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2018年04月08日

リエチ先生のサイクリストからだ相談室 【手のしびれ・後編】

 前回はサイクリスト麻痺の頻度が非常に高いことに関してお伝えしました。前回の記事はコチラ

FullSizeRender 6 FullSizeRender 7(図1)
今回はサイクリスト麻痺の症状と、原因、対策と治療に関してお伝えします。サイクリスト麻痺の症状ですが、手のひらの小指側から指先にかけてのしびれ、パーをすると母指以外の指が開きづらい、環指、小指が鉤爪様に曲がってしまうといったものが典型的です。(図1)

IMG_0074(図2)
「なぜハンドルバーを長時間握ると手がしびれるか」というと、それは特殊な手のひらの解剖に原因があります。(図2)のように、Guyon管と呼ばれる手のひらの付け根にある赤丸の骨の間のトンネルを「尺骨神経」という神経が通過するのですが、この中で狭いアーチを通過するときに急角度で曲がるため、ここで神経が締め付けられやすいのです。このトンネル内の圧迫部位によって「しびれ」だけか「運動麻痺」だけか「その両方」の3種類のタイプが決まってきます。

図2(図3)
とくにロードバイクの乗車姿勢は、一般のシティサイクルと比べて前傾姿勢が強いのが特徴です(図3)。からだは、ハンドル、サドル、ペダルの5箇所で自転車と接触しますが、この前傾姿勢の強さのため、ハンドルを持つ手に強い負担がかかります。その手が当たる部分にちょうどこのGuyon管があることが多く、麻痺が起こりやすいというわけです。

初心者のうちはこの乗車姿勢に慣れず、体幹を上手に使えないため、ハンドルに上半身を預けてしまいがちなので注意が必要です。正しいサイクリング姿勢はパフォーマンスを高め、障害を防ぐことがわかっています。個人の筋力や柔軟性、背骨の動き、骨盤の傾斜などを考慮に入れて乗車ポジションを決めていく必要があります。

図1 ロードバイクにおける各種ハンドルポジション 下ハンドル(1)(図4 下ハンドル)

図1 ロードバイクにおける各種ハンドルポジション ブラケットポジション (図4 ブラケットポジション)

posion(図4 上ハンドル)

ハンドルバーの握る部位に関しては、ドロップハンドルの下ハンドル(図4)のポジションでこの圧迫が強まるとの報告があり、下ハンドルの長時間の使用は避けたほうがいいでしょう。いずれにしてもハンドルバーを握る場所をこまめに変えることが重要です。

ZU5(図5)

グローブに関しては、グローブなしのサイクリストではもっとも小指球の圧迫が強く、パッド付きのグローブの使用では、10〜28%圧迫を減少することができたと報告されています(図5 )。自転車レースではハンドルを握る手のひらから得られる情報は非常に重要で、サイクリストたちは厚手のグローブを好まない傾向にありますが、長時間の乗車時には落車でのケガ予防という点でも、装着をおすすめします。

治療ですが、実際に麻痺が起きてしまっても、多くは手のひらの圧迫を避けることで時間とともに改善することがほとんどです。場合によっては、消炎鎮痛剤やビタミン剤の内服、ステロイド注射などが有効なこともあります。改善しない場合は、手術で神経の圧迫を取り除くことがあります。「サイクリスト麻痺」以外にも肘や首、手首のほかの神経が原因で手がしびれることがありますので、症状が継続したり、日常生活に支障がある場合は整形外科を受診するといいでしょう。

参考文献
1.Patterson JM,et al:Ulnar and Median Nerve Palsy in Long-distance Cyclists.Am J Sports Med.31:585-589,2003
2.Akuthota V,et al:The Effect of Long-Distance Bicycling on Ulnar and Median Nerves.Am J Sports Med.33:1224-1230,2005
3.Brubacher.JW,et al:Ulnar Neuropathy in Cyclists.Hand Clin.33:199-205,2017
4.de Vey Mestdagh.K:Personal perspective:in seach of an optimum cycling posture.Applied ergonomics.29(5)325-334,1998
5.Josh Slane,et al:The influence of glove and hand position on pressure over the ulnar nerve during cycling.Clin Biomech(Bristol,Avon).26(6):64
6.蔵本理枝子:自転車ロードレースによる上肢障害.臨床スポーツ医学:vol.34.No.7(2017-7)

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