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2017年06月16日

晴れのち、激坂 【第11回東京ヒルクライムnarikiステージ】

新緑も眩しい5月28日(日)、第11回東京ヒルクライムnarikiステージが開催された。このレースは全5戦で行われる東京ヒルクライムシリーズの第二戦でもある。Narikiとは成木と書き、東京都青梅市北部に広がる成木地区を舞台にレースが行われる。

成木地区の面積は青梅市の20パーセントを占めるほど広大なのだが、人口は年々減少していて1,800名を下回っている。この状況を打破すべく生まれたのがこの東京ヒルクライムなのだ。規模としては300人程の大会なのだが、参加していただければ、イベントに関わる地元の方々の町おこしへの熱い想いを感じてもらえるはず。

コースは距離10kmで獲得標高600mというレイアウト。この数字からは小ぶりな峠のヒルクライムで、そんなにきつくは無い印象を受けるだろう。ただこのコース、スタートして半分ほどを過ぎるとでガラッと様相が変わる。前半5kmは平坦基調のなだらかな上り、集団で走行していれば上りだと分からないほどの緩やかさだ。つまり、残り5kmでほとんどの獲得標高を稼ぐことになる。上位入賞のためにはロードレースの戦略性と、クライマーの脚質の両方が求められるコースレイアウト。ひとつのレースでロードレースとヒルクライムが同時に味わえるのだ。

受付会場の成木市民センターへはJR青梅線、東青梅駅から自転車でゆっくり走って30分ほど。ちょうど良いウォーミングアップになる距離なので、輪行で参加する参加者も多い。ちなみに新宿からは約1時間。首都圏からのアクセスの良さもこのイベントの特徴だ。

スタート時間は10時と遅めなので、当日受付にはありがたい。開会式が始まっても会場に流れる空気は非常に穏やか、思い思いにストレッチをしたり、周りの選手と談笑したりと、レース前の悲壮感にも似た緊張感は皆無、思わず本当にレースがスタートするのか疑ってしまうほど。

ただそれも全員が整列し、カウントダウンが始まるまで。穏やかな雰囲気が一変、急速にレースモードになる会場。号砲とともに300人があっという間に飛び出していった。走力ごとに組み分けしてのウェーブスタートなので、1組目が1番速い。

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スタートは10時と遅め。参加者はリラックスした表情でスタートの時を待つ

この大会は賞金レースにもなっていて男女で総額20万円と、ちょっと他には無いご褒美が待っている。小規模なレースだが首都圏での開催だけあってレベルが高く、各地のヒルクライムレースで名を馳せた選手が大勢参加している。序盤の平坦区間は例年になく高速な展開。スタートしてすぐに脚自慢たちが先頭交代を繰り返して集団を絞りにかかる。そこから始まるアタック合戦でさらに小集団が作られる。

めまぐるしく伸び縮みする集団走行はロードレースを見ているよう。レベルにかかわらず、前半の5km区間の走り方、位置どりが後半の激坂区間での走りに直結していく。前半は脚を使わずに抑えて、後半に温存するのが定石なのだけれど、透き通るような清流成木川がそばを流れるコースは開放的で、肌に感じる風も気持ちがよく、ついついペースを上げてしまう。もしかしたら沿道で目を輝かせながら応援してくれる村人の応援も原因のひとつかもしれない。

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序盤はロードレースのような駆け引きが集団内で繰り広げられる

 

林道に入り、道が狭くなり集落も減ってくると、いよいよこのレースのもう一つの顔が見えてくる。林道を上りはじめて1kmほどで林道常盤線の看板が左手に見えてくる、ここからがnarikiヒルクライムの真骨頂。残り2.5kmの看板を過ぎるとコースの左右が高い木々に覆われ、むせ返るほどの新緑の匂いが立ち込める。コース上の最大斜度15%もこのタイミングで現れ、その後も平均勾配10%が続く、前半の平坦区間で脚を使った選手にはきつい時間が続くだろう。

まっすぐに伸びた壁のような急斜面、180度のヘアピンカーブ、前へ前へと背中を押してくれる応援太鼓の音が、5kmという短い上りを彩っていく。ラスト1kmは少し傾斜も落ち着き、ゴールに向かってひたすら我慢。この辺りからゴールの声援が聞こえ、最後に背中を押してくれるはず。

距離は短いがゴールする頃には、どの選手もみんなしっかり脚が売り切れるようになっている。派手さは無いけれど気持ちの良い達成感と、地元の人たちの温かいホスピタリティーの満足感は保証つきだ。次戦は7/30のokutamaステージ、興味を持たれた方は是非参加されてはいかがだろうか。

 

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応援の太鼓に背を押され激坂を駆け上がる

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ゴール地点では成木川の源流の冷たい湧き水と、ボランティアの方々の笑顔が

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下山してから会場で振舞われるおしるこはちょっとしたご褒美

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このnarikiヒルクライムがきっかけでできた青梅七中自転車部

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表彰台を独占する勢いの多摩高校自転車部


男子総合優勝 高橋利尚さん 

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壁のような急勾配区間に心を折られそうになりながらも、最後は得意な展開に持ち込みスプリントでの勝利。上位のライバル選手は、ブログなどで脚質、実力はチェック済みだったそうで、コースも動画サイトで確認してイメージトレーニングを怠らなかったという。実業団レースでも上位に名を連ねる高橋選手、脚質的にはクライマーでは無いと言いながらも23:59の素晴らしいタイムでコースレコードを樹立。シリーズ総合優勝にも期待がかかる。


女子総合優勝 樫木祥子さん 

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過去にokutama,hinohara両ステージの優勝経験があり、普段は実業団をメインに活動する樫木選手。今回のレースでは第1ウェーブの強豪男子選手に平坦区間から食らいつきライバルを引き離し、そのまま逃げ切り。2位に2分以上の差をつけての優勝。28:10は男子選手も顔負けの好タイム。今後もレースでの活躍が楽しみな選手である。


第11回 東京ヒルクライムNARIKIステージ

開催日:2017年5月28日(日)

コース:10km(標高差約600m)

大会HP:http://www.kfctriathlon.jp/html/event_bike.html#2009_nariki


(文・写真/小野口健太)

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