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2016年07月13日

~TOJから全日本へ~ 若きシマノレーシングのネバーギブアップ【前編】

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40年以上の歴史を誇り、数々の名選手を輩出してきた国内の名門ロードレースチーム、シマノレーシング。しかし、ここ数年は2020年東京五輪を視野に世界で戦える選手育成に力を入れており、チームはまだ実績の少ない若手中心で編成されている。強力なライバル相手に苦戦を強いられることも多いが、その中で必死にもがき、着実な成長を見せつつある。国内最大のステージレース「ツアー・オブ・ジャパン」から、日本一決定戦の「全日本選手権ロード・レース」にいたるまで、約1カ月にわたる若武者たちの戦いを追った。


ターゲットは「総合25位」

今年のツアー・オブ・ジャパン(TOJ、5月29日~6月5日開催)で、ひとつのターゲットになったのが総合25位という順位だ。

TOJはUCI(国際自転車競技連合)アジアツアーの中で1クラス(HC=超級、1クラス、2クラスの3つの中で2番目)のステージレースにカテゴライズされる(UCI2.1と表記。2はステージレース、1はクラスを表す)。

昨年まで、このカテゴリーのレースに与えられていたUCIポイントは、各ステージの上位6人(1位16pt、2位11pt…6位2pt)、そして総合成績の上位12人(1位80pt、2位56pt…、12位3pt)までだった。しかし、今年からはポイント配分が各ステージ上位3人(1位14pt、2位5pt、3位3pt)となった代わりに、総合は25位(1位125pt、2位85pt…16~25位3pt)まで獲得できるようになった。

UCIポイントの詳細な仕組みはやや複雑だが、簡単に説明すると次のようなメリットがある。選手にとってポイントは、その選手の価値となる。五輪や世界選手権、アジア選手権などの国際大会の出場権を得るための審査基準のひとつとなり、他チームへ移籍するときにも有利に働く。

チームにとっては、所属選手の合計ポイントが多いほど大きなレースに招待されやすくなる(実際、昨年のシマノレーシングはわずか1ポイント差でジャパンカップ出場を逃している)。

また国別では、その国の上位8選手の合計ポイントによるランキングが高いほど五輪、世界選手権などの出場枠が増えるのだ。

さらに補足だが、昨年までツール・ド・フランスなどを含む最高峰のUCIワールドツアーと各大陸(アフリカ、アメリカ、アジア、ヨーロッパ、オセアニア)ツアーは別々のランキングだった。しかし、今年からそれらを統一したUCIワールドワンキングが新たに設立された。つまり、アジアツアーのTOJでポイントを獲得すれば、クリス・フルームやペーター・サガンといった世界のトップ選手と同じランキングに名前が載ることにもなるのだ。

昨年までTOJで総合12位のポイント圏内に入るには、終盤の富士山ステージなど難コースで上位に食い込む必要があった。しかし、総合25位以内であれば日々のタイム差を最小限に抑えれば、不可能な順位ではない。より多くの選手にチャンスが生まれたともいえる。

実際、TOJに出場するような選手たちでも1ポイントも獲得できないままシーズンを終えることも多く、わずか1ポイントでも獲得することは大きな意味を持つ。

レース前の合宿では重要ステージの試走を行い、準備を整えてきたシマノレーシング。若手をたばねる野寺秀徳監督も「ステージ優勝とともに、総合25位以内に複数の選手を送り込む」と意気込んで、TOJが幕が開けた。

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シマノレーシングのTOJ出場メンバー。左から小橋勇利(21)、横山航太(20)、入部正太朗(26)、湊諒(24)、木村圭佑(24)、秋丸湧哉(24)。平均23.2歳の若い布陣で臨んだ。今年のシマノレーシングのジャージはブラックがベース ※カッコ内はTOJ開幕時の年齢
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シマノレーシングを率いる野寺秀徳監督。現役時代は全日本ロード王者に2度輝き、ジロ・デ・イタリアにも2度出場した名選手。監督として采配を振るうとともに、選手たちがレースに集中できる環境づくりにも奔走する
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2013年に2クラスから1クラスに昇格し、レースのレベルが上がったTOJ。ランプレ・メリダなど世界の強豪チームも参戦するようになり、さらに山岳コースも多いことからアジア屈指の厳しいレースに。そのぶん、日本勢が好成績を残すことも難しくなっている
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応援の子どもたちにボトルを投げてプレゼントするNIPPOヴィーニファンティーニの選手。日本各地を回るTOJは、地元との交流も魅力のひとつ

 

予期せぬ主役交代劇

しかし、シマノレーシングの目論見は、早くも第2ステージ京都でわずかに狂いを見せる。

今年から新設された京都のコースは、ゴール前こそ広いストレートだが、細く曲がりくねったアップダウンの区間も多く、路面が荒れているところも。この上り区間でキャプテンであり成績を狙うエースでもある入部正太郎が原因不明の不調で集団から遅れ、このステージだけで25分以上もの遅れをとる。

また上りを得意とし、総合25位以内を狙っていた秋丸湧哉は段差に車輪を落としてしまい、両輪ともパンク。こちらも15分以上のタイムロスを喫し、チーム期待の2人が早くも総合争いから脱落した。

しかし、野寺監督すらも予想しなかった展開で、今回のチームメンバー最年少20歳の横山航太が輝きを見せた。

初日の第1ステージ堺(個人TT)で14位とチームトップのタイムを残した横山は、京都ステージと美濃ステージはいずれもゴールスプリントにからみ、それぞれ13位と15位。3日連続で15位以内でフィニッシュし、総合でも11位に浮上。新人賞のホワイトジャージ争いでも僅差の3位につけ、日本人選手でもっともジャージに近い存在としてメディアからの注目度も上がった。

昨年まではアシストとして走る機会が多かった横山だが、総合上位で走る経験は彼にとっても貴重だったようだ。

「去年までは集団から遅れたら、明日頑張ろうと切り替えていたが、今年は遅れても遅れを最小限にしないといけない。プレッシャーはありますね」

残念ながら第4ステージいなべでタイムを失い、総合争いからは脱落した横山だったが、地元長野県の第5ステージ飯田では終盤に集団から飛び出すアタックを見せ、レースを沸かせた。TOJ全体を見ても、前半戦を盛り上げた若手のひとりだった。

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TOJメンバー最年少の横山航太。シクロクロスでU23全日本王者になったこともある期待の若手だ
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第3ステージ美濃、秋丸に守られ集団内を走る横山(中央)。このステージでも15位に入る健闘を見せた

横山に代わって、中盤からはチームの中で木村圭佑、湊諒の2人がUCIポイント圏内を目指す立場となった。2人は第4ステージいなべが終わった段階で総合首位からタイム差2分強の40位前後と、まだまだ25位以内を狙える位置につけていた

プロ3年目24歳の木村は「自分に向いている」という第5ステージ南信州で、序盤に2度に渡ってアタック。その後、メイン集団に吸収されてからも遅れることなく、最後はゴールスプリントで10位に飛び込んだ。

横山同様、去年まではアシストを務めていた木村は「去年まではいつも最後の方を走っていた」というように、自らの成長に手ごたえを感じていたようだ。

 

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昨年は鈴鹿国際ロード、JPTおおいたサイクルロードで表彰台に上がるなど、着実な成長を見せるプロ3年目の木村圭佑。TOJ期間中も好調をキープしていた
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第5ステージ南信州のゴールスプリント。優勝したダニエルアレクサンデル・ハラミリョ(ユナイテッドヘルスケア)の左後方に10位でゴールした木村

続く第6ステージ富士山で奮闘したのは、チーム右京から移籍してきたプロ2年目の湊諒。TOJ初出場の湊だが、ふじあざみラインの激坂でチームトップの45分22秒でフィニッシュする。

この時点で湊は総合36位、目標の総合25位とは約2分半差だ。「ステージレースで自分の総合を意識して走るのは初めてだけど、最後までチャレンジする」とジャンプアップを目指して、続く第7ステージ伊豆に挑んだ。

その伊豆では、1周目終盤のペースアップで早くも集団が2つに分かれる。湊はチームでただひとり20数名のメイン集団に残り、望みをつないだ。その後もハイペースの集団から遅れかけながらも追いつく粘りを見せたが、ついに3周目に力尽き、グルペット(完走目的の後方集団)に吸収される。

また、この伊豆では好調の木村もステージ上位を狙っていたが、1周目の集団ペースアップ時に後輪がパンクし、チャンスを失ってしまったのもチームにとってアンラッキーだった。

最終的に、湊の総合35位がチーム最上位と目標の総合25位には届かなかったシマノレーシング。優勝争いにはまだ手が届かないレベルの戦いだったが、日々それぞれの目標に向かって緊張感あるレースを繰り広げたことで、選手としての力強さを身に着けたのは間違いないだろう。

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第6ステージ富士山、湊諒はチームトップの45分22秒でゴール。自身はこれ以上のタイムを目指していたが、連戦の疲れからかやや伸び悩んだ
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TOJ初参戦ながら、最終的にチームトップの総合35位でフィニッシュした湊。UCIポイントには届かなかったが、将来に向けて可能性を感じさせた

 

無線と車載カメラ

今年のTOJでの話題のひとつが、無線の再導入だ。一昔前までは下位カテゴリーを含めほとんどのロードレースで使用されていた無線だが、UCI競技規則の変更によりここ数年間はツール・ド・フランスなど世界最高峰のUCIワールドツアーでしか使用が許されていなかった。

しかし、今年再び規則が改正され、1クラス以上のレースで無線が解禁。TOJでも久しぶりに使われることになった。

周回が短い堺ステージでは使用されなかったので、続く2日目の京都ステージからようやく出番となった。シマノレーシングの若い選手たちは無線を使うのはほぼ初めてとあって、まるで新しいおもちゃを手にしたよう。「どっちの耳に(イヤフォンを)するんですか?」と新鮮な表情を見せていた。

ちなみに、過去に無線の使用経験がある秋丸は「あまり使ってよかったことはなかったかな」とあまり好みじゃない様子。海外のレースでは、監督からの指示がうるさく感じたこともあるようだ。

無線をめぐっては、ちょっとしたハプニングもあった。ロードレースでは審判から各チームカーへ連絡するもうひとつの無線系統、いわゆる競技無線(ラジオツールとも呼ばれる)がある。第3ステージ美濃では、入部が手を挙げてチームカーを呼んでいると競技無線を通じてチームカーに連絡が入った。実は、入部は沿道のシマノ応援団に手を振っていたのだが、審判がそれを勘違いしてしまったのだ。

しかし、野寺監督は入部とチームの無線で直接やりとりできるので、補給やトラブルではないのは承知済み。チームカーを集団のところまで上げなかった。ところが、審判からの競技無線は一方通行なので、野寺監督から審判にそれを伝える手段がない。

審判にしてみればシマノレーシングのチームカーが上がってこなかったのが不思議で、何かトラブルでもあったのかと心配したようだが、後で野寺監督から事情を聴き、ようやく謎がとけたということだった。

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今年からTOJに復活した無線をチェックする秋丸。周りの選手たちもどこか楽しそう
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無線機はビブパンツのポケットに収納するが、ポケットがないときはビニール袋と安全ピンを使用する応急処置も
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美濃の沿道に詰めかけたシマノ応援団。入部が手を振って声援に応えたところ、審判がチームカーを呼んでいると勘違いしたようだ

もうひとつ注目のアイテムは、車載カメラだ。高性能軽量の小型カメラが普及し、選手目線の迫力ある映像が届けられるとあって、最近はヨーロッパのロードレース中継でも使われる車載カメラだが、TOJでも数年前から徐々に導入されるようになってきた。今年はテレビ番組用にシマノ製のスポーツカメラCM-1000が使用され、シマノレーシングの選手のバイクにも何度か装着された。

しかし、2~4時間に及ぶレースではバッテリーが最後まで持たないため、選手自ら残り2周などのタイミングで録画のスイッチを押さなければいけない。さらにカメラはハンドルの下に装着されるので、スイッチも下向き。しかもそのスイッチを長押ししないと録画がスタートしないとあって、選手にとってはちょっと難しい作業でもあった。ある選手はスイッチを押したつもりだったけど、結局、録画されていなかったりなんてこともあったりした。

国内最高峰のステージレースであるTOJでは様々な新しい試みが行われているが、万事順調にいくわけではない。ちょっとした失敗もつきものなのだ。

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今年のTOJでは、シマノ製のスポーツカメラCM-1000が車載カメラとして使用された
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車載カメラの取り付けをチェックする小橋

協力:シマノレーシング

http://www.shimano.com/content/Corporate/japanese/index/Shimanoracing/shimanocyclingteam.html

シマノレーシング公式YOU TUBEチャンネル

https://www.youtube.com/channel/UCvPECVp_-UXEM2ELTAfP39w

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