)
ミディアム(Md):代謝能力の向上。最も基本的な持久トレーニング
・LTパワー値よりも低い強度(85〜100%)。範囲内で可能な限り高い強度を保つ。初めて行う場合は75%くらいからはじめても良い。
・時間は10分 強度に応じて7分〜15分、20分まで。繰り返す場合は、1日に2〜3回。
RPE:13(ややきつい)〜15(きつい)
・ハンドルのブラケットの上部、あるいはドロップ部(自分のレース時の巡航ポジションで実施)。
・スタート直後はそれほどきつく感じないが、5分後くらいから徐々にきつくなってくる。平地やローラーで行う場合、上りに比べて5〜10%程度パワー値は低くなる。心拍数は上昇し続けるが気にしないこと。
・途中で休まないで、パワー値を維持し続けること。
ストロング(St):代謝能力の向上と筋力、筋量の増加。基本的な持久トレーニング
・LTパワー値よりも高い強度(100〜110%、〜130%)。110%までが一般的な強度。
・時間は3分が基本。強度に応じて1分〜5分まで。繰り返す場合は、2〜5回。
・ケイデンスは任意。快適と感じるケイデンスの最高値付近(80〜100rpm)
・平地・上り・ローラー台で実施
RPE:14(きつい)〜20(非常にきつい)
・ハンドルのドロップ部
・スタート直後からきつい。強度によっては痛みと苦しみとの戦い。
・途中で休まないで、パワー値を維持し続けること。
ストレングス(Str):筋力アップと筋肉の増大。Md、St、Spのトレーニング効果を高める
・ケイデンスを落としてトルクをできるだけかける。
・時間は2〜3分が基本。強度に応じて1〜3分の範囲に。繰り返し回数は3〜5回
・ケイデンスは40rpm前後を維持する。ケイデンスがあがりすぎない、さがりすぎないようにする。トルク値はすくなくとも60N/m以上はかけるようにする。
・上りでの実施。ローラー台でも可能。
RPE:15(きつい)〜18(非常にきつい)
・ハンドルのブラケット部、または上部に手を添えるだけ。
・スタート直後からきつい。足がきしむような筋肉痛。手はハンドルに乗せるだけで力を入れない(強く握らない)。ケイデンスを下げて脚の力だけで踏み込む。しっかりとトルクをかける。
スプリント(Sp):スプリント力の向上
・強度を高く、パワー値は設定しない。
・時間は10〜30秒
・ケイデンスは40〜140rpmまで(ゼロ発進から最高ケイデンスまで)
・平地コースでの実施が基本。低ケイデンス帯のトレーニングは高いトルク値のかかる上りコースでも実施。
・ケイデンスを上げながら、トルク値をできる限り下げないようにし、最後まで脚を回しきる。
RPE:18〜20(非常にきつい)
・脚がスカスカの状態で回すだけのスプリントはできるだけしない。
・野外で実施する場合は、高速度に達するため、ある程度の距離を稼げる、安全な区間が必要となる。
ペース(Pc):距離を乗りながら脚を使い切る
・パワー値は設定しない。走行時間全体を通して、平均的にパワー値が上がるように意識する。
・時間は指定しない。参加するレースに合わせて2〜3、5時間程度。
・ケイデンスは指定しない。
・アップダウンのあるコース、上り坂、様々なレイアウトで実施する。
・断続的に高いパワーを発揮する事を繰り返す。アップダウンのあるコースで平均的にペースを上げようとすると自然にこれを繰り返せる。チームでの走行練習がもっとも効率的に実施できる。合間に休みを入れても良い。
RPE:14(きつい)〜20(非常にきつい)
・トレーニング全体にわたって強度を維持できるように努め、特にきつくなってくる後半では、脚を絞り切るようなイメージで、きついところからもうひとがんばりを出すようにチャレンジする。
ひとりで行う場合は、平均的にパワーが高くなるように走行しながら、合間にMd、Stなどの基本単位メニュー、あるいは応用メニューであるTTなどを繰り返し実施する。コース設定を厳しくすることも効果的。
ハイケイデンス(HCad):脚の回転技術の向上
・強度は低く、パワー値は設定しない。
・時間は1〜3時間程度。
・ケイデンスは100rpm前後。
・平地での実施が基本。ローラーでの実施も可能。
・ケイデンスを維持し続ける。
RPE:6(非常に楽である)〜14(きつい)
・ハンドルのブラケット部、ドロップ部分
・慣れていない選手はスタートして1時間でもきつい。シーズンオフの期間などに実施する。
・最適なケイデンスとは。
ケイデンスが高いほど能力が高いというわけでもなく、速筋・遅筋の比率は選手によって異なり、だれでも一律にケイデンスを高くしたほうがいいというわけでもない。また速筋・遅筋の量だけでなく、クレアチンリン酸の再合成が速い選手もケイデンスを高くできるだろうと考えられる。大事なのはケイデンスを上げなければならないと考える必要はないということ。
ケイデンスのテストを行う場合は、パワー値を固定して15分間走り続ける。自分にあっていないケイデンスの場合は、10分付近から、低めのケイデンスに比べてきつく感じるようになる。同じパワー値でもきつく感じるようであれば、そのケイデンスがあっていない可能性がある。
応用メニュー
インターバル:繰り返し能力の向上
Md、St、Str、(Sp)での実施。
・パワー値は実施するMd、Stに準ずる。
・維持時間、ケイデンス、コースは実施するMd、Stに準ずる。
・1本ごとにパワー値をしっかり一定に維持する。
RPE:〜20(非常にきつい)
・ポジションは実施する基本単位メニューに準ずる。
・レスト時間は目的によって変えてよい。
(1)慣れていない場合は、レスト時間をしっかりとる(10分まで)。
(2)レースでの実戦的な繰り返し能力をつける
Stでの実施が中心となる。維持時間の2〜3倍を目安に。
タイムトライアル(TT):LTパワー値の向上、タイムトライアルのペース配分の把握
設定した時間に対してベストパフォーマンスを発揮する。自分の数値を破るようなパフォーマンスを発揮する事を意識する。
・設定時間は15分〜30分
・ケイデンスは任意。上げすぎないように注意する
・パワー値はできる限り一定を維持し、後半はさらに上げるように意識する。
RPE:17(きつい)〜20(非常にきつい)
・コースに合わせてできるかぎり高いスピードを維持できるポジションで。
・苦しみや痛み、きつさを自分の中でどうコントロールするか、苦しさに耐える自分なりの方法を見つける。
チームでの練習ができない場合など、一人で追い込む練習として実施する。TTあるいはペース走のような自分を追い込むトレーニングは必ず取り入れる。
いかがでしょうか。これらの基本単位メニュー、応用メニューを普段のライドに取り入れてみましょう。
目標を限定した形でのトレーニングの構成例もありますが、自分の置かれている状況でトレーニング内容は変わります。
例えば、LTパワー値のレベルに応じて、優先的に取り組むトレーニングを行うべきでしょう。
補足記事として社会人向けの構成案を近日中に公開します。健康と安全
トレーニングを実施するにあたり、平時から健康状態を常にチェックし、運動が身体にとって過大なストレスにならないように注意してください。
ここで紹介しているメニューは高いパワー値を発揮するものであり、十分にトレーニングを積んでいない、技術が伴っていない場合には、非常に大きなストレスにさらされる場合があります。
紹介するメニューは各個人の健康状態の維持を保証するものではありません。
普段から健康診断を定期的に受け、必要に応じて医師の診断を受け、健康管理には十分すぎるほど気を払ってください。また、野外で実施する場合は、交通の安全が確保されている場所以外では絶対に行わないでください。特に強度が高いメニューや維持時間の長いメニューは速度が上がるため、ローラー台での実施を推奨します。
自転車のトレーニングは健康と安全がすべてに優先します。必ずこれを念頭に置いて、トレーニングを実施してください。
協力:http://www.bluewych.co.jp/
写真:編集部
著者プロフィール
ファンライド編集部ふぁんらいど へんしゅうぶ
FUNRiDEでの情報発信、WEEKLY FUNRiDE(メールマガジン)の配信、Mt.富士ヒルクライムをはじめとしたファンライドイベントへの企画協力など幅広く活動中。もちろん編集部員は全員根っからのサイクリスト。