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2019年04月23日

ファンライドアーカイブス 読むトレーニング「住田道場」②

2007年12月号から約1年にわたって月刊ファンライドに連載された「住田道場」の第2回です。シマノレーシングに所属し、アトランタオリンピックロード日本代表にも選ばれた住田修氏によるこの連載は「モノクロ1ページ」という地味な企画ながら、トレーニングに励むサイクリストの心をがっちりつかんだ大人気連載になりました。10年以上の月日を経た今も、「強くなるために今何をすべきか」は不変のテーマだと気づかされます。
※掲載※月刊ファンライド2008年1月号 構成/浅野真則 写真/高田賢治 題字/住田修

今月の教訓
一、実力でライバルをちぎって勝て。作戦・展開などの小手先に頼るべからず。
一、世界一をめざして死ぬ気で精進せよ。マラソン選手にできて自転車選手にできないことはない。

其の二、
もっと、もっと、もっと練習を

プロの自転車乗りなら圧倒的な実力差で勝て

読者のみなさんは、「国内トッププロは、さぞかし練習しているんだろう」と思っていることでしょう。そりゃ当たり前です。彼らは自転車に乗るのが仕事やし、すべてが自転車中心の生活なんです。

プロとアマを比較したとき、決定的に違うのが自転車にかけることのできる時間。その点、練習に専念できる環境が整っているプロのほうが圧倒的に有利なのは言うまでもありません。だから、レースでは、プロはアマチュアには圧倒的な差で勝たなアカンのです。いや、勝つからこそプロなのです。

前回、「日本のロードレースには積極的にレースを動かしてやろうという骨のあるヤツが少なくなり、チーム単位で「ツール・ド・フランス」ごっこをしているように見える」と書きました。ぼくが立命館大学時代は日大50人、法政大30人、中央大20人を相手にスタートからアタックし1人で逃げ切ってました。当時は、どんなレースでも号砲とともに勝ってやるーーなんて目をギラギラさせている選手が多かったし、今よりもっと豪快で、最後まで何が起こるかわからないようなレースが繰り広げられていたものです。こういう展開で勝とうと思うと、周りのライバルを圧倒するようなズバ抜けた実力がないと無理です。

今はそういうレースが少なくなり、作戦や展開で勝負が決まってしまうことが多いのは、選手の実力が拮抗しているからでしょうか?確かにそういう側面もないとは言えませんが、ぼくはそれだけが原因やないと思います。

若い選手を見ていると疑いたくなるんです。「こいつら、ホンマに練習してんのか?絶対的な練習量が足りへんのと違うか?」と。

楽していては絶対強くなれない

昔はトレーニングといえば、いわゆる「根性論」的なものが幅をきかせていました。とにかく身体を痛めつけなくては強くなれない、というアレです。最近では心拍計を使った科学的なトレーニングも登場し、より効率的に練習することができるようになりました。

ここで間違えてはいけないのは「科学的トレーニングによって効率的に強くなることは、決して強くなるという意味ではない」ということです。科学的トレーニングは、かつて選手が試行錯誤の末に体得した効率よい練習方法をロジックとして表現したものに過ぎず、「トレーニングはしんどい」という本質は今も昔も変わらんのです。楽していては決して強くなれへんのです。

最近、「根性論的なものは時代遅れ」と全否定してしまう風潮はあるけれど、それもおかしいと思うんです。ツライ練習を最後までこなせるかどうかも、レースでもうひとがんばりできるかどうかも、結局のところ「根性」があるかないかにかかってますからね。

ぼくが先輩として今のワカモノにアドバイスするとしたら、「ホントに強くなりたいなら、1年1年が勝負やと思っていたほうがいい」ということ。選手の「賞味期限」はホンマに短いですから。だから、夏休みの宿題のように目標に向けてトレーニングスケジュールを立て、計画的に進めていくことが重要です。ただし、練習を計画通りに実行するのは、かなりシンドイはず。でも、これができるかどうかのカギを握っていると言ってもいいでしょう。

ぼくが選手の時に自分に課していたのは、とにかく毎日自転車に乗ること。それはレースで苦しいとき、負けたときに自分に言い訳を作らないためでした。さらに、練習が終わってからも10km余分に走りにいくことにしていました。1日たった10kmでも、半年続ければ1800kmにもなります。「継続は力なり」です。ぼくらにできて、今のワカモノにはできないことはないでしょう。ぼくは、自転車選手としてアマチュアでしたが、この点では真のプロでした。

ロードレースと同じ持久系種目のマラソンでは、高橋尚子選手をはじめ、実際に世界の頂点に立った日本人選手だっておるんです。前号では、「現状ではツール出場は無理」と断言したけれど、マラソン選手にできて自転車選手にできないことはないでしょう。

才能あるワカモノが、継続した精進をしたら、必ず道は開けます。

sumida
住田修/すみた・おさむ(写真・プロフィールは連載時のもの)
ロードレース2×10段と称される名人。立命館大学を卒業後シマノに入社。アトランタ五輪日本代表。現役時代、その圧倒的な存在感はロードレース界随一と言われ、実力だけでなく、ハートでも魅了する熱い男。現在は仕事中心ながら、走ることはやめない生涯サイクリスト。すね毛を剃らない選手としても有名だった。

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