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2019年10月22日

【武井きょうすけさんインタビュー】フィロソフィー、そしてコーチの使命とは

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選手の育成、つまりはコーチングとは、その後の選手生命や人生を大きく左右する非常に重要な仕事だろう。
一人の女子自転車選手、與那嶺恵理さん。スポーツは幼少からテニスに打ち込んでいたが、自転車競技に転向を決意。そして現コーチの武井きょうすけさんと出会う。偶然なのか必然なのか、その出会いから、プロセスを経てワールドツアーまで到達し、さらに目指す場所は高い。選手の能力あってこそだが、コーチの導く力も重要だろう。そこでいったいどのようなプロセスがきっかけだったのか、コーチとしての哲学、これからについて訊いてみた。

與那嶺恵理選手の適性。見極めたポイントとは。

もともとは、フィジカルに関しては、現在よりも体重は10kg以上重かった。そして特別なにかということではなかったんだけど、真面目で芯が通っているという感じは受けました。
当時私は、マウンテンバイクのワールドカップに出場していた時期でしたので、私が経営していた“サイクルショップ フォルツァ”のスタッフがライドに連れて行ったりしていましたね。そんな折に、「一生懸命やりたいと言っている子がいます」と紹介をしてもらいました。

“特別秀でているというところ”はない……ですが、再現性は高いと思っています。
つまりワールドツアーで完走できるようなパフォーマンスの女子選手を作るのは、難しいことではありません。適切なステップ・バイ・ステップ、プロセス、そして努力が蓄積できれば難しいことではないと思っています。

選手からコーチへ移行した決定的な出来事がありましたか?

彼女はマウンテンバイクの世界選手権でも完走をしています。
そのときに私自身はリオと東京オリンピックに出場するのが目標でしたがその可能性と、彼女の目標である世界選手権での入賞やワールドツアーでポイントを取るという、それぞれの目標においてどちらのほうが実現性が高いと考えた時、彼女の可能性を開花させる方がはるかに有益なことだと思ったからです。
彼女は抜群に頭がいい。真面目な取り組みができます。

頭がいいということは?

絶対にやること。これをやりましょうと本人と合意が取れたことは必ずやる。学んだり、何かを注意深く観察することや意思の強さは独特のものがある。強さの秘訣のひとつだと思います。
私が情報を集約して彼女に適したモノを提案します。
彼女はやる側で、ワールドツアーのレースを走ったフィードバックから、僕の方もブラッシュアップを図る。その関係は対等です。

レースで得たフィードバックをトレーニングメニューに反映をしているということですが、
情報を咀嚼するための、知見はどこから得ているのでしょうか。

海外の論文をよく読みます。それ以外に主要な情報はネットワークを介して英語やドイツ語で拾うことができますので、だいたいこんな感じかな、というものはわかりますよね。ヨーロッパのコーチコミュニティでは、お互いの信頼関係を基に情報交換を行います。
一番情報をいただくのは、オランダかな。特にオランダのトップチームのスポーツディレクターです。2年前の與那嶺選手のチームスタッフでしたから。そうしたトップレベルのモノを持っている人は情報を出せば、引き出してくれるしお互いにメリットがある話はしますね。

日本からヨーロッパへ有益な情報というのは?

あまりない、というのが現状ですね。

現場を走っているアジアのチームが、ヨーロッパのレースを走るためにはナショナルチームを編成する必要がある。タイや韓国なども例外ではありませんが、EU諸外国の有能な監督を雇用していれば、その情報をフェデレーションに落とせますよね。監督も選手もドメスティックでやっていると、私や與那嶺が必要としている情報だったり、今何を求めているか、というところにたどり着けないのです。

原動力はどこからうまれてくるのですか。

趣味。コーチングも含めて。

私たちの世代が優れていたわけではなく、今の世代でも、ものすごく努力している選手は多いです。
ちょっと何かを変えてあげたり、選択肢を与えてあげると才能を開花させることができる選手が多いです。その子たちの自己実現を手伝うことは、すごくやりがいはあります。
與那嶺選手にいつも言っていることは「いつでもコーチを変えなさい」と。はい。
優れた手法と、能力を持っていて、うまく自分の目標に導ける人がいれば、遠慮なく乗り換えるべき。私も同じ時間と投資を行う中で、もっといい素材があれば、変えるべきですよね。お互いにプロですからダラダラとやるべきことではないのです。
よって、そうならないためにも“お互いがお互いを磨く”というのは大事なことだと思っています。

ロードレースは好き。なにひとつ上手くいかない。レースに影響する変数による不確定要素が多すぎます。レースに出るごとに学ぶことは多くて、でもそれは楽しいことだと思うんです。
変えられることと変えられないことがあって、相手を変えることはできない。レースの一瞬一瞬に合わせて自分たちが変わりつづけないといけない。当初決めた作戦・展開があったとして、それにずっと従っていくのか、それともその時その時のベストの判断をシミュレートするのはこちら(コーチ)の判断だけど最後は現場(選手)が、隠れればいいのか、出て行けばいいのか判断しないといけません。

「例えばマリノ(小林海選手)は今年の全日本選手権ロードレースで失敗をしました。勝てる可能性が回ってきた瞬間があった。
レースは残り2周です。
新城幸也選手が仕掛けて。マリノと小石選手が抜け出した瞬間があった。2〜30秒集団から先行できた。
そこでマリノが一番元気よく上れていたから新城選手が嫌がって一番最初にローテーションをやめて集団に戻ってしまった。マリノが抜け出すことは、私たちが話していた展開よりも1周早い動きでした。ラスト1周、ほんとの最後まで我慢してくれと、勝負するのは上ったところでいいから、とにかく自分の力を隠してください、と。勝ちたいし、目立ちたいし、若いのでいろいろな欲求があります。選手は後半に向けて調子がいいと脚を見せたくなる。ロードレースは頭脳ゲーム。脚を見せるのはラストの10mだけでいいだけなんです。はっきり言えば。
そういった点では入部選手の方がクレバーだったし、勝たなければいけないという背負っているものを含めて、彼の方が上でした。そこはマリノに対してはコミュニケーション不足でした。もっと徹底して話べきだったし、なぜ我慢しなければいけないということを、もっと伝えなければいけなかった。レース後は本当に後悔しました。全日本ロードで勝てるロールはほとんど回ってこない。現役の中でもあのレベルでも1回か2回くらいじゃないでしょうか。日本のレースはセレクションがかかりにくいコース設定ということもありますから。今年もっとも悔いの残るレースの2つのうちの1つですね」

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PHOTO:小野口健太

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