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2019年04月17日

ファンライドアーカイブス 読むトレーニング「住田道場」①

月刊ファンライドのバックナンバーから「アーカイブス企画」としてお届けするこの企画。第1回は2007年12月号からおよそ1年にわたって連載された「住田道場」です。シマノレーシングに所属し、アトランタオリンピックロード日本代表にも選ばれた住田修氏によるこの連載は「モノクロ1ページ」という地味な企画ながら、トレーニングに励むサイクリストの心をがっちりつかんだ大人気企画になりました。10年以上の月日を経た今改めて読み返すと、住田氏の時代を見越した慧眼に驚くと同時に、「強くなるために何をすべきか」は不変のテーマとして時代を超えたサイクリストに届くテーマだと気づかされます。
※掲載※月刊ファンライド2007年12月号 構成/浅野真則 写真/高田賢治 題字/住田修

其の一
日本人はツール・ド・フランスに出ることができるのか? 

みなさん、いきなり質問ですけど、この先、日本人がツール・ド・フランスに出場できると思います? 仮に出場できたとして、通用すると思います?「いまのままやったら絶対に無理」と断言します。
ぼくもかつてはアトランタオリンピックの日本代表に選ばれた自転車選手でした。日本代表として世界の舞台に立ったけど、絶対に自分はここでは勝てへんと思いました。だからこそ、自分の次、そのまた次の世代が強くなって世界に通用するような選手になってくれればええなぁ、と願ってました。

ところが、現状はぼくが走っていたころと何ら変わらへんと思います。それどころか、今の選手はある部分では後退しているような気がしてしゃあないんです。たとえば精神面で。ロードレースは緻密な戦略に基づいたチームスポーツである、と言われます。

確かにそういう側面もあるけれど、いまの実業団トップレベルで走ってる選手たちは、そのことにとらわれすぎて、「積極的にレースを動かしてやろう」という骨のあるヤツがあまりおらんような気がします。言葉は悪いけど、仲良しチームで「ツール・ド・フランスごっご」をやってるようにしか見えんのです。乱暴な意見かもしれませんが、いっそ個人TTとヒルクライムのTTだけにしてしまうか、ロードレースではチームを廃止してもいいかもしれません。全員が個人で戦うんです。

ぼくらの選手時代は、チームメイトの関係も、もっとピリピリとしていたもんです。チームメイトである以前に、ライバルの一人やと思ってました。だから、負けたら本当に悔しかった。1位以外は2位も最下位も同じやと思ってたぐらいですから。「今の若い選手は、レースに負けて本当に悔しいと感じてるのか?とりあえず表彰台に立てたら、最悪でも入賞したらまあよしーーなんて甘っちょろいこと考えてるんとちゃうやろうか?」そう思えてならんのです。

自転車界にも解散総選挙が必要だ!?

これは選手だけの問題やありません。日本の自転車界の構造的な問題でもあります。
若い選手が育たないいちばんの原因は、U23の選手が日本のトップ選手と戦う機会がないということ。これでは若いうちに国内に高い目標が持てなくなってしまい、井の中の蛙になってしまいます。元々競技人口が少ないからこそ、一緒に走ってレベルを高めていくべきやとおもいますけどね。

入賞でもよしとする風潮も一掃すべきでしょう。ロードレースはチャンピオンスポーツなのに、入賞などといって称えるのがおかしい。リーダージャージだって優勝者にしか与えられへんでしょ? だから優勝者には莫大な賞金を与えてその功績を称え、2位以下は敗者と考えるようにしたらいいんです。そしたら、優勝できなかったら本当に悔しいと感じるはずなんで。選手たちの目の色も変わるでしよう。

ただ、ここまで劇的に環境を変えようと思うと、自転車界も衆議院解散総選挙ぐらいの勢いで人事刷新せなあきません。たとえばこの際、若い選手の芽を摘むベテラン、選手の雑用係と化した監督、国内有力チームで走ることが競技人生の「上がり」だと考えるような選手は、早く身を引くべきです。

ワカモノよ!
先輩として言う!

若い選手には無限の可能性があります。だから厳しくも大切に育てられるべきやと思います。だけど、若い選手にも意識改革が必要なのは言うまでもありません。

もしもツール・ド・フランスに本気で出ようと思うのなら、憧れや夢ではなく、実現可能な目標としてとらえるべきです。若いころから世界のレベルと現状の自分との差を超客観的に意識し、それを埋める努力をしてほしい。そのためには「今、何をしなければならないか」を現実的に考えることが重要です。

ぼくが先輩として言えるのは、「今の自分がいちばん若い」ということ。今これを読んでいる瞬間にもどんどん歳をとっています。無限の可能性はあるといっても、残された時間は決して多くないということです。
さあ、来シーズンは今からもう始まってると言っても過言やありません。ワカモノよ。さっさと練習しにいきなさい。冬の走り込みが、必ず来季の糧となるから。

sumida
住田修/すみた・おさむ(写真・プロフィールは連載時のもの)
ロードレース2×10段と称される名人。立命館大学を卒業後シマノに入社。アトランタ五輪日本代表。現役時代、その圧倒的な存在感はロードレース界随一と言われ、実力だけでなく、ハートでも魅了する熱い男。現在は仕事中心ながら、走ることはやめない生涯サイクリスト。すね毛を剃らない選手としても有名だった。

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