2024年07月29日
別府匠のツール・ド・フランス2024を振り返る 第1週目「初づくし」
こんにちは、別府匠です。
2024年ツール・ド・フランスを第1ステージから第21ステージまでの全ステージを、スタートからフィニッシュまで観たうえで、『各ステージごとの考察と感想』を元プロサイクリスト、チーム監督の経験という視点からまとめています。
第1ステージから立て続けにいろいろなドラマが生まれて、あっという間の3週間でした。
ここではその3週間行われたレースを1週間づつに分けてお伝えします。このレポートを読んでサイクルロードレースの奥深さに興味を持っていただけたら幸いです。
また各ステージごとのより深掘りした『考察と感想』はnote にまとめています。
アカウント:https://note.com/takk3
第1週 6月30日(土)〜7月7日(日)
イタリアからフランスへ
今年のツール・ド・フランスはイタリアでの3ステージからスタートしました。
第1ステージはトスカーナのフィレンツェからアドリア海側へ渡り、リミニにフィニッシュ、第2ステージはイタリアの伝説のヒルクライマー、マルコ・パンターニ選手の故郷チェゼナーティコをスタートしてボローニャにフィニッシュ、第3ステージはピアチェンツァをスタートしてトリノにフィニッシュしました。
そして第4ステージはピネローロをスタートして、レース中に国境を越えてフランスに入り、Valloireにフィニッシュ。第1週目はそこからトロワまでフランス東部を北上していくルートでした。
イタリアのステージでは選手たちは暑さに苦しめられていましたが、フランスに入ると今度は悪天候で気温が低く、雨と気温差に苦しめられていました。
『初』づくしの第1週
今年は、ツール史上初や、選手自身初など、第1週は『初』の目白押しでした。
第1ステージではTeam dsm firmenich Post NLのロマン・バルデ選手がチームメイトのフランク・ヴァンデルブルック選手と逃げ切りステージ優勝をあげて、意外にも自身『初』のマイヨジョーヌを獲得しました。バルデ選手は過去のツールでステージ優勝や総合の表彰台や山岳ジャージの着用経験はありましたが、マイヨジョーヌは初めてでした。またチームスポンサーがdsm Firmenichになってから『初』のツールでのステージ優勝になりました。
第2ステージではArkea B&B Hotelのケヴィン・ヴォークラン選手が『初』のグランツールでのステージ優勝をあげました。ヴォークラン選手はフランスジュニアロードチャンピオン、フランスU23タイムトライアルチャンピオンを経て、今年はフランス選手権エリートのタイムトライアルで2位と、タイムトライアルが得意な選手で、今回も逃げグループから独走に持ち込んで大きな1勝になりました。そしてArkea B&B Hotelのチーム創立後『初』のツールでのステージ優勝でした。
第3ステージではIntermarché-Wantyのビニアム・ギルマイ選手がエリトリア人として『初』、アフリカ人として『初』のステージ優勝をあげました。ギルマイ選手はこれまでワールドツアーでの優勝やジロ・デ・イタリアでのステージ優勝をしていたので、ツールでの優勝も時間の問題でしたが、ここでようやく取ることができました。またIntermarché-Wantyは2017年にWanty-Group Gobertとしてツール・ド・フランスに初出場して以来7回目の出場(2020年は未出場)で『初』ステージ優勝で、チームの歴史に新たな1ページを加えました。
またこのステージでは、EF Education-EasyPostのリチャード・カラパス選手が最後のスプリントの秒差でマイヨジョーヌを獲得。エクアドル人として『初』、EF Education-EasyPostとして『初』のマイヨジョーヌになりました。そしてカラパス選手はこのマイヨジョーヌで、全てのグランツールでリーダージャージに袖を通した『初』のラテンアメリカ人になりました。この日はチームとしてリーダージャージを取りに行く意思がとても強く出ていました。ここまでもう9回も『初』が出てきましたが、今年の『初』はまだまだ続きます。
第5ステージでは、とうとう伝説級の『初』が生まれました。Astana Kazakstan Teamのマーク・カヴェンディッシュ選手がスプリントでステージ35勝目をあげて、エディ・メルクス選手が持っていたツール・ド・フランス最多ステージ優勝数の34勝を越えました。誰もが達成できるかできないかそわそわしていましたが、第5ステージでその記録を塗り替えました。この日はカヴェンディッシュ選手のために構成されたチームもうまく機能していて、最後のスプリントでもカヴェンディッシュ選手の前に不思議と道が開く状態で、もう勝つべくして勝ったんだろうなと言えます。フィニッシュを見ていた自分も自然と両手が上っていました。そしてこのステージ終了時からIntermarché-Wantyのギルマイ選手がアフリカ人『初』のマイヨヴェールを獲得しました。
第7ステージは個人タイムトライアルが行われて、Soudal-Quickstepのレムコ・エヴェネプール選手が初出場のツールでステージ『初』優勝を飾りました。元々タイムトライアルが得意で世界チャンピオンにもなっているエヴェネプール選手ですが、ツール・ド・フランスという舞台で総合優勝候補のUAE Team Emiratesのタデイ・ポガチャル選手やVisma-Lease a Bikeのヨナス・ヴィンゲゴー選手、Red Bull-BORA-Hansgroheのプリモス・ログリッチ選手らを抑えて優勝したのは大きなインパクトになりました。しかも途中トラブルで脚を止めていた場面もあり、何事もなければもう少しタイム差を広げていたと思うと彼の潜在能力は計り知れません。
そして第9ステージではTOTAL Energieのアンソニー・チュルジス選手が今大会1週目の難関「白い道」のステージで、8名に絞られた先頭グループのスプリントを制して自身『初』のグランツールでのステージ優勝をあげました。これまでフランスのレースや2022年のミラノ・サンレモ2位などの成績がありましたが、ツールの、しかも「白い道」でのステージ優勝という大きな勝利を自身のキャリアに刻みました。TOTAL Energieとしても近年ステージ優勝がなかったので、嬉しい1勝になりました。
この第1週だけでも13の『初』の記録が残りました。そして各ステージを掘り上げていくと、その中でもいろいろなドラマがありました。各ステージの細かい内容についてはリンク先のnoteでご覧いただけます。
第2週は本格的に山岳ステージが始まり、個人総合争いが大きく動きました。その様子は次のレポートでお送りします。
著者プロフィール
別府匠べっぷ たくみ
神奈川県出身。愛知県在住。高校卒業後にTeam NIPPOのプロジェクトでヨーロッパに渡り自転車競技選手としてレース活動。帰国後は愛三工業レーシングチームの選手として国内・アジアのレースに参戦。選手引退後、同チームで監督を務め、UCIアジアツアーや全日本選手権の優勝をサポート。監督退任後はGCN Japanのプレゼンターとしてロードバイクの楽しみ方や機材についての情報を発信。現在はサイクリングエンスージアストとして文章や音声を使ってサイクリングにまつわるいろいろな情報を発信中。JSPO公認自転車競技コーチ3保有。