2025年09月01日
サイクリングサイエンス コラム第三十七回/子どものファーストバイク

私事ですが、昨年に第一子を出産いたしました。母子共に健康で、順調に育つわが子に翻弄されつつも、幸せを噛み締める日々を過ごしています。
さて、子どもが生まれてから自然と考え始めたのが、「わが子のファーストバイク」です。最近では生後半年からでも乗れると謳うバイクが販売されていますが、効果は甚だ疑問です。果たしてわが子を乗せる最適なバイク、最適な時期はあるのでしょうか?
今回は、子どもの自転車練習用バイクについて、どの年齢から始めるべきか、どのタイプが良いのかを解説していきます。
自転車に乗ることのメリット
子どもが自転車に乗ることには、さまざまなメリットがあります。たとえば、心肺機能の向上、バランス感覚の向上、体脂肪減少、下肢筋肉強化など、健康上の利点がいくつも挙げられます。
また、サイクリングは単なる運動にとどまらず、子どもの精神的な成長や社会性にも良い影響を与えます。
自転車は子どもにとって、親から独立して自分で操作できる移動手段です。自転車に乗ることで周囲の環境を自らの意志で探索できるため、活動的になり自立心を育むことができます。
読者のみなさんも、子どもの頃に自転車で遊びや習い事に向かうことで、万能感や新たな世界の広がりを感じた経験があるのではないでしょうか。親から干渉されずに自ら考えた通りに広範囲を移動できる自転車は、子供にさらなる体験をもたらし社交性や自尊心を育むツールでもあるのです。
最近の研究では、サイクリングなどの能動的な移動が学業成績や認知能力とも正の相関があることが示されています。こうした理由からも、自転車に乗ることは子どもの人生における試金石といえるでしょう。

図1. 子どもが自転車に乗るメリット。筆者作成。
補助輪付き自転車 vs バランスバイク
皆さんが子どもの時、どのように自転車に乗る練習をしましたか?
子どもが自転車に乗る練習といえば、昔からおなじみなのが補助輪付き自転車です。これは、後輪の両側に小さなタイヤを取り付けることで子どもがバランスを取りやすくし、自転車の操作に慣れるというものです。
補助輪付き自転車のメリットは、ペダル操作に集中しながら移動できるためペダルを漕ぐ感覚を覚えるのが早い点です。しかし、補助輪付き自転車は実際の自転車とバランスの取り方が異なるため、いざ補助輪を外す段階でバランスの取り方を学び直さなければならないという課題があります。また、補助輪付き自転車はカーブを曲がる際の正しい傾き方を学びにくいため、補助輪を外した時に転倒のリスクが高くなることもあります。

一方、近年注目を集めているのが「バランスバイク」。これはペダルがなく、足で地面を蹴って進むタイプの自転車です。バランスバイクはペダルがないため足で地面を蹴って進む必要がありますが、この動作の中で自然にバランス感覚を養える点が特徴です。また、実際の自転車と乗車時のバランスも似ていることから、バランスバイクから自転車へスムーズに移行できるというメリットがあります。
それでは、子どもの自転車練習にはどちらが適しているのでしょうか?
バランスバイクのほうが修得期間が短い
結果は、バランスバイクに軍配があがります。
2019年にポルトガルで実施された大規模な調査によると、バランスバイクを使用した子どもたちは、補助輪付き自転車を使用した子どもたちよりも早く自転車に乗れるようになると示されました。具体的には、バランスバイクを使用した場合の自転車技術を習得する年齢は平均4.16歳で、補助輪付き自転車(平均5.97歳)や従来の自転車のみで練習した場合(平均7.27歳)よりも早いという結果が得られました。

また、ファーストバイクとしてバランスバイクを使用した子どもは、使用しなかった子どもよりも学習期間が短いことも明らかになっています。この結果から、バランス感覚を先に養うアプローチが自転車習得に効果的であるといえます。
何歳から始めるべき?
この研究結果では、2歳半頃にはすでに子どもたちはバランスバイクを始める準備ができているとされています。バランスバイクから練習を始め、本人が2輪走行への恐怖心がなくなり安定性が向上した段階でペダル付き自転車へと移行することで、無理なくスムーズに自転車に乗れるようになります。
一方、ペダル操作の練習を重視する場合や、すでにある程度のバランスが取れる年齢(5歳以上)であれば補助輪付き自転車も選択肢として考えられます。
いずれの方法でも、重要なのは親の関わり方です。子どもにとって最初の自転車は恐怖心がつきものです。まずは安全な場所で親がそばについてサポートし、自転車を楽しむことから始めましょう。練習を進めながら親が自転車は楽しいとお手本を示すことで、子どもは積極的に練習に取り組むようになると研究で示されています。自転車は親子で楽しみましょう。
公道を走る際の注意

自転車に乗れるようになることと、安全に走れるようになることは全く別問題です。内閣府が発表した日本における小学生の交通事故に関するデータによると、平成27年から令和元年までの間に発生した小学生の死者・重傷者数のうち、自転車乗用中が32.5%を占めています。
特に、学年が上がるほど自転車での事故が増えてくるという特徴があります。 自転車は子どもにとって自由をもたらすと同時に、事故の危険をもたらす諸刃の剣なのです。
自転車の乗り方をマスターしたとしても、公道を走るのは交通ルールを厳守できるようになる年齢まで待つほうが賢明でしょう。また公道ではなく公園やサイクリングロードで練習するときも、必ずヘルメットを着用しましょう。ヘルメットは公道の事故だけでなく、バランスを崩して転倒した際にも子どもたちを頭部外傷から守ってくれます。

子供たちのお手本になろう
以下が総括です。
・ファーストバイクは習得の早いバランスバイクがよい
・2歳半以降から開始
・習得した直後よりも高学年になるほど事故が増える
ロードバイクは自転車においてもっとも目を惹く華型です。そんなロードバイクに乗る我々サイクリストが、公道でのマナーを示すことで次世代の子供達にも安全なライドを教えることになります。結果として、子供達の自転車事故率を減らすことに貢献します。
また、まわりに2~3歳になるお子さんがいらっしゃるのであれば、サイクリストとしてバランスバイクやヘルメットをプレゼントするのはいかがでしょうか。皆さんのお子さんにとって、自転車ライフの駆け出しがスムーズに進むことを願っています。
参考文献
Davison KK, Werder JL, Lawson CT. Children’s active commuting to school: current knowledge and future directions. Prev Chronic Dis. 2008 Jul;5(3):A100. Epub 2008 Jun 15. PMID: 18558018; PMCID: PMC2483568.
Mercê C, Branco M, Catela D, Lopes F, Cordovil R. Learning to Cycle: From Training Wheels to Balance Bike. Int J Environ Res Public Health. 2022 Feb 5;19(3):1814. doi: 10.3390/ijerph19031814. PMID: 35162834; PMCID: PMC8834827.
Blommenstein B, van der Kamp J. Mastering balance: The use of balance bicycles promotes the development of independent cycling. Br J Dev Psychol. 2022 Jun;40(2):242-253. doi: 10.1111/bjdp.12409. Epub 2022 Mar 9. PMID: 35262200; PMCID: PMC9310799.
Chow GCC, Ha SCW. Positive skill transfer in balance and speed control from balance bike to pedal bike in adults: A multiphase intervention study. PLoS One. 2024 Feb 29;19(2):e0298142. doi: 10.1371/journal.pone.0298142. PMID: 38422110; PMCID: PMC10903920.
内閣府特集 「未就学児等及び高齢運転者の交通安全緊急対策について」
著者プロフィール

ラン先生らんせんせい
医師兼研究者。工学系大学院で再生医学を研究する傍ら、”できるだけ短時間で強くなる”を目標に自転車トレーニングに関する論文を日々読み漁っている。休日はGPSで日本地図を描く”伊能忠敬プロジェクト”を個人的に進行中。個人ブログでも自転車に関連する論文紹介をしている。 https://charidoc.bike/