2018年07月23日
【PROJECT 75 富士ヒル・シルバーへの道】最終回 3ヵ月間トレーニングに励んだ2人の結果やいかに?
今年で15回目を迎えるMt.富士ヒルクライム(6月10日開催)で、俳優・芦田昌太郎と当サイト編集長コタカが75分切りのシルバーリングにチャレンジする企画「PROJECT 75」。今回は最終回ということで、2人の走行レポートと田代さんの総括をお届けします。
霧のなか、富士山に挑んだ芦田さん
6月10日。4時起床。不安まじりにカーテンを開けると、予報通りの雨。眠い身体を起こし朝食を摂る。下山荷物は前日に預けてあるので今年はホテルでゆっくりできるのが嬉しい。天候の回復を祈りつつ身支度を整えて出発時間を待つ。
この「Project75~シルバーへの道」が始動して3ヵ月。企画が始まった当初はレースに出るにはほど遠いレベルで、足柄峠でも途中で自転車を降りてストレッチをしたり、正直なところ不安でしかなかったの思い出す。それが、田代コーチのメニューとアドバイスのおかげで、あっという間に脚が戻り、2ヵ月が過ぎた頃から各峠でベストを叩き出せるまでになった。スバルラインの試走のベストタイムは1時間17分台。「本当にシルバーが獲れるぞ。」このプロジェクトで3年前の1時間24分から7分近くタイムを縮めることができたのだから……あとは本番の興奮と集団の力と切り札・ビッグプーリーの効果で何とか目標を達成したい。いや、どうしても達成しなくてはならない! あ、そうだ。田代コーチに教わったウォーミングアップ・オイルを塗らなくちゃ。早朝からテカテカ、ついでに同部屋のチームメイトも皆でテカテカ。オイルおじさん集団、レースじゃなければ通報されます。
Mt.富士ヒルクライム、スタート!
富士山はすっぽりと雲に覆われているが、五合目は晴れているとのアナウンスに会場からは歓声が上がり、いよいよスタートだ。パレード区間はウォーミングアップがてらクルクルと回し、胎内の信号を左折して計測開始地点を通過。「さぁ行くぞ、待ってろ五合目!」まわりも一斉にペースが上がる。が、身体が重い……喘息の発作も出てきた……雨が降ると出るんだよなぁ。なぜ今なんだよ~!この3ヵ月、体調も天候も好調だったのに、大会当日に限って持病が出るなんて。恨み言を言ってもはじまらないし、レースはすでに始まっているのだ。どんな状況でも諦めず上るのみ。
チアリーダーの応援が聞こえる。やっと一合目下の駐車場か。ここまで10~11分で来るつもりが大幅に遅れている。今日はしんどいレースになりそうだ。75分と言う目標が重くのし掛かってくる。第二ポイントにしている樹海台までに少しでも取り返すぞ。とにかく進むしかない。しかし身体は動かず、顔も上げられない。こんなに道路ばかり見て走るスバルラインは初めてだ。三合目でも大沢駐車場でも狙っていたタイムからは遅れている……。こうなりゃヤケだ。どんな結果になろうとも、最後まで諦めるもんか。少しでも早くゴールまで辿り着くんだ。前日のタイムトライアルでも「記事、読んでます。励みになってます。」と声を掛けて頂いたのだから。
すると突然の青空が! 雲を抜けたんだ。自分の表情に笑顔が戻ったのが分かり、一気に力が湧いてきた。まだ4kmある。やっとペダルにパワーがかかり、最後の平坦区間に到達。毎回思うのだが、どうして私はこの区間で単独走になってしまうんだろう……。ちょっとくらいラクしたいのに、いつも周りに選手が見当たらないのだ。スタートしたときはあんなに沢山の選手がいたのになぁ。あ、私がみんなに遅れたからか……。トンネルをひとつふたつと潜り、勾配がきつくなる。ラストの急坂はタレながらも精神力だけでゴール。
1時間25分06秒……富士山にバッサリ返り討ちに合いました
。
やっぱりヒルクライムが好きだ!
情けない結果となってしまいましたが、ゴール後の気分はスッキリ清々しい。これがレースの、これが富士ヒルの魔力。どんな天候でもどんな状況でもゴールすれば気持ち良いのだ。本番のタイムこそ惨敗となったが、田代コーチのおかげで確実に速くなれた。また、お互いに刺激しあったファンライドのコタカくん、そして毎週のように実走練習に付き合ってくれた仲間、応援してくださった方々の存在があったからこそ、ここまで来られたのだ。この瞬間を迎えるまでに取り組んだプロセス、流した汗、仲間と走った時間、頂いた声援。これら宝の欠片はしっかりと拾い集められたと思います。今、自転車が楽しくて仕方がない。早くライドに行きた~い! シルバーリングには届かなかったけれど、体調も天候も含めこれが今の私の実力。今度は何があっても平気なように、もっと速くなれば良いだけ。
来年こそ、待ってろシルバーリング!
それから2週間……
爽やかスポーツマンぶってみたものの、やっぱり悔しいので…。
行ってきました、富士ヒル・リベンジマッチ!いや、正しくは「泣きの1回」。大会当日は本部で参加者を見守っていて走れなかったコタカくんと最後のアタック。快晴。気温も高い。なぜ大会当日だけ雨だったんだ…。大会関係者に雨男でもいるのだろうか。とにかく、暑いくらいでコンディションは良好、絶好のアタック日和。
北麓駐車場からウォーミングアップを兼ねてスタート地点まで走る。うん。調子は悪くない。呼吸器も大丈夫。コタカくんも良く脚が回っている。二人きりのスバルラインだけれど、上手く牽き合えばタイムを稼げそうだ。エネルギー補給を済ませ、いざスタート!
狙い通りのペース
最初は抑え気味で入りつつも徐々にピッチを上げて一合目下駐車場。10分30秒。今日は狙い通りのタイムだ。この間、黄色い影がチラチラと見え隠れしている。コタカくんがピッタリくっついている。それにしても速くなったなぁ。試走した時は序盤で行方不明になっていたのに。お互いローラー台の成果が出ている。田代コーチからメニューを貰った時は、スパルタ過ぎて笑うしかなかったもんね。やっぱり練習は嘘をつかない。と、思い出に浸りながらも、ここからはスピードアップ区間。勾配が緩くなったところでシフトアップ。ケイデンスは低めだが、気持ち良く脚が回っているのが分かる。心拍が落ちないように気を付けながら次のポイントの樹海台まで進んでいく。おや? さっきまでの気配が無くなった。そうか、コタカくんは星になったか…。君の分まで頑張るよ(笑)。とはいえ油断は禁物。勾配が緩むとヤツは速いからなぁ。前週のレースでは2連敗してるし。いやいや、そうではない。今日はタイムアタックだった。対峙するのはコタカくんではなく、75分の壁だ。
勝負どころの中盤戦
10Km地点の樹海台に33分台で到着。試走より僅かにリード。カメラマンの応援が嬉しいが、今日は応える余裕がない。コーナーを抜けたところでジェルを投入。ケホっ…むせた。ジェルを飲む練習もしたのになぁ。気を取り直して集中、集中!何度となく試走したおかげでコースは把握している。ここから大沢駐車場までが大事なんだ。向かい風が吹く区間で、油断するとタレてしまう。大沢駐車場への到達目標タイムは56分。希望ではなく手が届くであろうギリギリのタイム設定。終盤の平坦区間が弱い私はここまでに稼いでおかないと難しくなってしまう。次第に脚がパンパンになってきて、ペダリングが乱れてきている。ホイールが硬くて踏み負けてる…選択ミスだ。観光バスや乗用車が私を追い抜いていく。掴まりたい…ワープしたい…ネガティブ・ループが発令してます。そんな時私を救ってくれたのはボトルに書いて貰った応援メッセージ。ありがとう。危うく意識がどこかに行くところでした。
タイムリミットまで17分
向かい風の中、大沢駐車場に到着しタイムを確認。58分だ。厳しいぞ~!アシダ、75分を切れるのか?17分でゴールまで行けるのか?もう踏み倒すしかない。ここからしばらくはフォローの風。ケイデンスを上げて行けるところまで行く。頭の中に中島みゆきの「ファイト!」が流れてくる。
ファイト!闘う君の唄を闘わない奴等が笑うだろう~
ファイト!冷たい水の中をふるえながらのぼってゆけ~
……何でこの曲だったんだろう?テンポが合わないんだって。むしろ暑いし。
ラストの平坦区間に入りアウターにシフトアップ。脚も背中も痛いけれど、下ハンに握り変えて上体を低く抑え込む。ゴールはもう目の前だ。苦しい~、脚がもげる~。トンネルを抜けてググッと上がる勾配に差し掛かる。腰を上げて最後のアタック。長いって……。もうダンシングも続きません。シッティングに切り替えてあと20m。10m。ゴールっ! 計測マットもないのにハンドルをグンと突き出していた自分が可笑しくなってきた。脚がガクガクと震えて座り込む。タイムは1時間18分46秒。
数分後…。
ゴール前の急坂にコタカくんの姿が現れる。あ、まだ生きてた。苦悶の表情は最後まで頑張った証拠。「がんばれー!踏めー!」カメラマンと私は自然と叫んでいた。相当追い込んだようで、ゴール後にバイクから降りることもできないようだ。それにしても、若者らしいスマートな体型になったなぁ。この企画がスタートした頃は、お腹こそ出ていないが、満遍なくお肉に覆われていたのに。腰まわり、脚も引き締まり、顔つきも精悍になって格好良いぜ。黒×黄色のジャージが似合うね。
独りじゃできないこと
長いようで短かった3ヵ月。コーチにつく大切さを改めて感じました。田代コーチから渡されたメニューは狙い所が明確にされていて、効率的且つ効果的に練習が進む。そして、その取り組みは確実に実を結んでいく。自己流の練習方法では、ここまでタイムは伸びなかっただろう。仲間とSNS上で遂行したメニューをアップしあうことで、お互いにサボれない環境も作る。トレーニングメニューは厳しかったが、今まで越えられなかった壁を突破できたのは、田代さんのコーチングを受けたから。チャレンジする喜びをしっかりと後押ししてもらえました。そしてこの挑戦をともにしたコタカくん、親身になってアドバイスをしてくれた田代さん、一緒に走ってくれた仲間や支えてくれたみんな、そして応援してくださった皆様。目標に掲げた「シルバーリング」は叶わなかったけれど、ずいぶんと強くなれました。どうもありがとうございます!
連載の締めにタイムアタックをおこなったコタカ
Mt.富士ヒルクライムから12日後。芦田さんにもお付き合いいただき、富士スバルラインでおそらく今年最後となるであろうタイムアタックを行った。富士スバルラインを走るのも今年4回目だ。
レース当日は残念ながら大会本部業務に追われて走れなかったので、このタイムアタックが私にとってのこの連載の締めになる。
そもそも、この企画の言いだしっぺは私。仕事の忙しさを言い訳に、なかなか自転車に乗れなかった日々を、さすがにマズいと思い、芦田さんを巻き込む形で、Mt.富士ヒルクライムで75分切り(シルバー)という2人にとって結構ハードルの高い目標に向けてトレーニングしていくことにした。コーチをお願いしたのは、以前から連載等でいろいろとお世話になっていた田代さん。期間が短く、厳しい目標設定であったが、(若干無理やり?)快諾いただけた。
最初は軽い気持ちだったが……
ここだけの話、開始当初は芦田さんが75分切りを達成してくれて、自分は引き立て役に終わればいいや、ぐらいの軽い気持ちでいた。しかし、田代コーチからの指示で、お互いにトレーニング実施を報告し合うことで、私も何がなんでもやるしかない状況に。
田代コーチや芦田さんに発破をかけていただきながら、トレーニングをこなす。徐々に身体が絞れ(最終的に約7kg減量した)、上りの走りに軽快さを感じるようになってくると、日々トレーニングをこなし、誰かとレベルアップを共有することに喜びを感じてきた。
一方で、着実に練習メニューをこなしていく芦田さんに比べると、すべてのメニューをこなせたわけでは正直ないし、レース当日が近づくにつれて練習時間の確保が難しくなってしまったことも、事実だ。
スバルラインを走る難しさ
それにしても富士スバルラインを走るのは難しい。24kmという長さがそうさせるのか、体感として分かりにくい勾配の変化がそうさせるのか、同じように走っているつもりでも、タイムが3,4分違うことなんてもざらにあったし、ゴールした後にすべて出し切って完璧に攻略できたなんて思ったことは一度もない。「もう少し前半ペースを上げられたんじゃないか」、「最後の平坦区間を踏みきる力を残せなかった」、走るたびにさまざまな反省が頭に浮かぶ。でも、そんなところが多くの方にリピートして大会に参加していただいている所以なのかなと、思ったりもして。
チャレンジは終わらない!
話を最後のタイムアタックに戻したい。芦田さんに前半のペースを作っていただいたが、当日に走れなかったことで、どこか気が抜けてしまっていたのかもしれない。集中力を欠き、後半バテにバテて、結果は1時間23分。75分には遠く及ばなかった。言い訳せずに、くやしいがこれが今の自分の実力だろう。
富士ヒル終了後、参加者のみなさんからいろいろと出走報告をいただいた。40代、50代で自己ベストを更新した人もたくさんいた。まだまだ自分もレベルアップできるはずだと、背中を押してもらった気になる。
また、「今回は目標を達成できなかったが、来年に向けてトレーニングを開始した」といった報告もたくさんいただいた。
この企画はここでいったん終わりだが、75分を切りたいという思いは、企画のスタート時よりも強くなっている。だから75分切りに向けたチャレンジはこれからも続けていきたい。
仲間と切磋琢磨し、目標を持って自転車に乗り続けること。そんな楽しみ方を再発見できたのが、何よりの得られたことのように思う。田代コーチと芦田さんに感謝だ!
田代コーチより~
まずは芦田さん、コタカさん、3ヵ月間一緒にトレーニングに付き合ってもらってありがとうございました。目標を達成させてあげられなかった責任をコーチとして感じていますが、2人とも自転車が楽しい!って思ってくれたことが嬉しいことでもあります。
3ヵ月前、コタカさんからの電話に「ええーー!」「75分切り?」「3ヶ月前だよ?」「短!!!」 「90分切りにしたら……」と答えましたが、企画的には「75分切りで〜笑」と押し通されました。 走れた時のイメージから、年齢を重ね、体重も増え、仕事の責任は増えているっていうのに、さらにクリアしたことがない75分切り。果敢な目標設定だけど私も選手をやっていたので嫌いじゃない。むしろ好きな方なのでチャレンジしがいがあると思ってしまいました。
それでもマイナスからのスタートにどう立ち向かうか悩みました。トレーニング強度設定やメニューなどは別として、魔法の秘策なんて無く、3ヵ月間どれだけ自転車に乗る時間を作れるかどうかなので、SNS上で「富士ヒルクライム75分切り企画」グループを設定して、全員でトレーニング実施内容と体重を投稿してもらいました。お互い刺激し合い、少しのプレーシャーも掛け合うことで継続性を高めました。
共通のメニューでトレーニングを行ってもらいましたが、お互い悩みは別々で、芦田さんは筋肉量が少ない、スピードをもっと高めたい、コタカさんはトレーニング時間の確保と体重減に最後まで苦しみました。それぞれの悩みを解決するために3ヵ月間はあっという間に過ぎました。マイナス要素を少なくするアドバイスが多くなりましたが、2人とも頑張ってくれたと思います。
目標を達成できませんでしたので、それまでですが、自転車に仕事に濃密な3ヵ月間を過ごしてもらいました。この経験がきっと来年の富士ヒルにプラスになると思います。是非またチャレンジして欲しいです。
富士ヒルクライムは、勾配も厳しすぎず比較的一定勾配なので参加しやすい大会の一つです。速くなるも遅くなるも、毎年の自分の成長具合を確認するためにもうってつけです。120分切り、90分切り、75分切り、60分切りと目標を持ってチャレンジするのもよし、 富士山に登ることを目標とするのもよし、みなさんも大会を楽んでください。
PROJECT 75 メンバー
04年アテネ五輪代表、01年、04年全日本ロード王者と輝かしい実績を誇る元プロロードレーサー。現在はリンケージサイクリング代表として、パーソナルコーチング、フィッティング、サイクリングプログラムの企画、スポーツサイクルのレンタルなど、初心者から中上級者まであらゆる人々の自転車ライフをサポートする。
LINKAGE CYCLING
〒251-0032 神奈川県藤沢市片瀬4-14-4
TEL:0466-51-8497
俳優。富士ヒル90分切りの中級クライマー。表紙の女性モデルに惹かれ初めて買った自転車雑誌がfunride。以来、大会MCを務めるなど縁が続く。
本サイトの編集長。学生時代は陸上部で100m走に明け暮れた。そのスピード感からロードバイクに夢中に。負けず嫌いだが練習嫌いのためなかなか速くならない。
(文/芦田昌太郎、田代恭崇、小高雄人)
(写真/小野口健太)
著者プロフィール
ファンライド編集部ふぁんらいど へんしゅうぶ
FUNRiDEでの情報発信、WEEKLY FUNRiDE(メールマガジン)の配信、Mt.富士ヒルクライムをはじめとしたファンライドイベントへの企画協力など幅広く活動中。もちろん編集部員は全員根っからのサイクリスト。