2016年02月07日
【ライターアサノのベタ惚れのイッピン】第1回 ROTOR QXL
ライターアサノがプライベートで駆るバイクに搭載しているベタ惚れの逸品、こだわりの一品を紹介する本連載。最初のイッピンは、楕円チェーンリングのROTOR QXL。
通常タイプより楕円率を高めたこのアイテム、どこがすばらしいのか?
世界のトッププロ選手も愛用
チェーンリングをはじめ、ギアといえば真円なのが当たり前でしたが、最近では楕円ギアが少しずつ市民権を得ています。
なかでも多くの人に使われているのがROTORのQ-RINGSです。世界選手権で優勝したことのあるルイ・コスタや、ツール・ド・フランスで個人総合優勝を果たしたカルロス・サストレをはじめ、世界のトッププロたちがQ-RINGSを使っています。しかも、使用シーンもタイムトライアルだけでなく、クライマーが活躍する山岳ステージや、スプリンターが活躍する平坦ステージまで、シチュエーションや脚質を問わず楕円チェーンリングを使う人は増えています。
ところで、楕円チェーンリングとはどのようなモノでしょうか? 簡単に言うとチェーンリングが楕円形になっており、長軸側と短軸側では仮想歯数が異なるのが特徴です。すなわち、トルクをかけやすいクランクが3時付近のポイントでは大きなギアを使え、逆に力がかかりにくい上死点・下死点付近では小さなギアを使ってスムーズに脚が回るので、ペダリング効率が上がるのです。
そもそも人間の脚まわりの関節はクランクを回すという円運動には適していません。力をかけやすいのはひざが屈曲した状態ではなく、ある程度ひざが曲がった状態であり、上死点付近ではペダルにトルクをかけるのが難しいのです。さらにクランクに最も効率よく力をかけられるのは、クランクの円周運動の接線方向、すなわちクランクの垂直方向に力をかけた場合です。したがって、重力の方向とクランクの接線方向の力が一致する3時付近が最も力をかけやすくなるのです。
ペダリング効率が上がり、パフォーマンスも向上
Q-RINGSでは「人間が最も力をかけやすいひざの角度」と「自転車に最もトルクが伝えやすいクランクの角度」のバランスを追求。その結果、標準的なセッティングでは4時付近で仮想歯数を大きく、力をかけにくい上死点・下死点付近では仮想歯数を小さくしています。4時付近で仮想最大歯数にしているのは、身体の筋力を最大限に発揮でき、このポイントを最大にするのが効率がいいからだそうです。
ペダリング効率の高さは、実験でも証明されています。海外のスポーツ科学の専門誌にROTORが投稿した論文によると、「45分間の高強度走の後に1kmTTを行ったところ、平均で1.6秒のタイム短縮(平均速度0.7km/hアップ)と26.7W(6.2%)の出力アップが認められた」そうです。また、自社での実験でも乳酸の発生を9%抑えられるというデータもあるそうです。
「パフォーマンスが上がって疲れにくくなるのだったら、使わない手はない!」
というわけで、僕は個人的に2010年からQ-RINGSを使い始め、2013年のオフからはより楕円率が高い(=仮想歯数の差が大きい)QXLを使っています。
ペダリングスキルがあまり高くないライダーの救世主
楕円チェーンリングのQ-RINGSは、同じようなトルクで回していると上死点付近で脚がスッと速く回ります。ペダリングスキルがあまり高くない僕のようなライダーでも、真円のチェーンリングより脚がスムーズに回り、その結果、上りや向かい風の際にもわずかに失速しにくく感じます。一方で、力がかかりやすい3時~4時ぐらいのポイントでは、モリモリとトルクがかかるので、踏力が推進力にムダなく変わっていくのが実感できます。より楕円率が高いQXLではその傾向がより顕著に感じられます。
パフォーマンスの向上に直結したか?というのは個人レベルで証明するのは難しいですが、個人の実感としては答えはYESです。使用前後で同じコースを走ったときには、Q-RINGSやQXLの使用時にはタイムが向上し、平均出力も上がっていました。高いパフォーマンスを持続できる時間も長くなりました。上死点付近の力がかからないポイントで脚がスムーズに抜けることで、無駄脚を使わずにすむようになり、体力の温存も図れるようになったことが一因でしょう。文字通り僕にとってはパフォーマンスアップの救世主でした。
上りは苦手? ……使い方次第で克服可能!
Q-RINGSやQXLを使うことで平坦基調のコースでのパフォーマンスアップを実感できましたが、ひとつ問題がありました。それは、上りでは短時間はパフォーマンスアップしても、長い上りでは30分を超えるぐらいから脚が売り切れてしまう感じがあったことです。
その理由を考えたところ、上りというシチュエーションがもたらす、ライディングフォームとバイク、重力の向きの微妙なズレが理由だと分かりました。
上りで前輪が上がった状態では、平地と同じようなフォームでは相対的に腰が後ろに来るため、少し前に蹴り出すようなペダリングにしないとしっかりクランクにトルクをかけられません。また、クランクの3時の位置と、重力の方向も微妙にズレるため、脚の力だけでペダルを踏んでしまいがちです。このため、踏み中心のペダリングになって脚が早く売り切れてしまっていたのです。
この問題を解消するには、ライダーが積極的に勾配に応じてサドルの上で座面を前に移動させるか、ダンシングで対応するなどして、ペダルの3時の位置で真上からしっかり体重を乗せてトルクをかける必要があるのです。
Q-RINGSやQXLは、コースによってギアの位相を変えることができるOCPというテクノロジーを採用しています。OCPを使えば、ギアをの仮想最大歯数の位置を3時から5時の間で5段階に調整可能です。4時付近で仮想最大歯数になるように装着するのが標準的な付け方ですが、上りでも平坦と同じようなフォームで乗る場合、あらかじめOCPの位相をずらして5時付近に仮想最大歯数が来るようにするといいのです。
このように位相を変えることができるのは、他社の楕円チェーンリングにはない特徴です。
また、ROTOR POWERクランクなど一部のROTOR製クランクに採用されているMASシステムと組み合わせると、OCPとは別に1/2段階ずらすことができるので、さらにギアの位相の微調整が可能になります。これも他社のクランクセットにはない特徴です。
つまり、ROTORのQ-RINGSやQXLとMASシステム採用のクランクセットを組み合わせることで、Q-RINGSやQXLのポテンシャルは最大限に生かされることになります。ヒルクライムのような上りだけのレースなら、OCPとMASを活用してあらかじめギアの仮想最大歯数の調整をしておくのもありだと思います。ただ、ロードレースのようにアップダウンがあるコースの場合は、ライディングフォームで意識的に前乗りや後ろ乗りを活用する方がいいでしょう。僕はこの方法で実業団E2クラスのロードレースで優勝したり、同じく実業団のヒルクライムで入賞することができました。
真円のチェーンリングに慣れていて、ペダリングスキルの高い人は、円周運動の中でクランクの速度が変化することに違和感を感じる人もいるかもしれません。そういう方は、無理に楕円チェーンリングにすることはないのかもしれません。しかし、個人的には試してみる価値はあると思います。
ROTOR QXL
価格:10,500円~(インナーチェーンリング)、18,600円~(アウターチェーンリング)ともに税別
http://www.diatechproducts.com/rotor/q-xl_rings.html
著者プロフィール
浅野 真則あさの まさのり
業界随一の走り屋ライター。実業団登録選手としても活動中で、2014年には実業団レースを含む2勝を記録。自転車やパーツ選びもレースで使える信頼性を重視するが、軽量パーツもじつは好き。