2020年02月05日
【第17回Mt.富士ヒルクライムに向けて】第16回選抜クラス女子優勝 榎本美帆さんインタビュー(前編)
Mt富士ヒルクライム 2019年女子総合優勝を飾った榎本美帆選手にお話しを伺いました。競合クラブチームに所属、メキメキと実力を上げて、第15回大会では2位入賞を果たし、そして昨年16回大会は自己ベストタイムでトップに輝きました。
ーーーまずは自転車を始めたきっかけについてお聞かせください
2015年9月。30歳になる直前に初めての自転車(ロードバイク)を購入しました。
ありきたりなんですけど……弱虫ペダルがきっかけだったんです。
弱ペ世代ですね。
最初は自転車って、乗ったら日焼けもするし、髪も傷むし、脚に変な筋肉がついて太くなるんじゃないかっていう心配もしていて、自分が自転車に乗るとは思っていませんでした。
漫画を読んでるだけで十分楽しんでました。でも、劇中に出てくるキャラクターたちが乗っている自転車ってどんなものだろう、って興味だけで自転車屋さんに見に行くようなことはしていたんですね。
そんな中、たまたまお店に行ったら白いロードバイクがあり、私が好きだった主人公の「小野田坂道くん」の乗っているBMCだったんです。
セールになっていて、サイズも私にぴったりで。もう運命的な出会いのように感じてしまい、買わなきゃ!と。
買ったはいいものの、最初は乗れなかったロードバイク
実はそれまで、一度も乗ったことがなかったんですね。なので、乗り方がわからなくって。
乗ったはいいけど、今度は降りかたがわかんない! と新宿の自転車屋さんで自転車を受け取って、家まで帰る15kmくらいの間に3回転んだんです。初日はそんな風で、本当に怖くて怖くて…。
でも、心折れずに翌日から乗り始めたんですよ。
当時住んでいた場所から荒川サイクリングロードが近く、走りやすい場所があったので、そこをひたすらひとりで20~30km走っていました。
そこから休みの日には必ず自転車に乗り、日によっては仕事が終わってからもサドルにまたがる時間をとったという。ただ、この頃はエクササイズとして乗っていた感じだったそう。
ーーー競技に気持ちが向いたきっかけはどんなものでしたか?
自転車を始めてからずっと荒サイで平地しか走ったことがなかったんですけれど、なぜか自分で「わたし、ヒルクライム速いんじゃないかな」って思っちゃったんですよ。これは漫画の影響かもしれないんですけど(笑)。
ほどなくして輪行をして山へ向かうようになったんです。まだそれほど距離を長く乗れず当時は100kmも走れないくらいなので、電車で出かけて山だけ上って、また電車で帰る、っていうのをしばらく続けていましたね。当時は埼玉方面のグリーンラインや、神奈川のヤビツ峠にも行きました。
ーーーそんな輪行での山通いは1年ほど続いたそうです。その後は。
2016年のハルヒル(榛名山ヒルクライム)の初心者コースに初めてレースに出たんですが、初心者コースとはいえ、結果が2位だったんですね。それがもう悔しくて!
いきなり2位、表彰台は素晴らしい結果だと思うのですが、もうあと一つだったのに悔しかった!という榎本さん。
その悔しさが闘志に火をつけ背中を押し、知人を通じて紹介された強豪ホビーレースチームのMIVROに加入することにしたそうです。
Photo:小野口健太
わたし、もっとできるはず!
調子に乗ってたのかもしれないんですけど(笑)、もっとやればできるはずだって、思っちゃったんですね。
チームに入ってからは、男性と一緒に走ることで強度もあがりましたし、1人ではできなかったスピードの上げ下げを繰り返すインターバル練習や、周りの仲間たちからトレーニングについてのアドバイスをもらったり、など、トレーニングを本格的にやっていくための基礎を学んだと思います。
この時期、最初は全然ついていけなかった練習にもついていけるようになったり、上りのタイムが徐々に縮んでいたり…と成長の手応えを感じていました。
最初のレースから1年後、再びハルヒルを走ったんですが、今度は初心者コースではなく榛名湖コースを走り、年代別ですがちゃんと1位になりました!
この結果によって、1年間取り組んできたトレーニングが間違いではなかったなと、確証をもてました。
また、その年の富士ヒルでは年代別2位だったのがやっぱり悔しくて、来年は勝ちたい! と。
2位は悔しいですね。私にとって準優勝はありえない。“優勝か敗者しかない”と思っているんです。
ーーー思考がすっかりレーサーですね。もともと負けず嫌いだったんですか?
そんなことないんです。誰かと競うっていうのも大変だなと思っていました。
自転車を始めてからですね。こんな風に思うようになったのは。
無駄なことをしないで、いかにトレーニングするかだけを考える毎日
ーーー生活と練習。時間配分など工夫されてることはありますか?
今は自転車以外の部分に時間を割かない、って決めてるんです。仕事と自転車“だけ”に絞って日々を過ごしています。
楽しいからっていうのが1番ですけれど“強くなりたい”っていう気持ちが強いんです。
自転車競技のために住まいを多摩地方に移し、職場も徒歩20分で行けるように転職したんです。日中は事務仕事で、座ってることが多いですから、練習の疲労は仕事中に回復しています。
平日は仕事が終わってからローラーを。週末は冬でも、雪さえ降らなければ意外と走れる日も多いので山へ向かいますね。
今は冬なので、朝練はしないんですが、シーズン中は朝練もします。
1日の中で仕事を除くと自転車のことしかやってないですね。
ーーーお気に入りの練習コースはありますか?
大垂水峠を越えて、雛鶴峠へ向かうのが定番の練習コースなんです。
雛鶴までのコースはトンネルとバス停しかない。一見してなんでもないようなところなのですが、信号がぜんぜんないのとアップダウンを繰り返すので、ものすごく良い練習になるんです。
ーーー食事で気を使っていることはありますか?
節制しているつもりはないんですが、あまり変なものは食べないようにしています。例えば、お菓子・お酒・油ものなどは次の日の練習に支障がでちゃうので、取らないようにしています。食事の基本は自炊ですね。
毎日の練習を良いコンディションで取り組めるようにしているだけなのですが、周囲の人からは“ちょっとおかしい” とか“ストイック”と言われます。ただ、私にとってはこれがあたりまえなんです。
仕事と自転車のため、という生活の榎本さん。いえいえ「仕事も」といってもいいはず。楽しく強くなる。その生活が富士ヒルでも成果として現れた。そして2020年は飛躍するためにある決心を。後編に続く。
第16回選抜クラス女子優勝 榎本美帆さんインタビュー(後編は…comingsoon)
関連URL:Mt.富士ヒルクライム https://www.fujihc.jp/
写真:小野口健太、武智佑真
取材協力:大磯クリテリウム実行委員会、株式会社ウォークライド
著者プロフィール
ちゅなどんちゅなどん
自転車好きが高じて一時期飽きるほど自転車に乗り、とうとう自転車に"乗る理由"がなくなってハンドメイドサイクルキャップを制作販売、自走納品する『自作自演型サイクリスト』 その傍ら、あるときはサイクリングイベント会社で、あるときは自ら企画するイベントでアテンドライドしています。持ち味はよく通る声と年の功からにじみ出る安定感。 ハマっ子歴19年。関西弁ネイティブ。