2016年10月11日
【橋川健◆自転車時事コラム VOL.2】当たらない球でも空振りを恐れずに
国体の少年の部にみる日本のレース。
広島県の安芸府中高等学校の大町 健斗君が国体の少年の部で優勝した。大町は2年前に広島森林公園で行われた県の新人戦で1周目から単独で逃げ、最終周回に捕まり5位。自転車界の「春の高校選抜」への出場を逃した事があります。当時「無謀だな……でも面白い奴」と期待を込めたことを今でも思い出します。今回の国体でも志の高い才能のある選手達が数多くのアタックを行い、そしてマークに合い、潰れていきました。
潰すけれど攻撃が続かない日本のレースです。
欧州のレースでも逃げを潰す事もマークする事もありますが、潰す選手はその先に必ず攻撃をしていきます。チームメイトがその後攻撃する事もあれば、自ら攻撃する事もあります。潰す事だけを目的に走っている選手はアマチュア選手の中にはいません。強いて言えばレース展開の中で役割分担がきっちりと決まっているプロのレースくらいだと思います。
これは今に限った事ではなく、もう30年以上前から……僕が高校生でレースを始めたときから変わっていないので、もう何も言う事はありません。もし、海外を目指すのであれば、アタックしてマークされて潰れたとしても、目先の成績に惑わされる事なくアタックを続けて欲しい。しかし、多くのアタックを繰り返す中でも「このアタックは有効だったのか?」を常に考え、「アタックを決める精度」は高めていかなくてはならない。
今回の国体はレースを見ていないのでレース展開の詳細は分かりませんが、いくつかのレポートを読んだり、選手達から直接話を聞く機会がありました。少年の部でレース中盤に逃げた3名は結果的には集団に吸収され「失敗」だったかもしれないけれど、決して「失敗」とは考えずに「次はどのタイミングなら逃げ切れるのか?」を考えて欲しい。実際に後に有力選手を含めた5名が加わり、8名の脚のあるメンバーが揃ったが集団に吸収されたと聞いています。
この8名の逃げだって決まってもおかしくはなかったと思います。しかし決まらなかった。決まらないのには必ず原因があります。“タラレバ”で良いので、その原因を考え、逃げ切れる精度(確率)を高める努力をして欲しいです。
失敗を恐れてバットを振らない選手にはヒットは打て無いように、アタックできない選手は100回レースを走っても、勝ち逃げに加わる事は1回だってあり得ません。しかし、1回でもアタックしている選手は勝ち逃げに加わる可能性を持っています。今回の国体のレースで悔しい思いをした選手は、空振りを恐れることなくその精度を高めていつか逃げ切ってください!
次の同世代決戦は全日本選手権ですね。
逃げを決められなかった選手達は今度こそは決めて欲しい!
頑張れよ~!
(文/橋川 健 写真/加藤 智)
著者プロフィール
橋川 健はしかわ けん
一応、自転車ロードチームの監督を職業としているが実際はメカニックから補給まで行っており、どちらかというと現場監督的なイメージのほうが近い。昔はいかにして「自分が速く走れるか?」を考えてきたが、最近はいかにして「選手を速く走らせるか?」に心血を注いでいる。チームユーラシア-IRC TIRE監督、日本自転車競技連盟ロード部会員、UCI公認コーチ