2018年07月12日
【菊地武洋のバイク コネクティングを考える】イノベーションは辺境からはじまる GARMIN 前編
ロードバイクを加速させるIoTの中心地
未来の自転車はどんな機能で高性能化するか……。最新のクルマや家電と同じような道を辿るなら、IoTが進化をもたらしてくれるはずだ。シェアバイクやママチャリのような実用品と、趣味や競技用のロードバイクはカテゴリーが違うし、クルマや家電をなぞるような進化にはならないだろう。ただ、その道中でサイクルコンピュータが大切な役割を担うことに疑う余地はない。ギヤの多段化や空気抵抗の軽減といった進化も必要だが、それだけでは想定内だ。先週行なわれた世界最大の自転車ショー“ユーロバイクショー”で12スピードを超える多段ギヤが発表されたものの、かつてのようなインパクトはなくなっている。『イノベーションは辺境・素人から生まれる』と言われるように、この先の大きな進化は、これまで自転車業界を牽引してきた大手老舗メーカーではなく、もっと小さな規模の会社によってもたらされるだろう。
その革新の中心でイニシアチブを手にしつつあるのがガーミンだ。知っての通り、サイクルコンピュータがなくても自転車は走る。それ故、現在もサイクルコンピュータはアクセサリーという扱いである。しかし、それを言ったらスマホも一緒である。ヤフーやグーグルがなくても問題はないけど、あった方が圧倒的に便利で、想像以上に新しい世界が拡がる。とはいえ、実は久しくサイクルコンピュータから離れていた時期がある。「自転車に乗るときは静かなほうがいいし、液晶よりも景色をみるべき」と避けて通っていたのだ。しかし、今は手放せないアイテムの1つだ。なので、「かつては使っていたけれど……」という人にも、是非とも体験してほしい。
群雄割拠するサイクルコンピュータ界にあって、ガーミンの“Edge”シリーズは圧倒的な実績と人気を誇る定番品だ。シリーズは入門用の“Egde25J”から始まって、トップモデルの“Egde1030”まで5種類。さらに、オリジナルのパワーメーターの“ヴェクター3”をはじめとする機能拡張が可能で、ライバルと一線を画している。今回は母艦となるEgde1030を紹介し、次回以降でオプションパーツについてもレポートしよう。
画面が広くなると同時に、視認性、タッチパネルの感度も向上したEdge1030。
サイクルコンピュータは情報を可視化するツールだ。素材がチタンやカーボンであることよりも、どんなコンテンツを提供してくれるか、また信頼性が重要となる。サイクルコンピュータが姿を現わしたのは1970年代。スピードメーターに毛が生えた程度のモノであり、80年代にプロ選手がレースで使うようになっても、コンピュータを名乗るほどの機能もなければ、性能でもなかった。90年代になると心拍計にサイクルコンピュータの機能が追加されたり、ガーミンによってナビ機能がつくと、高価ではあるが魅力があると、コアなサイクリストたちから一気に拡がっていった。
ガーミンのラインナップは価格と機能に応じて構成されているが、最適な製品がどれかは、なにを重要とするかによって異なる。ナビ機能が不要な人なら安価なモデルでも十分だし、初心者やツーリングやブルベなど知らない場所を走ることが多いならば、ライダーのレベルを問わず上級モデルが欲しくなるはずだ。私がガーミンを使い始めたのはナビ機能に惹かれたから。気の赴くままに走っても、道さえわかれば怖くないし、フィールドが拡がると思ったからだ。そして、地元にもこんなに知らない道があったのかと驚いたし、海外のライドでも重宝した。ただ、ここまでなら高性能化したスマホなら、なんなく同じようなことをやってのけるので、それ以上の魅力がなくては話にならない。結論を言えば、その魅力は十分にあるし、スマホの進化が原動力の1つになり、専用機の優位性を作り出している。
さて、簡単に説明しよう。
Egde1030は3年振りに登場した新作で、すべてを紹介していると膨大になってしまうので、重要なところをかいつまんで紹介すると……見た目で大きく変わったのは、操作ボタンの位置。旧型となるEgde1000jでは画面と同じ上面にあったが、新型は誤操作をしにくい本体の手前側に移設。また、画面は3.0インチから3.5インチに拡大した。0.5インチというと大差ないように思うかもしれないが、比率でいうと実に36%も広くなった。そして、稼動時間が15時間から20時間へと伸び、さらにオプションで拡張バッテリーと接続すれば連続で40時間も使える。Egde1000jの15時間でも十分に思えるが、ある程度の節電設定が前提の話。バックライトを常時ONにするといった設定だと、稼動時間は短くなる。また、冬の寒い時期や、バッテリーの経年劣化を考えると稼動時間は長いに越したことはない。ほかにも最新モデル同士でメッセージを送り合えたり、タッチパネルの高性能化など、進化を体感すれば価格設定にも納得のでき映えになっている。
Edge1030 セット
- Edge1030 本体
- アウトフロントマウント(拡張バッテリー対応)
- ハンドルステムマウント
- USBケーブル
- ストラップ
- プレミアムハートレートセンサー
- ケイデンスセンサー
- スピードセンサー
- クイックスタートマニュアル
価格:8万6,000円(税別)
問:ガーミンジャパン
Egde1000jから買い換えるべきか?
正直に言えば……“魅力的ではあるが、Egde1000jから買い替えるほどでもない。Egde1030はパスして、次のモデルを買おう”と思っていた。だが、1ヵ月ほど使ってみた今、買わない理由を探せねばならないほどEgde1030が欲しくなってしまった。液晶の高性能化はカタログでは、その魅力が伝えきれていない。地図にあるアイコンの見やすさはEgde1000jと同じ地図と思えない。レスポンスの速さも、一度経験してしまうとEgde1000jに戻るのが憂鬱だ。
詳しい話は次回にするが、オプションパーツと組み合わせるとガーミンの魅力は一気に上がる。ここまでの話でEgde1030の魅力が伝えきれていないとは思うが、数ヶ月前の自分と同じ疑いを持っている人に言いたい。「中途半端なアップデートだから、Egde1100ではなくEgde1030なのだろう」は、大間違い。もし、そんな中途半端な製品を出したら顧客から愛想を尽かされるし、わざわざ新製品などリリースはしないよ、と。Egde1000jを土台にして新型を開発してきたわけで、ルートを探し出すレスポンスや、地図上の視認性をはじめ不具合だと思っていなかった部分にもEgde1030は改良が施されている。
Egde1000jから買い換えるか、オプションのヴェクターやヴァリアシリーズを導入するか迷っている人なら、次回のレポートを読んでから考えてみてほしい。では、次回。
著者プロフィール
菊地 武洋きくち たけひろ
自転車ジャーナリスト。80年代から国内外のレースやサイクルショーを取材し、分かりやすいハードウエアの評論は定評が高い。近年はロードバイクのみならず、クロスバイクのインプレッションも数多く手掛けている。レース指向ではないが、グランフォンドやセンチュリーライドなど海外ライドイベントにも数多く出場している。