2017年06月26日
第86回全日本自転車競技選手権大会ロードレース男子エリート結果
2017年のロードチャンピオンを決める、第86回全日本自転車競技選手権大会ロードレースが青森県階上町で行われた。距離は24年前に同コースで行われた140kmから、14kmの周回を15周する210kmまで距離を伸ばし、世界基準の距離となった。獲得標高は1周で264m、したがって3960mという厳しいコースであることが数字から読み取れる。
会場には24年前のこのコースのチャンピオンである、大石一夫氏の姿もあった。大石氏はコースについてこう語る。
「とにかく脚のある選手しか勝てないからチーム力どうこうは関係ないと思う。自分が勝ったときも前に前に展開して……、居なくなっていく(ライバルが)。そして脚のある人間だけが残って、そこからレースが始まる。こういうコースで全日本選手権をもっとやってほしいね。ヨーロッパではこういうコースはざらにあるし、やっぱり脚のない人間が残れるような、そんなチャンピオンシップだとね。レベル(選手の)をどんどん上げていくなら、キツいコースでやったほうがいいですよね」
総括としては大石さんのコメントを象徴するようなレースだった。が、序盤には昨年のディフェンディングチャンピオンである初山、2日前のタイムトライアルで4位に入った岡、NIPPOの内間らが落車の影響で早々にレースを去るなど、波乱を含んではいた。だが結果から振り返れば実力者同士の駆け引き、力のぶつかり合いが繰り広げられた全日本選手権だったといえる。
しかしながら惜しむらくは、前述の初山の落車、そして最終周の別府史之の落車だ。たらればはないが、別府にかんしては、最後まで諦めず、残り1kmで集団を捉え、2位スプリントを制するという、まさにプロのプロたるゆえんの走りを見せた。序盤から集団は別府中心に展開をしていたといっても過言ではないだろう。つねに先頭付近に位置し、集団を牽引する。いかにワールドツアーライダーといえども、先頭を引き続けるのは至難といえる。さらに各チームによる別府包囲網が展開された。レースの分岐点となったのは4周目のキナン、ブリヂストンアンカーらの攻撃だろう。10名ほどの先頭集団が形成されたが、そこに別府の姿がない。過去にはありえない状況だ。第2集団にもその姿はなく、その後方から必死の形相で追想する姿を確認した。
最終的に14位でゴールした高岡亮寛(Roppongi Express)によると、どうして遅れたのか、の問にたいして「調子が悪い」と応えたという。しかしその後はペース走で集団に復帰するなど、”諦めない”という気持ちの強さは頂点を目指すすべてのサイクリストが学ぶべき点といえるだろう。
意外性といえば優勝した畑中勇介の走りだ。筆者の認識では小集団のスプリントでは高い勝率を誇るが、エスケープするという手法は意外性があった。レース後のインタビューでは追いつかれても勝機がある、と話していたが、集団を引き離しての勝利は、選手として円熟を迎えたということだろう。あるいはチームに所属するスペイン人などの存在の影響もあるかもしれない。本場の生の声を吸収し、自らの糧とするのは選手として至極当然のことだ。
昨年と同様の3位に入ったのは木村圭佑(シマノレーシング)。近年、シマノレーシングは若手の育成というイメージが強かったが、今回はチーム力の強化も促進され、先頭集団にもっとも多い3名を送り込んだのは、チーム内プログラムの成功とも評価できる。木村のインタビューでは謙遜した発言が目立つが、虎視眈々と勝利を狙う意気込みが感じられた。
また結果こそふるわなかったが、NIPPOの小林海、小石の存在感はレース全体を通して確かなものを感じた。高いポテンシャルはもちろんながら、将来性を強く感じさせる選手たちをこのチームは揃えている。
ロードレースでは、コースへの適性はもちろん、センスや運が結果に反映されているが、加えて諦めないという強い気持ちも重要であるということに気がつかされた。
峠を上るのは辛い。だが前回の自分よりも1秒でも速くゴールへたどり着きたいという気持ちが重いペダルを回す力となる。それがサイクリングにもっとも必要な要素なのではないか、と改めて考えさせられた。
さて、以下に時系列に沿って写真でレースを追ってみよう。
序盤、フミ(別府史之)は集団の前方に位置する。有力チームはフミの一挙手一投足に過敏なまでに反応しているように見えた
筆者も本コースを実走したが上り下り、平地、そして景観とロードレースに適した要素を満たした”厳しい”コースという印象だ
4人が先行。前半は宇都宮ブリッツェンが積極的にカードを切ってきた印象がある
キナン、アンカー勢による波状攻撃に、別府の反応が遅れるという場面も
この攻撃でフミは第2集団の選手よりも先に脱落してしまったという
そんな中、フルタイムワーカーの森本誠(イナーメ信濃山形)が先頭集団から2名を引き連れ先行する
ラスト2周。絶妙なタイミングで抜け出しに成功した畑中。チームスタッフも残り2kmを切るまでは勝利を確信できなかったという、スリリングな展開
ラスト1周、フミを中心に活性化する追走集団。この後の下りでフミは落車し、バイク交換を余儀なくされる
約30kmを逃げ切った畑中。追走集団とのタイム差を2分に広げての勝利だ
2位集団のゴールスプリントはラスト1kmで集団に追いついた別府が制する
フルタイムワーカー最上位は14位の高岡亮寛。全日本選手権はあまり相性が良くないと言う。今回もレース自体はダメな展開だったと振返り、次回も挑戦すると意気込む
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関連URL:http://nationalchampionships-road.com/
著者プロフィール
山本 健一やまもと けんいち
FUNRiDEスタッフ兼サイクルジャーナリスト。学生時代から自転車にどっぷりとハマり、2016年まで実業団のトップカテゴリーで走った。自身の経験に裏付けされたインプレッション系記事を得意とする。日本体育協会公認自転車競技コーチ資格保有。2022年 全日本マスターズ自転車競技選手権トラック 個人追い抜き 全日本タイトル獲得