2018年06月26日
【CLIMB JAPAN】鳥海山を往復ビンタ! 鳥海山ブルーラインヒルクライムfrom日本海レポート
やって来ました鳥海山! 秋田県と山形県に跨がる独立峰でその標高は2236m。日本海から聳え立つ姿は威厳が漂います。この鳥海山を駆け上がる「鳥海山ブルーラインヒルクライムfrom日本海」は6月16日に秋田県側(にかほ市)を上り、翌17日は山形県側(遊佐町)からと2日間かけて競うというヒルクライムでは珍しいステージレース。景色や名産品に思いを馳せながら芦田昌太郎さんとFUNRiDEの小高の2人で挑戦してきました。
参加者は両日合わせて約300名。もちろんどちらか1日だけの参加も可能で、選手・スタッフのお人柄の良さが滲むアットホームな大会。この舞台を借りて今回は2人とも同じ機材「LOOK 785HUEZ RS」で挑むという直接対決を実施。それぞれの視点からレースレポートをお届けします。
1日目、にかほステージは
五里霧中のヒルクライム
<芦田-side>
まずは初日。秋田県にかほ市からスタートする「にかほステージ」。こちらは19.7kmで獲得標高1150m、平均勾配7.5%とタフなコース。しかし生憎の空模様で、スタート地点こそ曇りで持ちこたえるも、鳥海山はすっかり雲に覆われている。道中はウェットと覚悟を決めていざスタート!小集団に交ざって2kmほど上って行くと今度は約3kmの緩やかな下り区間に。ここで後方からの速いトレインに反応した小高くんのアタック。対する私は乗り遅れて単独走に……。その後、本格的な上りに入り何とか視界に小高くんの姿を捉えるも、勾配が緩くなると逃げる。急坂になるとまた捕捉。このままじわじわ詰めてゴール1km前くらいで追い付けばイケる。そんな手応えを感じながら、しばらくすると霧が立ち込めて辺りは真っ白に。あれ?彼の姿が見えない。残り5kmは視界も15mほどしか効かず、前方の霧の中から現れる選手を追い抜くも、見知ったジャージが居ない…。まずいぞ。少しペースを上げて逃げた小高くんを追って行く。初参加で試走も出来ていなかったので、コースを覚えていないという不安を募らせながらもひたすら進んでいく。それにしても途中、勾配10%の看板をいくつ通りすぎただろうか……何度となく襲ってくる急坂に苦しめられつつもゴールが近づいてくる。このコーナーを曲がれば、このストレートを上ればヤツがいるはず。そう自分を鼓舞しているうちに残り1kmの標識を通過。しまった…。今日は小高くんお得意の「黄金のタレ」が炸裂していないみたいだ。スパートしたくても、こちらも余力がなく結果は48秒差……。「悔しい~!!」。それでも不思議と笑顔になれるのは、ヒルクライムの魔力ですね。濃霧のレースというのも幻想的で楽しいものでした。
さて、上ったあとは下山。こんな天候だと下山は恐ろしいのですが、この鳥海山ブルーラインヒルクライムは自転車での下山が禁止。選手は予め自家用車をゴール地点に停めてスタート地点までバスで降りるか、ゴール後にバス下山(自転車はトラックで運んでくれます)となっているのです。こんな天候の時には素晴らしいシステム。自転車は1台ずつ毛布で丁寧に覆ってしっかり固定してくれるので安心です。下山したあとは、選手には温かいうどんが用意されていて冷えた身体に染み渡っていたようで表彰式にも多くの方が参加していました。地域密着型レースのぬくもりを感じた瞬間です。
スタート直後から芦田さんがペースを作る
霧雨のなか小高を追う芦田さん
<小高-side>
さて、今回は芦田さんとの対決ということで、どうしたら勝てるかなと考えながら駐車場で準備をしていたら、心拍計を東京に忘れてきたことに気づく。いきなり動揺したが、相手に悟られないように冷静を装う。そんなこんなをしている間にレースはスタート。今まで富士ヒルに向けて一緒に練習してきたので、芦田さんの方が上りが速いことは百も承知。一定ペースで走り続けたら勝ち目はないので、一手を打つ必要がある。
スタートから約2kmほどの上りですでに、1m、2mとじわじわと差を広げられる。ムムム、このままだと完敗確定だ……。2kmを過ぎたあたりから平坦と下り区間が約6kmほど続くにかほステージ。後方から1分差でスタートした別年代の速いトレインが横を通過。芦田さんがそのトレインを見送ったのを確認して、ワンテンポ遅れながらもトレインに飛び乗る。 脚は結構いっぱいいっぱいだったが、幸いローテーションする感じではなかったので、おとなしくトレインの最後尾で走らせてもらう。シメシメ、本格的な上りに入る前にアドバンテージをゲットできた。約9kmすぎ本格的な上りに差し掛かるとトレインも崩壊し(というか一人だけ置いていかれ……)、そこから残りの9kmはほぼ単独走行。頻出する「勾配10%」の標識に心を折られかけながらも、「おそらくどこかで芦田さんに捕まるだろう、そこからが勝負だ」と、少しだけ力を温存したまま、ひたすらペダルをこぎ続ける。道幅いっぱいに走ることができたので、勾配の緩いコーナーでは最短距離を、勾配のきついコーナーでは外側いっぱいをと、走るラインも柔軟に変え、少しでもリードを保てるように意識しつつフィニッシュを目指す。芦田さんの出現にビクビクしながらも残り1kmを通過。これはひょっとして行けるかも? それまではまったく後ろを確認せずに走ってきたが、そこで初めて後方を確認。まっっっ白で何も見えません(笑)。
しばらくすると前方に警備員の姿がうっすらと浮かびあがり、どうやらゴールラインが近いよう。よし、勝った! と、最後はダンシングで追い込み、フィニッシュラインでガッツポーズを決めようと思ったら、小野口カメラマンはフィニッシュ地点におらず……。
レースこそ勝ったものの、この日は霧と雨雲が立ち込めて、せっかくの絶景はお預け。明日こそは鳥海山を拝みたい!
鳥海山ブルーラインヒルクライムfrom日本海の特徴として、主催者の用意したバスか自家用車での下山が義務付けられている。トラックへの自転車の積み込みも丁寧なので、安心だ
2日目、遊佐ステージ
鳥海山、最高!
<芦田-side>
地元の名物を食べ、ゆっくり疲れを癒した翌17日。前日とは打って変わって晴天。鳥海山の全貌は望めないものの、走っているうちに山頂付近の雲も立ち消えていく模様。
2日目となる「遊佐(ゆざ)ステージ」は全長15.7km、獲得標高1050mで平均勾配は7%と初日よりも緩め。とは言え、海岸線から五合目まで駆け上がるのでキツいコースなのは間違いない。
この遊佐ステージは受付会場から全員で5km先のスタート地点まではパレード走行。スタート地点でのセレモニーの後、ウェーブ毎に号砲が響き渡る。前日の48秒のビハインドを取り返すべくスタートから早めのペースの選手達に付いていく。次第に2~3人の小集団に分散し、私が付いたのは前日の女子の部優勝を果たした選手を含む5人のパック。速い…ちょっと苦しいです…このトレインを諦めて後ろをチェックすると小高くんがしっかりと付いてきているではないか。「Project75シルバーへの道」の練習中はこのペースだと付いて来られなかったはずなのに…何故だ。確実に速くなっているぞ。苦しいのが悟られないようポーカーフェイスで上っていると、まさかの平坦区間。昨日の記憶が甦る。すると小高くんがまたもやアタック!私も即座に反応。すぐにコースは上り基調になり我々の攻防も小康状態に。しかし、この後も勾配の緩む箇所が所々にあり、その度に小高くんとの距離が少しずつ離れていく。なかなかペースが上がらない。これが2日間に渡るレースの苦しさなのか。脚が重いし呼吸もつらい。木々の中を抜けながらコース脇に目をやると、眼下に広がる日本海。嗚呼、素晴らしい景色だ。これが見たかったのだ。雪渓の残る山と大海原、突き抜ける青空。つづら折りの道に新緑の木立…。いかん、レース中だった。苦しさに現実逃避している間にライバルの姿が前方に消えてしまった。同じ機材で負けたら洒落にならない。うしろのウェーブから追い上げてくる選手を乗り継いで追うことに決め、時には助けられ、時には牽いてを繰り返しラスト3km地点。まだ捕まえられない。ダンシングの割合が増え、ほぼ全開で追う。後ろにはピッタリと付いてくる選手がひとり。彼を牽きながら追いかける。四合目の大平山荘のカーブを曲がったところで前方が開けた。緩い下りと平坦路の先にゴールが見える…終わった。この瞬間心が折れそうになるも、ここで諦めたら格好悪い。最後までは踏むんだと言い聞かせ力を振り絞り1時間3分でゴール。
五合目駐車場まで行くと、力を出し切ってM字開脚で座り込んでいる小高くんの姿が見える。お前はインリンか!くそぉ、爽やかな笑顔じゃないか。悔しいけれどお互いの健闘を讃えつつ、2日間走りきったことに大きな達成感が込み上げてくる。そして終盤を私と一緒に上った選手が声を掛けてくれた。同じゴールを目指した「仲間」になれた瞬間。これだからヒルクライムはやめられない。
そして、このあとに最高のご褒美が待ち受けていた。さっきまで鳥海山に掛かっていた雲は消えていき、山肌には雲が生み出す緑の濃淡の影。遥か先まで続く日本海を見下ろしながら左を向けば庄内平野の田園風景が広がる。絶景とはまさにこの事。疲れも苦しさも、昨日の悪天候でさえもこの一瞬で全部吹き飛んでしまう。鳥海山、最高!
そして二人の同機材対決は小高くんの完勝。レース後に聞いたところ、2日目のラストの下り区間で勝利を確信したとのこと。しかも下りのストレートは「鬼踏み」したらしい。私は前日と同じ轍を踏み、完全な負けレース。もし再対決の機会があれば、次こそは勝利の美酒に酔いしれたい。
スタート前、参加者全員で記念撮影!
集団を形成しペースを作る芦田さん
2日目は鳥海山の姿もくっきりと見ることができた
<小高-side>
さてさて、2日目は遊佐ステージ。朝からホテルのお風呂にゆっくり浸かって、体調は万全!どころか少し気だるい……(笑)。1日目の48秒のアドバンテージがあるので、今日は負けても最後までついていければ、合計タイムでは勝つことができるという有利な展開。今日のレーステーマは「ザ・金魚の糞」。芦田さんを徹底マークして、泥臭く勝ちにいくことに。
スタートから芦田さんの後ろにぴったりつき、芦田さんのペースで上っていくと、やはり少し苦しい……。自分のペースで走れないと終盤までついていけないかもしれない。困ったなあと思っていたところで、本日も平坦区間が登場。一瞬悩んだが、昨日の良い展開の再現を信じて、本日もアタック! ただ昨日とは違い、単独でのアタックだったので、ダメージもでかい……。昨日の疲労からか、お尻もなんだか痛い。ペースもうまくあがらないが、たまに速い集団が後方から通過するときには数秒でもいいから後ろに付いて、ちょっぴりずつタイムを稼ぐ。芦田さんに追いつかれたときにそのまま先行されないよう、耳をそばだて、追い越していく選手に気を配りながら進む。
途中、眼下に広がる日本海は2日目にしてやっと出会えた感があり、大いにパワーをもらう。フィニッシュまで残り2.5km。突如として現れた下り区間。芦田さんにはまだ追いつかれていない! これは勝った! 勝ちを確信したら力もみなぎり、下り区間をアウタートップで踏み抜く。ラスト1kmの上りをなんとかやりすごし、1時間2分でフィニッシュ!
レースならではの駆け引きがうまくいって2日とも勝利という結果に。1日目の下見のときから食べようと決めていた、山頂売店のアメリカンドッグも勝利という調味料で、すこぶるうまい(笑)。
2日間ともメインレースを行うヒルクライムイベントは全国でも珍しく、秋田県と山形県という2つの県にまたがって開催されるというのも、非常にレアだ。おまけにどちらのコースも走り応え十分。フィニッシュ後に眼前に広がる残雪残る鳥海山の青々しい姿と真っ青な日本海のコントラストには思わず感嘆の声を上げてしまうだろう。地元にしっかりとイベントが根付いており、温泉や旅館、売店などいろいろなところで、「がんばってね」と温かく声をかけていただいたのも印象深い。土曜日のレースは午後からなので、遠方からの参加も可能。ぜひ2日間ともに参加して、秋田県にかほ市と山形県遊佐町そして鳥海山を満喫してほしい。私たちのように仲間同士で競い合うと、より楽しいかもしれない。
短い平坦区間を利用して、アタックした小高
優勝争いは中盤まで三つ巴の戦いが続いた
表彰式&アフターパーティでは軽食(1日目はうどん、2日目はカレー)も無料で振舞われた。抽選会も行われ、「鳥海山カレー」が当たりにっこり
鳥海山チャンピオン
齊藤雅仁さん(郡山サイクルフレンズ)
にかほステージを制し、遊佐ステージは惜しくも2位だったものの、2ステージの総合優勝も果たした齊藤雅仁さん。にかほステージでは、2位に約3分の差をつけての快勝だった。
(にかほステージ優勝後)「自分でペースを作って走ることを心がけました。本格的な上りに入るまでに距離があるので、そこまではアップと考えて体力を温存して走りました。途中から視界不良でめがねも曇ってしまい、めがねを外して走ったのですが、目が悪いのでメーターの数値も見れず……(笑)。気づいたらゴールしていました。4年連続4回目の出場ですが、2日とも走るのは今回が初めてです。」
斉藤 侑生さん(ハヤサカサイクルRT)
齊藤雅仁さんの完全優勝を阻み、遊佐ステージを制した斉藤 侑生さん。
「知人に紹介してもらって、このイベントのことを知り、今回初めて参加しました。2位に入った齊藤雅仁くんとは一緒に練習したこともあり、強いことは分かっていたので、彼を意識して走りました。序盤アタックを何回か仕掛けて人数を減らしてから、残り3kmの下り区間で一気にペースを上げるという作戦がうまく決まりました。今朝、車で山頂まで行ったときに仕掛けどころをチェックしていたので、思い通りの展開を作れてよかったです。普段は実業団レースを中心に走っているので、今後はそちらでも上位を目指してがんばっていきたいです」
星 恵莉奈 さん(TEAM KOME)
両ステージとも女子の部で圧勝。男子選手に混じって前方でレースを展開する姿が印象的だった星さんは、今年から本格的にヒルクライムレース参加し始めたとのこと。「自転車仲間に教えてもらって、TEAM KOMEのメンバーと一緒に参加しました。鳥海山を上るのは初めてで、どちらのコースも勾配もきつく距離も長いので大変だったんですが、2日目は快晴で眺めも良くて、すごい達成感がありました。今後はノリクラと台湾KOMチャレンジに挑戦したいと思っています」
鳥海山ブルーラインヒルクライムfrom日本海 HP ⇒ http://www.nikaho-kanko.jp/hill-clim/
LOOK 785HUEZ RSインプレッション
「疾風迅雷クライミングバイク」
トレビアン!フレーム730g、フォーク280gとバイク自体も軽いのだが、ヒルクライム時に体感できる「軽さ」はそれ以上。ダンシングの反応は素晴らしく、シャキシャキと上る感覚は流石としか言いようがない。そして、強みはヒルクライムだけかと思いきや、その性能はオールラウンドに感じることができる。どんな局面でもしっかりとコントロールが効くのは超軽量且つ高剛性のフォークのおかげだろう。個人的に気に入っているのは、この外観。スマートでシンプル。無駄のないデザインにフランスのエスプリがしっかりと詰まった上質で秀逸な1台だ。(芦田)
「シンプルさに感じるLOOKの凄み」
普段LOOKの795 AERO LIGHTに乗っているが、その極めて特徴的なフォルムと比較すると、 785 HUEZ RSの至極シンプルな姿は、果たして同じブランドのバイクなのかと一瞬ひるんでしまうほど。ジオメトリーは両モデルほぼ同じであるのに、「エアロ」と「クライミング」というそれぞれの目的に対して大きな振れ幅の最適解を導き出すLOOKに凄みを感じてしまう。さっそく785に乗ってみるとクライミングバイクらしい軽快さに心躍る。自分のスタミナなんて無視して、思わずダンシングでどこまでも加速してしまいたくなる。これだけ軽さを感じると、下りが不安定だったりする場合もあるが、そんな心配も一切無用だった。懐の広さを感じる安定感はさすがLOOKといったところだろうか。平地の巡航性能に関していえば、やはり795のほうに軍配が上がるが、ディープリムホイールを選択すれば785の巡航性能に不満を感じる人は少ないだろう。個人的な好みでいえば、あまり高剛性すぎないホイールを選択したほうが、フレームの強みをより引き出せる気がした。ヒルクライムはもちろん、グランフォンドやロードレースでも間違いなく活躍できる。(小高)
785 HUEZ RS
価格:380,000円(税別)※フォルトゥネオ チームレプリカは480,000円(税別)
サイズ:XS、S、M、L、XL
重量:1,010g(Sサイズ フレーム730g+フォーク280g)
カラー:プロチームマット、ブラックリフレクトマット、フローレッドグロッシー、フォルトゥネオ チームレプリカ
HP:http://www.eurosports.co.jp/bike/785_huez_rs.html
フォトギャラリー
(写真/小野口健太)
著者プロフィール
芦田 昌太郎あしだ しょうたろう
俳優。富士ヒル90分切りの中級クライマー。表紙の女性モデルに惹かれ初めて買った自転車雑誌がfunride。以来、大会MCを務めるなど縁が続く。