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2018年09月25日

瀬戸圭祐の 「快適自転車ライフ宣言」7-6)自分で自分の身を守る、危機管理が重要

瀬戸圭祐の 「快適自転車ライフ宣言」 第7章:目指せ!海外ツーリング

7-6)自分で自分の身を守る、危機管理が重要

 

海外は国や地域それぞれに、日本とは文化も習慣も法律も違う。日本は世界的に見て、最も治安の良い国のひとつである。この国で生まれ育つと「水と安全はタダ」という感覚が常識になってしまうが、世界的には極めて例外的である。歴史的にも他国や他民族から侵略され支配されたこともなく、民族的にも狩猟文化が多い外国に対し、和を重んじる農耕文化がベースとなっている日本人は、争いや攻撃を好まない平和な民族だ。従って人に対する危機管理の意識は低くなりやすい。そして世界的にも裕福な日本人は、泥棒にとって金品を巻き上げやすい格好のカモなのだ。海外ツーリングをより安全に楽しむための対策を考えてみる。

 

<危機管理の心構え>

日本国内で治安が悪いと言われる東京の歌舞伎町や大阪の釜ヶ崎(西成地区)などは、行くとついつい身構えてしまうかもしれないが、海外の治安の悪い場所のレベルは別次元である。場所によってはスリやひったくり、強盗だけでなく、傷害事件や命に係わるリスクがあることを認識しておく必要がある。街中の通りでも一本違うだけで、突然危険な通りに入り込んでしまう場所もある。もちろん全ての人や場所が危険なわけではなく、リスクの高い場所が日本に比べて多いということである。

海外に着いたそのときから、その国や地域の習慣、文化、風俗や宗教などを尊重し礼節を持って接することが必要になる。しかしそれらのことを事前に十分に理解することは困難である。どのような危険があるのかをきっちり予測することも容易ではない。何があるかわからないという認識を持ち、構えることが大切なのである。日本の常識や考え方を一旦忘れて、郷に入れば郷に従えの精神で行動したい。特に人と接する際には、日本人の価値観を押しつけるのは禁物である。

他人に迷惑をかけないよう、国際マナーを守り、節度ある行動を心がけることが危機管理の基本スタンスである。
その国や街の治安については事前に勉強しておくべきだが、そこに住んでいる人の生の声は新鮮である。宿泊するホテルや宿の人などに、行ってはいけない危険な場所、してはならない行動などを聞いておくのが良いだろう。危険と言われる国でも、隅から隅まで危険なわけではなく、行っても大丈夫な場所や地域などを教えてもらうと、低リスクで行動できる。

危なそうな道は通らない
通りが1本違うだけで、危険度が増すことも。怪しい場所には近づかないようにするのが鉄則だ(写真/本人)

 

<持ち物は常に注意する>

地元の人などに安全な場所を教えてもらっても、スリやひったくりのリスクは消えない。自分の持ち物は常に把握しておくのは海外ではあたりまえである。自転車から離れて食事をする際などは、お店の人に交渉してできるだけ中に入れさせてもらうか、目の届くところに駐輪させてもらう。駐輪の際は地球ロックが基本であり、ライトやボトルなど手で外せるものは必ず外して持ち歩く。

参照:4-8)確実に! 盗難対策と自転車保険

https://funride.jp/serialization/jitensyalife32/

バッグ類まで外して持ち歩くニーズは状況によるが、きちっとパッキングして閉まっていれば、それを外すのも面倒だし中身も高価なものは期待できないだろうから、泥棒に狙われる率は低くなるだろう。それ以前にツーリング中は長時間自転車を離れることは好ましくない。最近ではスマホ泥棒が各地で増えているという。もちろん自転車からは外して常に持ち歩くのがセオリーだ。ちょっとお店に入って水を買ったりトイレに行ったりする隙を、泥棒は狙っているので、少し離れるだけでも必ず持ち歩こう。電車や地下鉄などに乗っている時に車内でスマホを操作していると、ドアが閉まるギリギリでひったくられて下車して逃げられ、ドアが閉まってしまうといった手口の泥棒も増えているという。
また、写真を撮影する際に人にお願いをしてシャッターを押してもらうことがあるが、高価なカメラやスマホなどを見知らぬ人に渡して頼むと、そのまま逃げられることもある。自分たちと同じような旅行者にシャッターをお願いするほうが、リスクは小さい。

食事中は食べることに意識が集中して荷物の管理が疎かになりやすい。椅子の背にバッグを掛けておいたのが、気が付くとなくなっているというのもよく聞く話だ。そのバッグにパスポートや財布、スマホなども入っていて旅の全財産を盗まれてしまい、大変な思いをした人もいる。荷物はひざの上、または両足で挟むなど、荷物と身体がいつも接しているようにしておきたい。荷物から常に目を離さないのは、基本中の基本である。

 

<日本人も自転車も狙われやすい>

前述のとおり日本人は危機管理意識が低く、しかもお金を持っているとして、泥棒からは格好の標的となっている。現地在住の日本人は、危機管理意識を持って生活しているので、泥棒は日本人旅行者を狙ってくる。旅行者は危機管理意識が低いだけでなく、その後すぐに日本に帰ってしまうので、仮に警察が捜査するにしても、泥棒にとっては深追いされる可能性の少ない格好のカモなのである。

海外ツーリングをしている日本人の自転車は、高価なモデルである場合が多い。国によっては、スポーツ仕様や旅仕様の自転車の存在も珍しく、クルマに例えればフェラーリの高級車が走っているようなもので、とても目立ちやすいのである。そして泥棒はそんな自転車ツーリストは、現地人よりもずっと金持ちであることを知っている。自転車そのものも含め、標的になりやすいことを意識しておきたい。
また、観光地や都会の街中で、話しかけてくる現地の人には要注意である。親切そうに気さくに声をかけられ、話しているうちに泥棒仲間がこっそりとカメラやスマホなど金品を盗んでいるケースもある。特に平日の昼間に観光地でアプローチしてくる現地人はリスクが高い。その時間帯にまともな仕事がない人であり、泥棒業の方かもしれない。

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昼間の観光地にもスリがいる可能性はある。油断しないようにしよう(写真/本人)

 

<盗難への自己防衛策>

日本は世界でも最も治安の良い国のひとつだが、海外において日本にいる感覚で荷物管理をしていると、盗難にあうリスクが高まる。大切なのはお金や貴重品の保管場所だ。ひとつにまとめないで数ヶ所に分けることが基本である。クレジットカードや電子決済用のスマホなども一ヶ所で保管せずに分散させる。万が一、盗難にあった際にできるだけ被害を少なくする自己防衛策である。

財布やスマホはその一部が外に出るようなポケットに入れておくと、スリを誘発しているようなものである。ジャージの背中のポケットでも一部が出たままだと狙われやすい。できるだけ内ポケットや、きっちり閉じられるポケットなどに入れて、外部からはその存在をわかりにくくするのがポイントだ。
宿泊先の部屋でも、外出の際や同じところに複数泊する場合なども、荷物は出しっぱなしにせず、バッグなどにしまってきちっと閉めておく。貴重品は必ずセーフティボックスに入れておく。ちなみに筆者が海外のホテルで連泊した際、ベッドサイドに置いておいた飲みかけのボトルの水が、明らかに減っていることがあった。メイクアップの人も小さな盗みを働くことはあるので注意をしたい。

 

<有事を想定して準備しておく>

盗難に合う確率は日本にいる時よりも高くなりやすい。盗難被害を想定して、パスポートはコピーを何枚か持っておく。行く国にある日本大使館や領事館、加入した保険会社やクレジットカード会社の緊急連絡先などを控えておき、それらをコピーして持っておくと有事に素早い対応がとりやすい。ちなみに日本のフリーダイヤルの番号は海外からかけられないので、緊急連絡先は必ず市外局番から始まる番号を調べて控えておく。

海外ツーリングへ出発する前に、旅行日程や滞在先を家族や親しい友人などに知らせておくことも大切だ。同様にパスポートのコピーや保険会社やクレジットカード会社の緊急連絡先なども渡しておけば、有事の際に日本側でのサポートをしていただけるだろう。何よりも身近な人たちに、安心を与えることができるのがメリットである。また、SNSなどにツーリングレポートをアップしていくことも、自分の安全や状況を皆さんに知らせることとなる。非常時でもスマホがあれば、SNSにて異常事態を知らせることもできる。SNSも危機管理の一環になるのだ。

 

<命が一番大切>

海外で親しげに声をかけてきた人が、少しでも怪しいと感じたらきっぱり断る勇気が必要である。日本人にありがちな曖昧な態度だと、どんどんしつこくまとわり付かれてトラブルに巻き込まれる可能性が高まる。自分の意思をはっきり示し、毅然とした態度で断れば、たいがいは離れて行く。現地の言葉でNOくらいは覚えておき、きっぱり断ろう。それでも離れず危険を感じるようならば、日本語でもいいので怒鳴ればいい。言葉が通じなくても日本語で怒鳴るが一番通じるのだ。
それでもダメなら、相手は命を狙って犯罪を完遂する可能性もでてくる。また、はじめから命を脅した強盗に遭ってしまうこともあり得る。そんな場合はとにかく相手に金品を差し出すことである。分割して持っていれば全てを失うリスクは軽減される。但し犯罪者は分割して持っていることを前提に更に要求し脅してくることもある。そうなれば、言われるままに持っている金品は差し出すべきだ。下手に隠したり抵抗したりすると逆上され、命の危険が高まる。身ぐるみ全てはがされても、どんな事があっても、命が一番大事である。銃やナイフを持っていても、金品が目的の脅しであって、罪が重くなる殺人は目的ではない。「金を出せ!」と言われたら、金を出す。抵抗すれば、相手に凶器を行使させることになる。お金と命、どちらが大切かを考え、金品に未練を持たず、命を守ることを最優先しよう。

筆者の親友で、自転車で世界一周を含め海外ツーリングを三十数回経験している大ベテランがいる。そんな人でも先日、東欧マケドニアの田舎道で強盗に合い、3人がかりで棒で殴られ、金品を奪われた。パスポートもカード類も全て強奪され、何ヶ所もの骨折や内臓へのダメージを被ってしまわれた。一命は取り留めたものの1カ月以上の入院を余儀なくされた。本人はちょっとした気の緩みがあったと反省されている。命を守ることが最優先なのである。

 

<自転車を盗まれないために>

自転車を盗まれたり壊されたりしたら、海外ツーリングは続けられない。サイクリストにとって自転車は最も大切な持ち物だ。海外では日本人の乗るスポーツバイクはとても高価であり、盗みの対象になりやすい。自転車泥棒は日本よりもずっと多いと考えておきたい。

街中で自転車がどのような形で鍵をかけて盗難対策をしているのかを観察すれば、必要な対策は見えてくる。前輪を外してフレームと一緒に動かせない固定物にくくりつける地球ロックが基本である。プロは日本のチェーン錠など容易く壊して盗んでいくので、Dロックなど金属の断ち切りにくいロックで2箇所以上を固定しておく。外せるパーツは持ち歩くのは当然だが、デュアルコントロールレバーなど高価なパーツを盗られることもある。基本はできるだけ目を離さないことであり、どうしても離れる場合には、泥棒が仕事しにくい人目の多い目立つ場所に駐輪し、できるだけ早く戻るようにしたい。
鍵は日本から持っていけば良いが、不十分と感じたら現地で現地の盗難事情に合わせた鍵を購入することをお勧めする。宿泊の際に、自転車をそのまま部屋に入れられず、安全な駐輪場所が確保できない場合は、輪行袋に入れてでも部屋に持ち込むようにしたい。

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自転車を駐輪する場合は地球ロックが基本だ(写真/小林成基)

 

<盗難された時の対処>

不幸にも自転車が盗難されたらどうするか。仕事の休日や年休を利用して行く短期間の海外ツーリングの場合は、残念ながら帰国までに発見されて戻ってくる可能性は小さい。時間に縛りのない長期間のツーリングなら、まずは警察に届けて、自らもサイクリングショップや宿泊先などつながりのある人や組織全てに情報提供の依頼をしたり、地元のメディアなどに呼びかけたりしたい。オークションやフリマなども頻繁にチェックし、SNSなどにて自転車捜索中であることを訴え、情報拡散のお願いを繰り返し行うなど、粘り強く探し続けてみよう。自転車に限らず、盗難に遭った場合には、まずは最寄りの警察署に行き、盗難/紛失を届け出て、それを立証する書類を発行してもらう。

パスポートの盗難または紛失の場合は、日本大使館または総領事館にて次の書類を提出し再発行してもらう。

・ 紛失一般旅券等届出書 (警察署に届ける際に入手)

・ 戸籍謄本もしくは抄本

・ 写真(縦45mm×横35mm)

・ 日程が確認できる書類

また、クレジットカードの盗難または紛失の場合は次の通り。

・クレジットカード会社に連絡し、カードの無効手続きをする

・警察署に盗難/紛失を届け出て、それを立証する書類を入手(帰国後保険の申請に必要)

そして帰国後に再発行の手続きをすることとなる。事前の準備と、有事の際の的確で素早い対応が被害を最小限に留めるので、どうすべきかをしっかり頭に入れておきたい。

 

<公的機関を利用する>

盗難で身包み剥がれたり、強盗で深刻なダメージを受けたりして帰国できないような事態に陥ることもあり得る。そこまで酷くなくとも病気や事故、犯罪、逮捕・拘禁事件などのトラブルに遭ったときには、その国の日本大使館や総領事館などの在外公館に助けを求めよう。在外公館には、海外において日本人の生命・財産を保護するという、重要な任務があるのだ。

医療機関、弁護士や通訳などの紹介、家族との連絡サポート、現地で治療が不可能な場合、緊急移送に関する助言・支援、などなどトラブルの解決に向けて支援を行ってくれる。但し、犯罪捜査や犯人の逮捕、取り締まりなどは現地警察の仕事だ。現地警察への被害届の方法の案内はしてくれるので、有事の際は在外公館に連絡しよう。
また、出発前に目的地の安全に関する最新の情報を入手しておくことも大切だ。外務省の海外安全ホームページで、訪問予定国の治安情勢をチェックしておこう。治安情勢は突然変化することもあるので、定期的に確認することをお勧めする。

https://www.anzen.mofa.go.jp/c_info/safety_guidance.html

https://www.anzen.mofa.go.jp/trip/

強盗に襲われ入院モンテネグロMomentalno kaj prijatelite na poseta
病気や事故に遭ってしまうことを想定して、日本大使館や総領事館などの在外公館の場所や連絡先を把握しておこう(写真/木下 滋雄)

 

<海外旅行保険は必ず加入しておく>

海外ツーリングではどんなトラブルが発生するかは分からない。盗難や強盗の他にも怪我や病気、交通事故や他人に被害を与えてしまうこともあり得る。自分の責任で様々な補償が必要になることもあるだろう。そのような事態に遭遇した場合、予想外に大きな出費が発生するリスクがある。万が一を想定して、海外旅行保険には必ず加入しておきたい。海外旅行保険に加入せず、何事もなく無事に帰国できる人もたくさんいる。一方、保険に加入していなかったために、多額の損害を被った人もたくさんいるのである。

筆者の友人が中央アジアのウズベキスタンをツーリング中に、その仲間が脳梗塞で倒れて、医療用のジェット機をチャーターしたことがある。しかしその費用1300万円を振り込むまでチャーター機は飛ばず、ゴールドカードの付帯保険ではカバーできないことが判明。人命よりも金の支払いが優先なのである。日本にいる奥さんに1300万円を振り込んでもらい、間一髪で一命を取り留めたが、ちゃんとした海外旅行保険に加入していれば、そんな危機的状況に陥ることはなかったはずだ。海外旅行保険は、旅先での自転車乗車中の事故を含め、何をカバーしているかを良く確認し、しっかり吟味して加入したい。

 

海外ツーリングでは「自分の身は自分で守る」という意識をしっかり持つことが大切である。「自分は大丈夫」との過信は、その自信の大きさと比例して、トラブルのリスクが大きくなる。しかし、怯むことも萎縮する必要もない。より安全に海外ツーリングを最大限楽しむためにきちっと準備し、危機管理意識をしっかり持てば良いのだ。そして人生のレガシーとなるように、海外ツーリングを思いっきり満喫しよう。

 

 

(瀬戸圭祐さんの「快適自転車ライフ宣言」は隔週火曜日掲載です。次回は10月9日(火)に公開予定です。お楽しみに!)

(トップ写真/木下 滋雄


第7章:目指せ!海外ツーリング

1)海外ツーリングは、お気軽な時代

2)情報収集が成功の秘訣

3)プランニングの基本と目的地別計画の立て方

4)移動はどうするか?飛行機輪行対策

5)宿泊は、食事は、水は、スマホはどうする

6)自分で自分の身を守る、危機管理が重要

7)ツーリング先進国、欧州を楽しむ

8)快適な自転車ライフを謳歌しよう

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