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2016年09月07日

【橋川健 時事コラム特別編】 チームユーラシア-IRCタイヤ 2016年サイクリングアカデミー レポート“前編”

チームユーラシア-IRCタイヤ監督の橋川 健氏が、日本の夏休みを利用し、ロードレースでプロを目指す若者を受け入れる、サイクリングアカデミーを主催。そのレポートが届いたので2回にわけてお届けしよう。日本では決して体験できないヨーロッパでのレース活動。これからプロを目指す若者や、日本から送り出す協力者はぜひ読んでいただきたい。

今年も夏休み期間中に日本の高校生、中学生を対象にしたサイクリングアカデミーが開催された。カテゴリー的にはU17(2000~2001年生)、U19(=ジュニア 1998~1999年生)が対象となる。第2回目となり昨年の1回目よりもより多くの応募があり、何人かの選手にはお断りをしなければなりませんでした。
今年は7月22日~8月29日までの6週間弱の間に総勢17名の選手達が約2週間~4週間滞在し各選手4~8レースに参戦。アカデミーを通し24レースに参戦しました。
毎年、ジュニアのネイションズカップ(ワールドカップのような国際レース)に日本のジュニア選手が派遣されていますが、毎年好成績を残しています。これがU23、エリートとカテゴリーを上げていくに従って、他国の競技レベルの向上スピードに、日本のスピードがついていけず、成績を残すことは非常に難しくなっていきます。
そこでジュニア、U17の選手達により多くの欧州レースを経験させ、ハンドリングテクニック、レースの流れを読むなど、欧州ロードレースの基礎知識を植えつけさせることで、彼らがU23カテゴリーに上がった時に欧州のレースでより早く「勝負に絡み展開に加われるようになる」ことを目的としています。

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アカデミー期間中は英会話のレッスンも行われました。

また広く参加者を募り、欧州レベルでのレースに適応できる選手の発掘も目的としています。昨年は異なる交通事情の中、トレーニング中の落車が2回ありました。2回とも、警察などが関わるような大きな事故だったので、今年の大きな目標の一つに「トレーニング中の落車ゼロ」を掲げましたが、練習前のブリーフィング、帯同するユーラシアU23、エリートメンバーへの指導も含め参加した選手達のトレーニング中の意識が大きく変わり、無事に「トレーニング中の落車ゼロ」で終えることができました。参加したメンバーには今後も「トレーニング中の落車ゼロ」を継続して欲しいと思います。しかし、レース中の落車が多かった(計10回)ことは今後の課題となりました。
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つねにメンバーが入れ代わりましたがその都度落車に関する危険性を説明し、今年はトレーニング中の落車ゼロとなりました。


ジュニアカテゴリー
ここでは印象に残ったレースを追っていきます。全レース&選手のレポート及び成績は以下のチーム公式ブログでご確認下さい。
http://teameurasia.hatenablog.com/archive/category/Cycling%20Academy

8月5日
Manzele Opwijk  ジュニア 81km 出走53名
ベルギー入りして中一日。翌日にはヨハンムセウクラシックが控えていたが、ワンレベル上のヨハンムセウクラシックを走る前に欧州レースの集団の密度、スピードを経験させるべく、欧州レース参戦経験の少ない選手を中心に参戦することにした。選手達には「1時間したらレースから降りるように。逃げグループに加わった時は随時指示を出す」と告げて送り出した。序盤から花田が積極的でスタート後45分で9人の逃げグループに加わり、最後まで走り切り6位でフィニッシュした。
翌日に大きなレースが控えているにも関わらず全力を尽くし、初めての欧州レースで結果を残した。花田はスタート前から逃げることを強く意識していたようで、私の想像を超えた内容だった。清水は1時間で降りる事になったがレース中の集団の位置取りの上手さを感じた。

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積極的な走りで6位に入賞した花田 聖誠

リザルト
6位 花田 聖誠
DNF 吉岡 拓也、清水 大樹、瀧山 里玖、中井 康太

8月6日
ヨハンムセウ クラシック ジュニア 119km 出走155名
名称どおり、フランドルのライオンと呼ばれ90年代に活躍したヨハン・ムセウ氏の育った「ヒステル(Gistel)」で行われた。距離は9.3kmの周回を13周する119.9km。平均時速43.3k/h。

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左から瀧山、蠣崎、大町、花田、吉岡、清水。

前日参戦したレースよりもスピード、集団の密度が別物だった。平均時速は43.3k/h。U23やエリートのレースでは一般的な平均時速だが、ジュニアの場合ギア規制があり52X14がトップギアとなっている。平均時速43.3k/hのレース中の常用スピード域が46k/h前後だとすると、選手達は1分間に約100回転のケイデンスを約3時間回し続けていることになる。このようなレースは日本では中々経験ができないと思う。
スタート直後からハイペースな展開からアタックが繰り返され、2周目には17名が先行した。日本選手はここに加わる事は出来なかった。
中盤に入り17名が吸収され、振り出しに戻る。ラスト3周になり道の狭い区間で集団落車が発生し、これに全選手が巻き込まれるが蠣崎、大町はメイン集団に追いつくことができたが、この時にはすでに11名の勝ち逃げが決まってしまった後だった。この集団落車により後方に取り残された清水、吉岡、花田はDNFとなった。11名は最後まで逃げ切り、12位争いの集団スプリントでは大町、蠣崎が連携したが上手く噛み合わずに、蠣崎が32位、大町が59位でレースを終えた。

リザルト
32位 蠣崎 優仁
59位 大町 健斗
DNF 花田 聖誠、吉岡 拓也、清水 大樹、瀧山 里玖

8月12日
BMC レーシングチーム訪問
BMCに知人が多く、偶然レース会場で会った事からBMCレーシングチームの欧州最大のオフィスに招待していただきました。

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ツール・ド・フランスを終えてブエルタ・ア・エスパーニャへの準備を進めている最中のチームバスにも乗せていただきました。

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案内してくれたのはN.デヨンケーレ氏。彼もパリ-ニースやブエルタで区間優勝している元プロ選手。80年代後半~90年代は7イレブン、モトローラでマネージャーを務め、2000年代に入りUSナショナルチームのベルギーでの活動をサポートしてきた。この中からBMC入りした選手はTJ.バンガールデンやT.フィニーがいる。彼らのトッププロに至るまでの成長を見届けてきた氏に「海外からやってきた若い選手達がヨーロッパで活躍するために必要なことは?」と質問を投げかけると「力はどの環境にいても付けることができるが、ハンドリングはとても重要だ。より効率良くハンドリングを学ぶためにもトラックレースはとても重要である」と、とても貴重なお話を聞かせていただきました。写真は「この中でトラックレースに参加している選手は?」の問いに答えているジュニア選手達。

(後半へ続く)
(写真と文:橋川健)

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