2025年10月21日
【2025宇都宮ジャパンカップ】留目夕陽、寺田吉騎、今村駿介 世界で戦う若手日本人の現在地

アジア最高位のワンデイレース「SUBARU LAYBACK presents 2025宇都宮ジャパンカップサイクルロードレース」が、10月17~19日、栃木県宇都宮市で開催。海外チームに所属し、今大会に出場した若手日本人、留目夕陽、寺田吉騎、今村駿介の3選手にジャパンカップと今シーズンの走りを振り返ってもらい、今後の目標についても聞いた。
留目夕陽「いつか日本一を獲りたい」
最上位カテゴリーのUCIワールドチームに所属する今季唯一の日本人選手、留目夕陽(EFエデュケーション・イージーポスト)は、19日のロードレース(宇都宮市森林公園周回コース)では22位で完走し、アジア最優秀選手賞を獲得。しかし、先頭集団での争いに加われなかったことに、悔しさを見せていた。

「今日のレースは去年と比べるとさらに高速化していて、過去最速のレースだったと思います。僕自身も優勝を目指して走っていたが、海外の選手と比べるとまだまだ劣るところがあるし、まだまだ成長するところがあった。もっと練習をして強くなれるチャンスがあると思いました」

ワールドチーム2年目となる今季は、1月にオーストラリアのワンデーレースで落車し、思うようなシーズンを過ごせなかった。
「シーズン最初にオーストラリアで不運な落車をして鎖骨を骨折し、そこからあまり調子が戻らなかったというか、自分の中でもフィットしなかったと思います。しっかりとトレーニングを積んだつもりだったんですけど、やっぱりヨーロッパはそれ以上にみんながトレーニングしていて、すごく厳しいシーズンでした」
チームとの契約は今季まででその去就が注目されるが、モチベーションは衰えることはないという。
「僕自身も自転車に対して嫌な気持ちだったりとか、もうやめようかなとは思っていない。このジャパンカップもツアー・オブ・ジャパンも日本にはレースがたくさんあるので、高いモチベーションで練習していました。まだ来年のチームは発表してないですが、まだまだ自転車を続けるつもり。来年は全日本も出ますし、いつか日本一を獲って、またチャンスがあれば、海外、国内ともに走りたいなと思います」

今後は、休学中の大学に復学することも視野に競技を続けるという。そして、この2シーズンでヨーロッパと日本の選手の意識の違いを感じ、学んだと語る。
「僕自身、EFで2年間走って海外のこともわかったというか、新城(幸也)選手や別府(史之)選手と比べるとまだまだですけど、2年間走れてよかったなと思います。特にワールドチームやプロチームのプロ選手は自転車に対する熱がすごくて、睡眠や食事など全部に専属のコーチがいたりします。あとシーズン中は友達とご飯へ行くのも遠慮したり、自転車以外は何もしない。絶対成長してやる、絶対レースに勝ってやる、プロの領域で絶対生き残るという熱量が、日本のチームと比べるとすごく高いです」
「僕もヨーロッパに住んでそれに感化されて、必要な時以外動かずに体力を温存して、次の日の練習を頑張るぞという意気込みで、しっかりとリカバリーをしていました。毎日、オーガニックのいい食べ物を買ったり、枕とかに投資して睡眠も最高の状態で自転車に臨みました。そのような熱量が日本とヨーロッパでは全然違うなと思います」
寺田吉騎「ワールドチームのジャージを着て、夢が叶った」
全日本選手権U23ではロードレース(2024年)とTT(2023年)のタイトルを獲得、昨年のツアー・オブ・ジャパンではポイント賞ジャージも手に入れた現在23歳の寺田吉騎。今季はシマノレーシングからバーレーン・ヴィクトリアスのディベロップメントチーム(育成チーム)に移籍した。
今回のジャパンカップはワールドチームに初めて抜擢。大会前日の16日夜にチームと合流し、選手やスタッフとも初対面した。その中でクリテリウムは70位完走、ロードレースは後半にリタイアとなった。

「クリテリウムとロードレースの2日間だけで、自分のコンディションはよかったけど、レースのレベルが高かった。ベストは尽くせたから、頑張ったって言いたいです。このワールドチームのジャージを着て走る、それも(新城)幸也さんが所属していたチームだから特別ですね。だから、この2日間楽しめたし、満足しています。僕の小さいころからの夢が叶ったようで、家族も喜んでくれている。もちろんこれで終わりじゃないんで、まだまだ先は続くし、これからも頑張っていきます!」
海外チームながら、拠点は日本に置いて活動していた寺田。「レースに呼ばれて、1週間ぐらい前に(欧州に)行って時差ボケ解消とコンディション調整して、レースを走って、帰ってくる」というシーズンを送っていたという。
「最初は大変で、コミュニケーションや雰囲気に慣れなくて緊張したり、うまく馴染めるか不安なことが多かったんですけど、シーズン後半は馴染めたんで、終わりよければすべてよしって感じです。レース自体は日本と走り方も別物。もちろん日本のレースもちゃんときついし、向こうのレースもきついけど、慣れていったら馴染めるし、来シーズンにはいいかたちで入れると思います」

練習も基本的に日本で行い、選手としての幅を繰り広げるためにトラックの練習にも精力的に取り組んでいる。と同時に、力を入れていたのが言語の勉強。かつてフランスで武者修行し、フランス語には不自由しない寺田だが、今年は英語の習得に励んだ。
「言語の勉強はオンラインでしていました。シーズン初めはあまりしゃべれなかったんですけど、後半はしゃべれるようにもなってきました」

今回のジャパンカップはほんの数日間のワールドチーム帯同だったにもかかわらず、鍛えた英語力と持ち前の明るいキャラクターでチームに溶け込んだ。ロードレースでレニー・マルティネスがチームにジャパンカップ初勝利をもたらした中で、寺田はムードメーカー的存在となっていた。
「今回、フランス人のチームメイト(マルティネス)もいて、僕はフランス語の方がよくしゃべれるし、今は英語も同じぐらいしゃべれるようになったんで、仲よくできました。みんながすごく優しいので、レースは集中しつつそれ以外は楽しく過ごせたので日本のチームにいるのと同じような雰囲気でやれました」

オフシーズンも精力的に動き、来シーズンに備える。
「実は、来週のJプロツアー(群馬CSS、10月25日)もエントリーしています。今シーズンはそんなにレースが多くなかったので、まだちょっとモチベーションがあるから、ちょくちょく出られるレースは出ようかなと思ってチャレンジします」
今村駿介「ロードでできないことをできるようになりたい」
今季からアンテルマルシェ・ワンティの育成チームであるワンティ・NIPPO・リユーズに加入し、初の海外移籍を果たした今村駿介は、ワールドチームのメンバーとして18日のクリテリウムのみ出場した。
「初めて走ってすごく楽しかったですし、ここで勝ちたいなっていうのはありました」

昨年まで所属したチームブリヂストンサイクリングでは、ツール・ド・北海道でのステージ2勝(2022年)をはじめ、Jプロツアーなどでも数々の勝利をマーク。トラック競技でもジュニア時代から活躍し、2023年世界選手権ではオムニアムで銅メダル、昨年のパリ五輪にも出場した。
今シーズンはロードレース中心に取り組み、欧州のレースに加えて国内レースにも参戦し、ツール・ド・熊野ステージ優勝、全日本選手権TT優勝と結果を残している。
「他の選手に比べると少ないですけど、僕にとってはレース数の多い1年を過ごしました。落車しないようにとか、前できなかったことが次はできるようになりたいとか、そういうことを考えながら、1レース1レースこなしてました」
ワールドチームにもたびたび帯同し、「ステージレース1つとワンデーを5レースで、1番大きいレースが1.PROカテゴリーでした」と経験を積んだ。
「少しでも力になれるように、チームのために自分の仕事をするという意識は持っているつもりだったので、何かできることを必死に探してました。基本エースの近くにいて、前半の逃げにトライしたり、逃げが決まったら(集団が)落ち着いた後のチームのポジション取りだったり、チームが前に上がるタイミングで1番最初に脚を使うのが僕の役割でした。最初にイタリアのアブルッツォのステージレースに帯同させてもらったのは大きかったです。自分のリザルトがなくても、仕事ができたことが自信になります」

ヨーロッパの選手と身近に過ごすことで、多くのことを学んでいる。
「普段、選手たちがどういう風に過ごしているのか見えるようになると、親近感も湧きますし、遠い存在ではないとも感じる。こういうところは真似しないといけない、こういうところは意外とルーズなんだと学んでいい経験させてもらいました。例えば、ここ数年栄養戦略が変わってきているので、こんなに糖質を摂るんだとかも勉強になりました」
今はロードレースを強くなりたいという向上心が、今村の中では大きいという。
「トラックもそうですけど、ロードをもっと頑張りたいという意欲がある。今そこに集中して、できないことをできるようにしたいし、上に行きたい気持ちがあります」

著者プロフィール

光石 達哉みついし たつや
スポーツライターとしてモータースポーツ、プロ野球、自転車などを取材してきた。ロードバイク歴は約9年。たまにヒルクライムも走るけど、実力は並以下。最近は、いくら走っても体重が減らないのが悩み。佐賀県出身のミッドフォー(40代半ば)。